党勢拡大運動の破綻を外交日程の消化で覆い隠すことはできない、志位委員長は党勢拡大運動の失敗を第29回党大会はどう総括するのか、共産党はいま存亡の岐路に立っている(その13)、岸田内閣と野党共闘(78)

 2024年元旦の赤旗を開いて驚いた。1面トップに「東アジアの平和構築へ、東南アジア3カ国、発見と感動の9日間、志位委員長が新春緊急報告」と題する大見出しが躍っているではないか。「6面につづく」とあるのでめくってみたら、6面から9面まで全てが「新春緊急報告」で埋まっている。これほどの大特集は見たこともないが、それが「新春緊急報告」として編集されるのだから、それなりの意図はあるのだろう。リード文には次のような趣旨が記されている。

 ――どうやって東アジアを戦争の心配のない平和な地域にするのか、昨年来、インドネシア、ラオス、ベトナムの東南アジア3カ国を訪問し、東アジアの平和構築にむけ精力的な外交活動を展開した日本共産党代表団(団長・志位和夫委員長)。どんな交流、探求がおこなわれ、どんな手ごたえ、収穫があったのか――志位委員長がその一部始終を緊急報告します。

 

 志位委員長は冒頭、訪問目的について「東南アジア3カ国を12月19日から27日までの日程で訪問しました。東南アジア諸国連合(ASEAN)は粘り強い対話の努力を続け、この地域を平和の共同体に変え、その流れを域外に広げて東アジア全体を戦争の心配のない平和な地域にするための動きを発展させています。ASEANの国ぐにの努力を生きた形でつかんで、東アジアに平和をつくる日本共産党の『外交ビジョン』をさらに豊かなものにしたい、日本のたたかいにも役立つ知見を得てきたい、さらい可能な協力を探究してきたい、これらを目的にして訪問してきました」と語っている。NGOや民間団体が国連や各種の国際会議で積極的な外交活動を展開する時代であり、野党外交の必要性も十分理解できる。ただ問題なのは、「なぜいま外交日程なのか」「なぜいま緊急報告なのか」ということだ。

 

 臨時国会の閉幕後、昨年12月19日に東京地検特捜部が自民党安倍派事務所と二階派事務所の強制捜査に着手して以降、メディア報道は自民党の政治資金(裏金)疑惑一色となり、国内政治は大混乱に陥って国会内外では連日緊急集会が開かれている。国民世論も疑惑解明で沸騰し、国内政局は自公政権の正統性をめぐって紛糾している。往年の「リクルート疑獄」にも匹敵すると言われるそんな国内情勢が展開している中で、志位委員長は国内情勢の混乱を目の当たりにしながら、なぜか東南アジア3カ国の旅に出発したのである。そして党内では次期大会を控えて党勢拡大運動の破綻に直面している時、「毎日がワクワクする発見と感動の9日間」(赤旗元旦)を東南アジア3カ国で過ごしたのである。

 

 外交日程が準備に時間を取られることは周知の事実である。しかし、安倍派のパーティー資金を巡る疑惑は早くから政治課題となり、東京地検特捜部の捜査が近くに迫っていることは誰でも予測できた。それでいながら、なぜこんな時期に外交日程を組んだのか。そこには第29回党大会を控えて、志位委員長が共産党による国際活動への期待を掻き立て、その舞台を東南アジア3カ国に設定したことが読み取れる。党勢拡大運動の破綻など党内情勢が一段と深刻さを増しつつあるとき、そのはけ口として党内の目を海外に向けさせることが指導部に対する批判を逸らし、責任を回避する方便だと考えたのであろう。

 

 私が注目したのは元旦の赤旗ではなく、12月の党勢拡大の成果を報じた前日の大晦日の記事だった。見出しは「赤旗読者 連続前進、日刊紙893人増、日曜版2231人増、入党は690人」というもの。これだけ読むと何だか前進しているように見えるが、昨年1年間を通してみると実態は真逆でそれどころではない。2023年1月から12月までの1年間で日刊紙と日曜版が増えたのは僅か4カ月だけ、残りの8ヶ月は全て減紙となっている。このため機関紙拡大運動は2度にわたる「手紙」で催促したにもかかわらず、過去1年間の実績は日刊紙6733人減、日曜版3万7631人減、電子版348人増となり、「拡大」はおろか「現状維持」もままならない無残な結果に終わったのである。

 

 前回の第28回党大会(2020年1月)時の党員は27万人余、赤旗読者は100万人だった。党員10万人増、赤旗読者30万人増を目標とする「130%の党づくり」が提起されたのはその時であり、党創立100周年(2022年7月)までが目標期限だった。しかし、志位委員長の幹部会報告(赤旗2023年1月6日)によれば、2023年1月現在の党員現勢は約26万人、3年間で1万人余(年平均3350人余)減少している。この間の入党数は1万1364人(年平均3782人)なので、逆算すると死亡+離党数は2万1000人余(27万人余+1万1346人-26万人、年平均7100人余)となり、すでに入党数の2倍近くに達していた。

 

 党員現勢は、入党数が毎月公表されるだけで死亡数は大会でしか公表されない。また、離党数はこれまで公表されたことがない。唯一の手がかりは、赤旗訃報欄に毎日掲載される死亡数だが、これも死亡数の全てが掲載されるわけではない。第28回党大会における過去3年間(第27回~第28回党大会)の死亡数は1万3823人(年平均4608人)、赤旗掲載数は5257人(年平均1752人、筆者算出)、掲載率は38.0%だった。第28回大会から現在に至る4年間の赤旗掲載数は7442人(年平均1860人、同)、掲載率38.0%とすると、過去4年間の死亡数は1万9584人(7442人×100/38、年平均4896人)となる。この4年間の入党数は1万7128人(年平均4428人)なので、死亡数だけで入党数を上回っている。ちなみに昨年大晦日では15人が一挙に掲載され、その中には志位委員長の母堂(96歳)の名前も含まれていた。亡くなった日は12月26日だったので、27日に帰国した志位氏は母親の死に目に会えなかったことになる。

 

 離党数は公表されていないので、以下の計算式で算出した。2020年1月から2022年12月までの3年間の離党数=27万人余+入党1万1364人-死亡1万4680人(4896人×3)-26万人=6684人余(年平均2228人余)となり、前大会以降の過去4年間の離党数は8912人余(2228人余×4)となる。したがって、2024年1月現在の党員現勢は、27万人余(2020年1月)+入党1万7128人-死亡1万9584人-離党8912人余=25万8632人余となり、4年間で1万1000人余減少することになる。

 

 いずれ詳しい分析を紹介したいと思うが、今回はこの4年間の赤旗掲載数7442人の内訳を概数で示そう。死亡者の基本属性は、(1)性別、(2)死亡年齢、(3)入党年、(4)在住地の4項目である。なお在住地は、①北海道・東北、②関東、③中部、④近畿、⑤西日本に5区分した。

 (1)性別は、男性5105人(68.6%)、女性2337人(31.4%)となり、ほぼ2:1となっている。

 (2)死亡年齢は、69歳未満475人(6.4%)、70歳台2011人(27.0%)、80歳台2994人(40.2%)、90歳以上1962人(26.4%)と80歳以上で3分の2を占める。

(3)入党年は、1959年以前1146人(15.4%)、1960~1979年4434人(59.6%)1980~1999年734人(9.9%)、2000年以降1128人(15.1%)で、60年代から70年代にかけて入党した人が6割を占める。しかし、2000年以降が15%を占めていることは、党員拡大の穴埋めとして活動家の近親高齢者が入党対象者になったことを窺わせる。

 (4)在住地は、北海道・東北1090人(14.6%)、関東2511人(33.7%)、中部1074人(14.4%)、近畿1661人(22.3%)、西日本1106人(14.9%)で、関東と近畿で過半数を占める。

 

 第29回党大会では東南アジア3カ国歴訪の緊急報告もさることながら、この4年間の党勢拡大運動の総活が真正面から問われることになる。志位委員長は、例によって「政策は間違っていなかったが、自力(党員の頑張り)が足りなかったので、党勢が後退した」というだろう。だが、こんな方便はもはや通用しない(もし通用するなら、共産党は支持者はもとより国民全体から見捨てられるだろう)。政治家は出処進退の見極めが大切である。志位氏が道を誤らないことを祈るばかりである。(つづく)