人口減少時代における「持続可能型モデル」の必要条件、「民主集中制」(党規約)の廃棄と党首公選制の実現が求められる、共産党はいま存亡の岐路に立っている(その5)、岸田内閣と野党共闘(70)

本論に入る前に、党勢拡大大運動の直近の進捗状況をみよう。赤旗(11月3、4日)によれば、小池書記局長は全国都道府県委員長会議(オンライン)で10月の党勢拡大の到達点について「党員拡大は680人、機関紙拡大では日刊紙(電子版含む)は前進、日曜版は123人の後退」と報告した。ちなみに、今年1月から9月までの拡大運動の成果(赤旗で各月3,4日掲載)はすべて実数で報告されてきたが、今回は日刊紙だけがなぜか「前進」というあいまいな表現になっている。実数を公表できない裏に何があるのかわからないが、統計数字に基づかない分析などあり得ない以上、今回の報告はそれだけで「失格」というべきだろう。

 

これらのことを前提に、今年1月から10月までの拡大成果を合計すると、入党4364人、日刊紙(電子版含む)7582人減+「前進分」、日曜版4万1049人減となる。10ヶ月を通してみれば、日刊紙は増紙3カ月と減紙7か月、日曜版は増紙2カ月と減紙8ヶ月となって、その後退傾向は覆うべくもない。以下は、各月の結果である。

・1月、入党391人、日刊紙339人減、日曜版208人減、電子版86人増

・2月、入党470人、日刊紙203人増、日曜版2369人増、電子版2人減

・3月、入党342人、日刊紙1197人減、日曜版8206人減、電子版26人増

・4月、入党146人、日刊紙4548人減、日曜版2万3104人減、電子版8人減

・5月、入党230人、日刊紙945人減、日曜版7048人減、電子版11人増

・6月、入党234人、日刊紙628人減、日曜版3930人減、電子版60人増

・7月、入党641人、日刊紙約40人増、日曜版247人増、電子版約20人増

・8月、入党621人、日刊紙247人減、日曜版448人減、電子版18人増

・9月、入党609人、日刊紙170人減、日曜版598人減、電子版37人増

・10月、入党680人、日刊紙・電子版「前進」、日曜版123人減

 

すでにこうなることを予測していたのか、小池書記局長は10月20日、「緊急の訴え」(赤旗10月21日)で次のように述べている(要約)。

 ――昨日までの党勢拡大の現状は、9月同日に比べて入党申し込み者113%、日刊紙112%、日曜版121%。「130%の党」への「第1ハードル=党大会現勢の回復・突破」のためには、このテンポを5倍、10倍に引き上げることが必要。直視すべきは、今週に入って取り組みの勢いが落ちていて、福岡県のように連日成果をあげている先進的経験が生み出されている一方、10月に入って入党ゼロの県も10県ある。読者拡大も全国的に先週とほぼ同水準で推移しており、先週も今週も9月に比べて変化がないという県も少なくない。

 ――この事態をそのままにしておくならば、党大会現勢の回復・突破は言葉だけになってしまう。とりあえず掲げているだけになってしまう。ましてや、党大会まで3カ月、9中総を受けてギアチェンジしなければならないのに、結局先月と同じような結果になりかねない。

 

党勢拡大報告で注意すべきは、赤旗読者数は増減数が示されているが、党員数は入党者数のみで死亡者数と離党者数がわからないことだ。ただし、2000年代から党大会ごとに死亡者数が公表されるようになり、第22回党大会(2000年11月)から第25回党大会(2010年1月)までの9年2カ月間の死亡者数は3万3532人、第25回党大会から第28回党大会(2020年1月)までの10年間は4万5539人である。ここから年平均死亡者数を割り出すと、2000年代は3657人、2010年代は4554人となる。党員数の減少にもかかわらず死亡者数が着実に増えているのは、高齢者比率の上昇によるものであり、2020年代の年平均死亡者数が5000人を超えることはまず間違いないだろう。

 

一方、離党者数については一切公表されていないので推測するほかないが、志位委員長の幹部会報告(赤旗2022年8月2日、23年1月6日)によれば、2023年1月の党員現勢は約26万人で、2020年1月の27万人余から3年間で1万人余減少したことになっている。この間の新入党者は1万1364人なので、差引すると死亡者数・離党者数は2万2千人余(年平均7600人余)と推定され、年平均死亡者数を5000人とすれば離党者数は年平均2600人程度になる。

 

 要するにここで言いたいことは、党勢拡大報告における入党者だけの公表は一種の「大本営発表」(戦況を正確に報道せず、「勝った」「勝った」の数字ばかりを並べた旧日本陸軍の宣伝活動)のようなもので、赤旗だけを読んでいると如何にも党員数が増えているような錯覚に陥るが、死亡者数と離党者数という「背後の数字」と読み合わせると、今年の入党者数が後2カ月の奮闘で6000人台に到達したとしても、党員数は2000人台の減少になることは免れない。

 

随分前置きが長くなってしまったが、本論に入りたい。さすがの赤旗も「𠮟咤激励」ばかりでは効果が出ないとでも考えたのか、「緊急の訴え」から2日後の赤旗(10月23日)には、「食べて歌って語ったJCBサポーターまつり」の特大記事が掲載された。1面トップの見出しは〝楽しく政治を変えたい〟というもの。紙面の随所に「対話」「問いかけ」「トーク」「若者を引き付ける発信」など見出しが溢れ、小池書記局長や田村副委員長がハッピを着て盆踊りの輪に加わる姿や、志位委員長が蝶ネクタイのバーテンダー姿でカクテルをつくる写真なども大きく出ている。この間、党勢拡大大運動を推進するには「鬼気迫る提起」や「革命政党の気概」が必要だとして、赤旗はまるで戦時体制下を思わせるような檄文で紙面を埋め尽くされていた。ところがこの日は紙面がガラリと変わり、「食べて歌って楽しく政治を語る」場となったのである。連日の党勢拡大運動に追われてきた赤旗読者は、いったいどのような気持ちでこの特大記事を受け止めたのだろうか。

 

 先日、久しぶりに集まった関西の口喧しいオールドリベラリストたちの間でも、蝶ネクタイ姿の志位委員長の姿をどう見るかで議論が大いに盛り上がった。「志位嫌い」を自認する某は、「あれは単なる人気取りのパフォーマンスだ。見苦しいと思わないか!」と一言の下に切って捨てたが、別の1人は「それでも彼は苦労している。そうでもしないと人が集らないからだよ」と案外同情的だった。議論はこの2人の間でとめどもなく行き来したが、ふだん見慣れない雰囲気がわれわれ(シニア世代)に複雑な気持ちを抱かせたことは間違いない。「なんだかすっきりしない」「こんなことをこれからもやるんだろうか」などなど、帰り際に図らずも交わした言葉がいみじくもそのことを物語っていた。

 

 「衣の下の鎧(よろい)」という言葉がある。戦いを前にすでに鎧で身を固めながら、その上に衣をまとって普段と変わらない平静さを装うという「演出=パフォーマンス」を意味する言葉だ。私はその場では口に出さなかったが、彼らの議論を聞きながらあれこれとこの言葉の意味を考えていた。なぜなら、志位委員長らが党内では「鎧姿」の党勢拡大一本やりの厳しい姿勢で臨みながら、党外のサポーターの前では蝶ネクタイのバーテンダーというソフトな「衣姿」で登場しなければならない状況に、いまの共産党が直面している深刻な矛盾(裏と表を使い分けなければならない党内と党外のズレ)があらわれていると感じていたからである。

 

 もう少し詳しく説明しよう。志位委員長を取り巻く目下の厳しい状況は、党勢拡大を基調とする「成長型モデル」がもうとっくの昔に破綻しているというのに、その現実を直視すれば政治方針上の誤りを認めることになり、自分への責任追及はもとより延いては「民主集中制」に基づく党体制の瓦解へ波及する恐れがあるため、党内ではハードな「鎧姿」でいつも通りの方針を繰り返さざるを得ない――というものである。といって、「鎧姿」では党外のサポーターにアピールするはずもないので、蝶ネクタイのバーテンダーという「衣姿」を装って変身し、「対話」や「問いかけ」をするというソフトな演出をすることになったのだろう。つまり、現在の世の中の流れに合わせようとすれば、対話や問いかけを通して市民に働きかけるほかなく、赤旗で連日強調しているような「鬼気迫る提起」や「革命政党の気概」はもはや通用しなくなっていることが明らかなのである。

 

 こんな党内と党外の「ズレ」を放置したままでは、それが「大きな壁」となり「高いハードル」となって党勢拡大運動が難渋することは目に見えている。その所為か、最近では2カ月後の次期党大会を目前にして、これまで掲げてきた「(前大会比)130%の党づくり」の目標がいつの間にか「130%の党への第一ハードル=党大会現勢への回復・突破」に切り下げられ、新たな大号令が発せられるようになった。しかし、それとても容易でなくなってきている現状の下では、「3割増の党勢拡大」の目標が「1割減の党勢後退」の実績に終わる可能性が極めて大きい。これを次期党大会でどう総括するかは目下のところ不明だが、もしもいつもの調子で「政治方針は正しかったが、党内のやる気が足りなかった」との説明で切り抜けるようなことがあれば、党内は乗り切れても党外からは「もう終わり」と切り捨てられることが確実だろう。

 

これは「イフ?」の話であるが、党内外を通して「志位体制支持率」の世論調査が行われれば、おそらくその支持率は岸田内閣の支持率と同じく(地を這うような)史上最低の水準にあることが判明するに違いない。この意味で〝党首公選制〟は政党党首の適格性を判断するための不可欠のシステムであり、これなくしては独裁体制の恒常化を防ぐことができない。また、党首公選制を実現するには「民主集中制」を組織原則とする党規約の刷新(廃棄)が前提となる。戦時共産主義体制下の軍事命令を根源とする「民主集中制」が(文面を少し変えただけで)いまなお共産党の組織原則・行動原理として機能していることには驚くほかないが、それをあれこれの理由を挙げて維持しようとする権威主義的体質にはさらにのけぞるというものだ。窺った見方をすれば、志位委員長が党首公選制を(あくまでも)忌避するのは、それが自らの(低)評価につながり、退陣に結びつくことを恐れているからではないか――とも言える。

 

「持続可能型モデル」とはどんなものか。一口で言えば、赤旗がJCBサポーターまつりで掲げた〝楽しく政治を変えたい〟ということを本気で目指す政党づくりのことだと考えてよい。言い換えれば、「成長型モデル=党勢拡大一本やり」という鎧を脱ぎ捨てて平服に「衣替え」することであり、党内外のズレをなくすことである。広範な国民が自公政権(岸田内閣)に心底愛想を尽かしている現在、また「自民崩れ」の民主党政権への一時的な宿替えが幻想に終わったことを国民が実感している現在、市民と野党共闘のなかで掲げた政策の愚直な実行を通して政治改革を持続的に追求することであり、市民と野党共闘が将来の〝変革〟につながることを確信し、ブレずに改革姿勢を貫くことである。

 

そのためには、何よりも共産党が国民の信頼に足る「言行一致」の政党であることを示すことが求められる。共産党への批判を「反共攻撃」とみなし、「党勢拡大こそ反共攻撃に対する最大の回答」などと党員や支持者を駆り立てることは、結果として党員や支持者の「視野狭窄」の弊害を招き、共産党の閉鎖的で偏狭的なイメージを一層拡大することになり、「赤く小さく固まる」孤立主義に陥ることにしかならない。そのためにも、党の権威主義的体質を抜本的に刷新し、党規約を改正して「民主集中制」を廃棄し、党首公選制を実施して、党内外のズレをなくさなければならないだろう。(つづく)