〝赤旗発行の危機〟を訴える炎天下の党勢拡大運動は成果を挙げたか、党創立102周年の7月は〝目標水準〟を達成できなかった、共産党はいま存亡の岐路に立っている(その31)、岸田内閣と野党共闘(96)

 「生命の危険に関わる暑さ」とNHK気象予報が厳重警告を発するなかで、共産党はこの間創立102周年を契機とする拡大運動を全党に呼びかけ、党員拡大と読者拡大を連日追求してきた。この拡大方針は、第29回党大会(2024年1月)で決定された「2年後までに第28回党大会現勢の27万人の党員、100万人の赤旗読者を必ず回復・突破する」「5年後までに第28回党大会時比『3割増』の35万人の党員、130万人の赤旗読者の実現を達成する」「この方針を達成するため今年7月末までに、①毎月2万人以上に働きかけ、2千人以上の党員を迎える、②毎月1200人の日刊紙読者、6000人の日曜版読者の増勢をはかる、③党員拡大の6割、7割を青年・学生、労働者、真ん中世代で迎える」(目標水準)というものである。

 

 党員と赤旗読者を「3割増」にするというのは、もともと第28回党大会(2020年1月)の決定事項だった。しかし党勢は逆に縮小し、4年後の第29回党大会には党員25万人(2万人減)、赤旗読者85万人(15万人減)に後退した。この結果、それをカバーするための目標が上積みされ、今後5年間に党員10万人拡大、赤旗読者45万人増勢という大きな目標が課せられることになった。これを月平均にすると、党員は2千人以上(2千人×60か月=12万人)、赤旗読者は7200人(7200人×60か月=43万2千人)も増やさなければならないことになる。

 

 これまでも幾度となく指摘してきたように、共産党の党勢拡大方針は「拡大」を追求するだけで「後退」の実態や原因は明らかにしようとしない。第28回党大会以降の4年間の党勢の差引は、党員27万人(2020年1月現勢)+入党1万6千人-死亡1万9814人-離党者=25万人(2024年1月現勢)というものであり、離党者数は1万6千人と推察される。つまり入党者と同規模の離党者が発生しており、死亡者数2万人がそのまま党員減少につながっているというわけである。だが、離党者数がこれだけ膨大な規模に膨れ上がっているにもかかわらず、党大会はもとより赤旗でも離党者問題は一切議論されていない。というよりは、離党者問題自体があたかも存在しないかのように取り扱われ、議論することが「タブー視」されているのである。

 

 このことがどれほど異常な事態であるかは、一般企業の場合を例にとればすぐにわかることだ。新入社員と同数の現役社員が辞めていくような会社に未来があるとは到底思えない。第一、そんな会社は新入社員を獲得することが至難の業になる。現役社員がどんどん辞めていくような会社は、組織や経営に大きな問題があることは明白なので、そんなところに自分の人生を託したいなどとは誰も思わないからだ。経営者もそれが十分わかっているので、社員の離職防止に必死になる。待遇を改善し、働き甲斐のある職場にするための努力をしなければ、会社が潰れてしまって生き残れないことを知っているからである。

 

 世間一般の常識からすれば、離職者が大量に発生するような事態は組織存続に関わる一大問題であるだけに、内部から問題解明の声が上がり、組織内での集会や討論、第三者委員会による調査などを通して原因が究明されて対策が講じられるのが通例である。ところが共産党の場合、党中央をはじめ赤旗も離党問題には「ダンマリ」を決め込み、問題の存在すら明らかにしようとしない。それどころか、「党内の問題は外部に持ち出してはならない」とする〝民主集中制〟の組織原則によって党内外の横断的な組織改革の声や行動を封じ込め、場合によっては「分派活動」と見なして処分さえ行われる。自由な情報交換や議論が行われれば、党組織の権威主義的・閉鎖的問題点が明らかになり、組織改革を要求する声や行動が高まることを恐れているからだろう。

 

 かくして赤旗では党中央の拡大方針が連日怒涛の如く流され、それに従う声や行動だけが紙面を埋め尽くして批判的な声は一切取り上げられないことになる。組織改革の芽が〝民主集中制〟の組織原則によって摘み取られ、党中央からの指示が組織の隅々にまで行きわたるようになると、心ある党員に残された手段は離党しかないことになる。〝離党〟という行動を通してしかメンバーが意思表示できないような組織は未来に向かって発展することが不可能になり、大量の離党者が党勢後退の一大要因になっているのはこのためである。

 

 もう一つの後退要因である死亡者数の増加は人口動態法則に基づくもので、高齢化した党組織の下では今後の死亡者数の増加は避けられないということである。2020年の日本人平均寿命は81.6歳(社人研『人口統計資料集2024』)なので、それを超える高齢者比率が高い組織は、死亡者数が今後継続的に増加することになる。共産党が死亡者数を公表するようになってからの推移は、2000年代3万3442人(9年2カ月、年平均3647人)、2010年代4万5539人(10年、年平均4554人)、2020年代1万9814人(4年、年平均4954人)と着実に増加している。2020年1月~2023年12月(4年間)の死亡者数は1万9814人、同期間の赤旗党員訃報欄(筆者算出)と比較すると、掲載数7442人(平均死亡年齢83.3歳)は死亡者数の37.6%に当たる。2024年1~7月の掲載数は1163人、年換算では1994人(1163人×12/7)になり、掲載率が同じだとすると死亡者数は今年末で5300人(1994人÷0.376)程度に達するものと思われる。2020年代全体を通してみれば、今後死亡者数は着実に増えていくので、年平均5千500人を下回ることはまずないだろう。

 

 以上の考察から、5年後に35万人目標(10万人拡大)を達成しようとすれば、死亡者数2万7500人(年平均5500人)と離党者数2万人(同4千人)を織り込まなければならず、拡大目標は14万7500人(10万人+2万7500人+2万人)に膨れ上がる。これは年平均3万人、月平均2500人の拡大になり、目標水準(月2千人)を「超過達成」しなければ実現不可能な数字である。しかし、2024年1月以降7か月の入党者数は3499人(7月648人、月平均500人)であり(赤旗8月2日)、目標水準の僅か4分の1、死亡者数や離党者数を織り込めば5分の1でしかない。入党者数がこれからも月平均500人前後で推移する場合は、5年後の党員現勢は、25万人(2024年1月現勢)+入党3万人-死亡2万7500人-離党2万人=23万2500人(2028年12月現勢)となり、党勢後退はさらに進むことになる。

 

 一方、赤旗読者数は日刊紙350人増、日曜版467人増、電子版67人増となり、7月になって漸く増勢に転じた。大会・2中総決定推進本部は「7月に日刊紙・日曜版の前進をかちとったのは6年ぶり、日曜版で料金改定を実施した月に増勢となったのは歴史上初めてのことです」(赤旗8月2日)と自画自賛している。だがこの数字は増減すれすれの水準であって、このまま増勢が継続するのか、それとも息切れして再び減勢に落ち込むかは予断を許さない。党中央の厳しい点検に耐え切れず、地方機関が締め切り間際に「期限付拡大」をカウントすることがよくあるからである。まして今回は日曜版の値上げを伴っているだけに、その影響が今後どのような形で表れてくるかについては予測がつかない。大幡機関紙活動局長は、前回の日曜版値上げの影響を次のように語っている(赤旗7月19日)。

 ――2018年に日曜版の値上げを発表したときは、値上げ後半年足らずで日刊紙約1万部、日曜版約5万5千部を後退させ、増収分のすべてを失いました。今回、これを繰り返せば、大げさでなく「赤旗」の発行は不可能になりかねません。

 

 それにしても大会・2中総決定推進本部は、7月の赤旗増勢を「鬼の首」でも取ったように喜んでいるが、大会決定は「毎月1200人の日刊紙読者、6000人の日曜版読者の増勢をはかる」というものであって、7月の増勢分は微々たるものにすぎない。本来の目標水準からすれば、今年1月から7月までに日刊紙8400部(1200部×7)、日曜版4万2000部(6000部×7)を増やさなければならないが、それが日刊紙350人部(目標水準の4%)、日曜版467人部(同1%)というのでは、「鬼の首」が泣くというものである。

 

 赤旗の現状は〝発行の危機〟という言葉で表現されるほど深刻を極めている。6月12日に日曜版購読料を7月分から1カ月930円(税込み)を990円(同)に60円値上げすることが発表され、7月に入ってからは赤旗編集局長と機関紙活動局長の緊急の訴えが相次いで出された。「社会の変革と真実の報道のために『しんぶん赤旗』記者を緊急募集します」(小木曾編集局長、赤旗7月4日)、「党創立記念の月、7月を『赤旗』発行危機打開の転機をひらく月に」(大幡機関紙活動局長、7月19日)、「いま『赤旗がなければ...』、この思いを一つに」(小木曾編集局長、7月21日)などである。これらの中でも私が注視したのは、小木曾編集局長の「赤旗記者の緊急募集」である。

 

 赤旗記者の緊急募集は、現役記者の急激な退職が相次いでいるからだという。内部事情に詳しいジャーナリスト(複数)の言によれば、記者たちの取材が最近は紙面に反映されなくなり、「面白くなくなった」「嫌気がさした」ので辞める人が急に増えてきたのだそうだ。そう言えば、これまでも赤旗には志位議長発言がことさらに大きく取り上げられ、政治経済、社会面の記事がその分削減されてきた。とりわけ7月に入ってからというものは、一面トップで全紙を使った大宣伝が続いていて、『志位議長新著』の宣伝記事オンパレードとなっている。

 〇「人間らしく生きたい」、全ての人にマルクスのメッセージを届けたい、『Q&A共産主義と自由――「資本論」を導きに』、志位議長が出版発表会見(7月11日)

〇『Q&A共産主義と自由――「資本論」を導きに』に込めた思いについて、志位議長の会見から(7月12日)

〇(書評)志位和夫著『Q&A共産主義と自由――「資本論」を導きに』(長久学習・教育局次長、7月18日)

〇『共産主義と自由』を学び語り、青年・学生党員拡大を飛躍させよう(青年・学生委員会、7月20日)

〇『自由な時間』運動発展を(全国都道府県職場支部援助担当者会議、7月24日)

〇8・9月――『未来社会論』の学習の夏に、志位議長講義掲載の『前衛』積極的に活用しよう(学習・教育局、8月1日)

〇『自由な時間』という提起そのものが深く響き合う、志位議長が労教協役員と懇談、新著『Q&A共産主義と自由』(8月2日)

 

 『志位新著』をまるでマルクス主義の解釈に「世紀の大発見」でもしたかのように大宣伝し、党勢拡大のバイブルのように持ち上げる赤旗に対しては、現役記者ならずとも多くのジャーナリストや識者が心底辟易している。出版広告や書評欄であればまだしも、それが僅か14ページの日刊紙の主要紙面を占めるとなると、ジャーナリズムとしての赤旗の社会的価値は激減するし、記事を書く方も読む方も「面白くない」「嫌気がさす」というものである。小木曾編集局長は「タブーなく真実を伝える『赤旗』の存在、役割はいよいよ大きくなっています。それは、社会変革の事業をすすめる日本共産党にとって絶対不可欠な『生命線』であると同時に、日本社会の健全な発展、民主主義にとっても欠かせない存在です」(赤旗7月4日)と力説するが、その存在価値を日々減じているのが『志位新著』の大宣伝ではないのだろうか。(つづく)