京都市は京都弁護士会の意見書を尊重しなければならない、理を尽くした意見書を無視すれば、さらに市民の反発を招くだろう(その1)、コロナ禍でも突き進む京都観光(番外編6)

 

2021年6月25日付けの京都弁護士会意見書、「仁和寺門前の『(仮称)京都御室花伝抄計画』についての意見書」(以下「意見書」という)を読んで、改めて京都弁護士会は立派な仕事をしていると思った。京都弁護士会は、これまでも京都のまちや景観を守るうえで数多くの意見書を提出し、また個々の弁護士たちが市民のまちづくり運動を積極的に支援するなど、その存在感には目を見張るものがある。

 

京都市の審議会や委員会には数多くの専門家が名を連ねているが、弁護士の数はそれほど多くない。法律上どうしても意見を求めなければならない場合を除いて(建築審査会など)、市当局が弁護士を起用するケースが少ないからである。学者の中には専門領域を超えてまで多数の審議会・委員会を渡り歩く人物が見られるが、市の顧問弁護士ならともかく、弁護士の場合はそのようなケースは見られない。

 

 意見書の内容について入る前に、京都市から公開されている「広報資料、上質宿泊施設候補の選定について」(2021年4月19日)を見よう。まず第1に注目されるのは、「上質宿泊施設候補選定のための有識者会議」5人の顔ぶれである。座長は市観光振興審議会常連の大学教授、副座長はホテルプロジェクトアドバイザー、その他は市観光協会幹部などすべてが業界関連メンバーで占められている。当然のことだが、「上質宿泊施設」は旅館業法に基づく宿泊施設の一種であり、それを建築基準法などにより宿泊施設の立地や建設が規制(禁止)されている地域にも広げようとする〝規制緩和〟の産物にすぎないからだ。

 

この選定会議は「有識者会議」などという尤もらしい名前が付けられているが、は、その中身は、宿泊施設の立地規制や建築規制などを緩和するための御用会議にすぎない。要するに、市民には学術的検討をしたように見せかけるため「有識者会議」などと称して会議を開催するが、結局はあれこれ理屈を並べて「ゴーサイン」を出すための仕組みなのである。つまり「有識者会議」が組織される段階で、すでに市当局の方針は決まっており、それをオウム返しに追認する「有識者」を揃えれば、それでことは終わりなのである。

 

 「京都市上質宿泊施設誘致制度要綱」には、もっぱら観光振興の視点から次のような要件が記されている(要約)。

 (1)市は、宿泊施設の立地が制限されている区域(住居専用地域、工業地域、市街化調整区域)において、地域活性化、京都経済の発展に貢献する宿泊施設を「上質宿泊施設」として誘致する。

 (2)上質宿泊施設候補要件(共通要件)は以下の通り。

・山間地域など周辺地域の魅力を最大限に活用した計画であること

・長期の事業計画であり,安定した雇用の創出など地域経済や活性化に寄与するものであること

・地域住民との意見交換・合意形成がなされた地域と調和した計画であること

・市内産品・サービス(伝統産業製品,市場流通・市内産食材,市内産木材等)を活用した計画であること

・その他市の方針や政策(防災,福祉,環境対策)に寄与する計画であること

(3)各施設タイプの主な要件

・ラグジュアリータイプ、上質な宿泊体験やサービスを提供し,京都の奥深い魅力や文化を堪能できる宿泊施設

・MICEタイプ、MICE機能をはじめ,地域産業活性化に寄与する機能を持った宿泊施設

・地域資源活用タイプ(オーベルジュタイプ,歴史的建築物タイプ)、特にその場所や建物の特性などの地域資源を活用したサービスを提供する施設

 

ここには、「上質宿泊施設」が歴史的文化財や世界文化遺産の保護政策に抵触することはまったく想定されていない。関連する市の方針や政策として取り上げられているのは、防災、福祉、環境対策だけであって、歴史的文化財や世界文化遺産との関係については一切触れていないのである。このことは、「上質宿泊施設」が文化財保護政策には抵触しないことを条件に、規制緩和される宿泊施設であることを意味している。

 

 ところが、「上質宿泊施設候補選定のための有識者会議」は、京都市上質宿泊施設誘致制度要綱の規定に反して、世界文化遺産緩衝地における「上質宿泊施設候補選定」の協議を行った。歴史的文化財や世界文化遺産に関して協議する資格のない「有識者会議」が、世界文化遺産緩衝地における上質宿泊施設選定に関する協議を行い、あまつさえゴーサインを出したことは、越権行為そのものであって行政上の正統性は何ら担保されていない。以下、その不当極まる協議内容を紹介しよう(要約)。

 

 (1)今回の計画は、周辺住民の理解と協力を得るため、事業者が2017年10月に仁和寺門前まちづくり協議会と協議を始め、2018年5月の協議会総会で承認された。事業者は、周辺住民から示された住環境や景観等の保全に関する意見に対して計画を変更するなどの意見調整を重ねた。

(2)一方、世界文化遺産仁和寺の環境を考える会から京都市長宛に「世界文化遺産仁和寺周辺地域の景観と住民の生活環境を守る要望書」が2019年9月に提出された。また、2019年12月には京都・まちづくり市民会議から市長宛に「世界文化遺産仁和寺門前のホテル計画に関する公開質問書」が出される等,ホテル計画の中止への賛同を募る活動が続けられた。

(3)懸案だった計画地の利用を巡って長年活動してきた仁和寺門前まちづくり協議会の努力を思うと、今回,計画中止を求める意見がでていることはたいへん残念である。事業者の努力だけでは乗り越えるのは難しいが,周辺住民に対して説明と意見調整を粘り強く重ねてきたこれまでの努力と、上質宿泊施設候補の選定後も説明を続け、意見を聴き、地域貢献に取り組んでいくと宣言した姿勢は評価できる。

(4)事業者は、この計画において真言宗御室派総本山仁和寺門前に建つがゆえに総本山への敬意を払うとともに、御寺の支援の下、参拝等を通じて宿泊客の崇仏の念に応える取組を提案している。京都、御室仁和寺門前に固有の伝統と文化を理解し、その門前に立地することをよく理解した上で、地域の伝統的特質の継承を目指す姿勢は上質な宿泊施設として期待できる。

(5)この計画では,事業者と設計者が京都市の定める「京都市優良デザイン促進制度」による専門家のアドバイスを受け,「事前協議(景観デザインレビュー)制度」の歴史的景観アドバイザーと協議し,建物デザインを検証し,世界文化遺産・仁和寺とその周辺への影響を抑え,優れた景観を創出する努力を続けてきた。これらの制度は,1994年の世界文化遺産登録後,京都市が1995年の市街地景観整備条例制定,2007年の新しい景観政策として,全国で初となる眺望景観創生条例を制定し,2018年に同条例を改正するなど発展させ,市民・関連事業者と協議を重ね,進化させた制度であり,世界遺産の緩衝地帯にふさわしい建築デザインを実現する制度である。この計画の事業者は,その点を理解し,再三にわたり計画変更を重ねている。

(6)とは言え,この計画建物は3階建ながら,用途地域の制限の3千㎡を上回る,建築基準法の用途の許可が必要となる建築物であり,周辺に長く住む住民に懸念があることは確かである。また,市内では,この間急激に増加した観光客が,新型コロナウイルス感染症の拡大により急減し,ホテル建設の是非を巡る意見がでている。しかしながら,世界文化遺産・古都京都の文化財は,適切に保存しつつも,周辺住民と京都市民が独占すべきではなく,日本人はもとより世界人類にも広く公開すべきものである。古都京都の文化財の公開を通じて,世界の人々が京都に集い,文化や習慣の多様性を認め合いながら自由に交流することは,世界人類の相互理解,ひいては世界平和につながる。このことは十分理解されていると考える。

 

 まるで、事業者の「お抱え有識者会議」ともいうべきズブズブの内容であるが、これに対して京都弁護士会は如何なる意見表明をしたか、次回はその内容を紹介しよう。(つづく)

イタリアのベネチアがオーバツーリズム(観光公害)で「世界危機遺産」に登録勧告、京都の世界文化遺産も仁和寺前ホテル建設計画で同様の運命に、コロナ禍でも突き進む京都観光(番外編5)

 1987年に世界文化遺産に登録されたイタリアの「ベネチアとその潟」に対し、ユネスコ(国連教育科学文化機関)の諮問委員会は2021年6月21日、同地域を危機にさらされている世界遺産「危機遺産」のリストへの登録を勧告した。危機遺産とは、武力紛争、自然災害、観光開発などにより「普遍的価値を損なう重大な危機」にさらされている世界遺産のことを指すが、イタリアの「ベネチアとその潟」が遂にその仲間入りをしたのである(TBSニュース、6月23日)。

 

ベネチアは、かねてから観光目的のための建物改造や大規模なインフラ整備など、「人類の歴史上重要な時代を例証する建築様式、建築物群、技術の集積または景観の優れた例」(世界文化遺産登録基準4)の破壊が急速に進んでいた。住宅を宿泊施設に改築するいわゆる「民泊ホテル」の激増、大型クルーズ船の就航にともなうレジャー施設の開発、潟一帯の生態環境の破壊など、往年のベネチアの面影が日に日に壊されていくと多くの市民は嘆いていたのである。

 

この状態に対してユネスコの諮問委員会は、ベネチアはもはやその限界に達したと判断し、今回「危機遺産リスト」(現状が改善されなければ世界文化遺産登録が取り消される)に加えることを勧告した。諮問委員会は、調査報告書の中でその理由を「極度に多い数の観光客が街の収容力や住民の生活の質と密接に関係し(その容量を超え)、この土地の『普遍的価値』を脅かす主な要因となっている」と指摘し、「いくつかの問題は改善されてきたが、重大な問題が未解決のままだ」として勧告に踏み切った。「危機遺産リスト」への登録は、来月の世界遺産委員会で議論される予定になっている。

 

私がこのニュースを知ったのは、中京区の登録会館で開かれたシンポジウム「京都の歴史遺産、過去・現在・未来―京都にはもうホテルはいらない」の翌日のことだった。6月27日朝8時からのテレビ番組「サンデーモーニング」を見ていると、その中でベネチアの世界危機遺産入りのニュースが紹介され、あまりの偶然に驚いたのだった。なぜかというと、前日のシンポジウムでは仁和寺前ホテル建設計画に関連して、数多くの世界危機遺産の事例が報告されていたからである。

 

当日のシンポジウムの様子をもう少し詳しく紹介しよう。「歴史的文化財と観光公害―仁和寺前ホテル計画の中止を―」と題して講演されたのは、環境政策の泰斗であり学士院会員の宮本憲一先生。宮本先生は91歳のご高齢でありながら、京都の現状と未来を案ずるあまり、「仁和寺前ホテル計画の見直しを求めるアピール」の呼びかけ人になられ、今回のシンポジウムでも講演を引き受けられた。

 

講演の中で、宮本先生は「歴史的文化遺産は現状維持保存が原則」とする視点からこう訴えられた。

「歴史的文化遺産は保蔵文化財・建築物の歴史的な文化財としての価値によって決まるだけでなく、緩衝地の自然・景観・周辺のたたずまい・町並みとの調和=原風景によって選定されている。歴史的文化遺産の環境アセスメントは緩衝地の価値が中心である。文化遺産の本体と緩衝地域は一体となって選定されている。したがって、原則として、建造物などの文化財の保存と同時に緩衝地の重大な変更を禁じ、原則は選定時の形状維持である。例えば彦根城が歴史的遺産に選定されなかったのは、緩衝地が城下町の街並みを破壊していたためである。それほど歴史的文化遺産にとっては緩衝地と一体化した原風景が貴重なのである」

 

「今回の門前ホテルの建設計画は後述のように歴史的文化遺産とは全くかかわりのない現代的宿泊施設であり、仁和寺が選定された時の原風景維持にそぐわないものである。後述のように京都市の「上質宿泊施設候補の選定について」などの市当局の審議過程は、歴史的文化遺産の保持を主とした理念ではなく、京都市の観光宿泊客増加、富裕層観光客の優先誘致、外国観光客の増加誘導という観光収入増大の目的を主体として、これまでの規制を緩和したのである。このためにこの門前ホテル計画は千年の古都を保存し、歴史的文化遺産を世界に誇るという崇高な政策理念ではなく、経済主義の観光事業に偏していると言わざるを得ない」

 

短い文章ながら、ここには世界文化遺産における緩衝地の重大な役割が端的に指摘されており、その緩衝地を破壊して建設計画を強行しようとする民間業者及びこれと結託している市当局の不当性が余すところなく暴露されている。いわば、世界文化遺産を食い物にして観光事業を展開しようとする民間業者の企みを「上質宿泊施設誘致制度」という政策で覆い隠し、市当局が率先して緩衝地の破壊に手を貸している有様がここでは鋭く告発されている。

 

加えて、注目すべきはシンポジウムの前日(6月25日)、京都弁護士会の機関決定として、弁護士会長名で「仁和寺門前の『(仮称)京都御室花伝抄計画』についての意見書」が出されたことである。宛先は京都市長、京都市建築審査会会長、京都市美観風致地区審議会会長の3人である。次回は、その内容を報告する。(つづく)

ポストコロナ戦略のない観光政策ではこの難局を乗り切れない、コロナ禍でも突き進む京都観光(番外編4)

 

観光学者でもなく経営学者でもない私が、京都の観光需要の落ち込みについてあれこれ言うのは慎まなければならないと思う。ところがその一方、京都市の観光政策について物言う研究者がいないのはおかしい―とも思うのである。市の観光関係の審議会や有識者会議に出ている常連メンバーは、市役所のなかでは活発に議論するが市民の前には滅多に出てこない。「市民に対する発言は謹んでほしい」とでも言われているのだろうか。

 

門川市政(2008年~)がスタートしてから今年で13年目、新型コロナパンデミックが発生してから2年目になる。門川市政は4期目(2024年)で終わるが、このままでは晩節を全うするのは難しい(できそうにない)。同じ状況にありながら、1期目の西脇京都府知事にはなんとなく余裕が感じられるのに対して、後のない門川市長の顔はいつも引きつっている。よほどストレスが強いのだろう。

 

門川市政は、第2次安倍政権(2012年~2020年)の「観光立国政策」とともに歩いてきた(というよりは、そのお先棒を担いで突っ走て来た)。官房長官時代の菅氏ともよしみを通じ、門川市政は観光立国政策の表舞台に立ち続けてきたのである。この上意下達の構造が、京都の観光政策を縛っている。国の方針が変わらない限り、市の観光政策も変更できない仕組みが出来上がっているからである。

 

菅政権は、今回発表した「骨太の方針」においても「2030年6000万人」のインバウンド目標は変えていない。最近閣議決定された「観光白書」においても、この目標は金科玉条のごとく掲げられている。だとすれば、門川市政が国の意に反してインバウンド目標のダウンサイジングに繋がるような政策を打ち出すことができない。具体的な数字目標を挙げることは避けているものの、観光政策の基調が依然として国の「2030年6000万人」に合わせて設定されているので、観光客の制限や宿泊施設の縮小を大胆に打ち出すことができないのである。

 

門川市政が国の「下請け」になる中で、市の審議会や有識者会議の顔ぶれも劇的に変わってきた。かっては学識豊かな碩学が審議会会長や有識者会議座長を務めるのが習わしだったが、最近はコンサルタントまがいの研究者がその座に就くようになった。もはや市独自の政策を考える必要がなくなったため、国から降りてくる政策を都合よくこなすキャラクターが求められるようになったのである。国や市の意向を素早く察知し(忖度し)、それを外国語にまぶして粉飾し、見た目をきれいに仕上げる「ケーキ職人」まがいの研究者が持てはされるようになったのである。

 

しかも、この種の研究者が「専門分野」を超えて多用されるようになったことも最近の門川市政の特徴だろう。御用学者といえども、かっては一応「専門分野」の縛りがあった。学識経験者はそれぞれの専門分野に応じて起用され、専門外の分野にまで口を出すことはなかった。それが最近では市長の「お気に入り」となると、観光研究者でありながら総合計画や財政運営にも口を出すようになり、市長の意向を代弁するような人物があらわれてきたのである。このような事態は「側近政治」ともいわれ、菅政権における竹中平蔵氏やデービッド・アトキンソン氏、あるいは先日暴言で辞任した高橋洋一氏などの顔が目に浮かぶ。いずれも「学者」の範疇には収まらない個性的な人たちであるが、それだけに権力の後ろ盾がなければ人生を全うできない人たちでもある。

 

門川市長はかって宿泊施設の増加は、「資本経済の流れであり、規制できない」というのが身上だった。それが市民からの観光公害、オーバツーリズム批判を受けて一時的には「宿泊施設お断り」の宣言を出すところにまで追い込まれたが、それを実現するための方策は皆無だった。かくして、京都はホテルも民泊(簡易宿所)も満杯状態になり、それがいまコロナ禍のもとで逆境に喘いでいるのである。

 

だが、菅政権がそうであるように、門川市政もこの難局を打開しようとする戦略もなければ政策も持っていない。端的に言えば「成り行き任せ」であり、これからも時の流れに身を委ねるだけの姿勢に終始するだろう。資本経済の流れは、観光バブル期に爆発的に増えた宿泊施設は、コロナ禍にあっては容赦なく淘汰されるというものである。門川市政はこの経済法則に則り、過剰になった京都のホテルや民泊施設が廃業に追い込まれるのを放置するだろう。そこに政策的に介入し、時の流れに「掉さす」ようなことはしたくないからである。

 

だが、そこに一つだけ政策らしいものがあるとすれば、それは低質な宿泊施設の淘汰はこのまま放置するが、「上質宿泊施設」の誘致は継続するというものである。仁和寺前のホテル建設計画はその一環であり、あらゆる口実を設けて推進する姿勢は変わらない。そこには、おそらく「観光マフィア」といった闇の組織が介在しているのだろうが、今のところはまだわからない。

 

それにしても、この事態は「オリンピックマフィア」ともいうべきIOCの下で強行される東京五輪の構図と酷似している。日本国民の生命の安心安全に何等考慮することなく、「国際興行師」の本性を丸出しにして利権や興行収入の確保だけに突っ走るIOCの姿勢は、もはや誰に目にも明らかではないか。菅政権もスポンサーの利権を確認するため、国民の生命を犠牲にして「成り行き」に身を任せている。そこには、インド株への置き換えにともなう再感染の危険やリバウンドの可能性には目をつぶり、政策転換の可能性を検討しようともしない無能さがあるだけだ。

 

コロナ禍によって淘汰される京都の宿泊施設は膨大な数に上るだろう。それだけではない。宿泊施設が廃業した後の地域はそれ以上の打撃を受けるだろう。歴史ある京都の「まち」が食い荒らされてゴースト化し、京都のまちの品格が失われて心ある観光客は寄り付かなくなるだろう。こんな事態を避けるためにも、門川市政の「側近政治」には終止符を打たなければならない。それが、京都が世界のなかで生き残る唯一の道である。

民泊新法の施行から3年、廃止件数の増加で民泊は減り続けている、コロナ禍でも突き進む京都観光(番外編3)

 

住宅での宿泊事業を認める民泊新法(住宅宿泊事業法)が施行されたのは2018年6月15日、あれから今年6月で丸3年になる。日経新聞(2021年6月12日)は、新型コロナ禍でインバウンド(訪日外国人)需要が消失した現在、苦境に喘ぐ民泊事業者の姿をこう伝えている。

「観光庁が6月11日発表した大阪市の6月時点の民泊の届け出住宅数は1862件で、前年同月に比べ19%減った。同じ時期に全国では9%減にとどまっており、大阪は減少ペースが速い。ピークの2019年10月にはインバウンドを追い風に2677件まで増えていた。京都市も6月に15%減の608件だった。国家戦略特区法に基づく特区民泊も厳しい。全国の物件の9割が集中する大阪市では、5月末時点で前年同月末に比べて14%減った。不動産会社のDGリアルエステート(大阪市)は、特区民泊を中心に約30室運営していたが、新型コロナ禍で8割の物件から撤退した。民泊運営のフルエル(同)は全9物件を短期賃貸として貸し出している」

 

民泊届け出住宅数とは、届け出件数から事業廃止件数を差し引いたもので、調査時点での営業件数をあらわしている。観光庁統計からこの3年間の推移を辿ると、2020年4月10日の2万1385件をピークに届け出住宅数(営業件数)が下降に転じ、21年6月7日現在、ピーク時から1万8883件(▼11.7%)に減少している。新型コロナ禍は当分収まりそうにないので、今まで持ちこたえてきた民泊が今後劇的に減少する日はそう遠くないと思われる。以下、全国、大阪市、京都市の民泊の動向を、民泊新法施行後1年の19年6月(新型コロナパンデミック発生前)を基準にして概観しよう。数字ばかりで恐縮だが、読み飛ばしていただければと思う。

 

        2018年6月   2019年6月   2020年6月   2021年6月

全国      

 届出件数  3,728(21)      17,551(100)       26,224(149)       29,110(165)

 廃止件数            ―        1,023(100)          5,458(534)       10,227(1000)

 届出住宅数 2,210(33)      16,528(100)       20,766(126)       18,883(114)

※特区民泊認定居室数              7,864(100)        11,325(144)         9,842(125)

 

大阪市

 届出件数   179(7)           2,652(100)          3,761(142)         4,099(155)

 廃止件数         ―              209(100)          1,465(701)          2,237(1070)

 届出住宅数    97(4)           2,443(100)          2,296(94)           1,862(76)

※特区民泊認定居室数        7,078(100)         10,193(144)         8,858(125)

京都市

 届出件数     46(8)             582(100)             828(142)            869(149)

 廃止件数         ―               14(100)             111(929)             261(1864)

 届出住宅数    22(4)             568(100)             717(126)             608(107)

(※)特区民泊は、住宅数ではなく居室数で表示されている。大阪市は全国の9割を占めるものとして算出。資料出所:観光庁。

 

(1)全国の民泊届出件数は、新型コロナ禍の下においても19年6月から2年間で1万7551件から2万9110件(1.7倍)に増えたが、廃止件数が1023件から1万227件(10倍)に激増したため、届け出住宅数(営業件数)は20年6月に比べて9%減少した。なお特区民泊は、大阪市(橋下市長時代に推進)が全国の9割を占めるという特異な状況を示しているが、こちらの方も1年間に比べて13%減と同様の傾向を示している。

 

(2)大阪市は、住宅宿泊事業法に基づく民泊と国家戦略特区法に基づく特区民泊が併存しているので、とりわけ変動が激しい。民泊の届出件数は19年6月2652件から2年間で4099件(1.6倍)に増えたが、廃止件数が209件から2237件(10.7倍)へ激増したため、届け出住宅数(営業件数)は19年6月以降減り続け、2443件(19年6月)から2年間で1862件(▼24%)へ減少した(4分の3に縮小)。一方、特区民泊は7078室(19年6月)から1万193室(20年6月)にかけて急増したが(△44%)、20年6月から21年6月にかけては8858室(▼13%)と、同様に減少傾向に転じている。

 

(3)京都市の民泊も大阪市に劣らずわかりにくい。違法民泊の進出が相次いだころ、京都市は市民の批判をかわすため、住宅宿泊事業法に基づく民泊申請事務を旅館業法の「簡易宿所」申請事務に切り替えたので、それ以降、京都市の民泊はこの二本立てになったからである。観光庁統計は毎年6月現在、京都市の「住宅宿泊事業届出窓口対応状況」は年度末数字(3月末現在)なので、少し違うが再掲しよう。なお、簡易宿所は民泊ばかりとは限らないが(ユースホステルなどもある)、ここでは大半を民泊とみなして分析する。

 

京都市(観光庁統計)

       2018年6月   2019年6月   2020年6月   2021年6月

届出件数       46(8)            582(100)            828(142)            869(149)

 廃止件数         ―             14(100)           111(929)            261(1864)

 届出住宅数   22(4)            568(100)           717(126)            608(107)

 

京都市(住宅宿泊事業届出窓口対応状況)

        2018年3月   2019年3月    2020年3月   2021年3月

 届出件数    ―     502(100)     809(161)      868(173)

 廃止件数            ―      12(100)        93(775)          254(2117)

 届出住宅数      ―       490(100)        716(146)           614(125)

 

京都市(旅館業許可施設数、簡易宿所)

             2018年3月    2019年3月   2020年3月    2021年3月

 新規許可件数   871(103)    846(100)          602(71)           350(41)

 廃止件数            73(50)        147(100)          255(173)          583(397)

 総施設数        2291(77)      2990(100)        3337(112)        3104(104)

 

まず、民泊の届出件数は502件(19年3月)から2年間で868件(1.7倍)に増えているが、廃止件数が12件から254件(21倍)に激増したため、届け出住宅数(営業件数)は20年6月の716件をピークに21年6月には614件(▼14%)に減少した。簡易宿所の方も、新規許可件数が846件(19年3月)、602件(20年3月)、350件(21年3月)と2年間で4割に減少した。。一方、廃止件数は147件(19年3月)から583件(21年度月)と2年間で4倍に急増した。その結果、簡易宿所の総施設数は、3337件(20年3月)をピークに3104件(21日3月、▼7%)に減少した。

 

つまり、民泊と簡易宿所の両方を合わせると、19年3月から20年3月にかけては3480件から4053件(△14%)に急増したが、この1年間に3718件(▼8%)に落ち込んだことになる。この傾向がこのまま続くのか、それともどこかで反転するのか、今後の予測については次回に考えたい。(つづく)

京都はいま究極の〝オーバーホテル〟状態なのに、なぜ門川市長はホテル誘致を止めないのか、コロナ禍でも突き進む京都観光(番外編2)

毎月インターネットで送られてくる『京都市観光協会データ月報』を見ると、業界関係者ならずとも目を背けたくなるような数字が並んでいる。最新号(2021年4月)によれば、新型コロナ発生前の2019年4月、新型コロナ発生直後の2020年4月、そしてパンデミックが依然として収まらない今年4月の市内主要ホテルの延べ宿泊数の推移は、以下の通りである。

2021年4月現在、調査対象ホテルの市内全体のホテル・旅館に占める比率は、施設数で29.6%(94施設/317施設)、客室数で48.7%(16,997室/34,897室)。民泊(簡易宿所)の数字はいっさい含まれていない。当該資料は、市内宿泊施設の全体状況を示すものでもなく、ホテル・旅館の全体状況を示すものでもないが、京都の宿泊施設を代表する主要ホテルの数字が毎月速報されることによって、京都を訪れる国内外宿泊客の動向を知るうえで貴重な資料となっている。

 

                2019年4月     2020年4月      2021年4月

                                                                    (前年同月比)    (前々年同月比)(1)外国人延べ宿泊数   36万7809泊      1198泊(▼99.8%)     848泊(▼99.8%)

(2)日本人延べ宿泊数   24万5255泊 3万0119泊(▼87.7%) 15万1107泊(▼38.4%)

  (3) 総延べ宿泊数    61万3064泊 3万1317泊(▼94.9%) 15万1955泊(▼75.2%)

  (4) 客室稼働率                    89.9%       5.7%         20.6%

 

 新型コロナウイルス発生前の2019年4月、京都はインバウンドブームの〝絶頂期〟だった。市内主要ホテルの総延べ宿泊数61万3千泊のうち、外国人客36万8千泊(60.0%)、日本人客24万5千泊(40.0%)で、稼働率は89.9%という「満室状態」だったのである。ところが1年後には、外国人客は突如蒸発(▼99.8%)してしまい、日本人客もほぼそれに近い状態(▼87.7%)になり、稼働率は5.7%という〝どん底〟に陥った。そして今年4月、外国人客はまるきり戻らず(▼99.8%)、日本人客は若干回復したものの(▼75.2%)、稼働率は依然として20.6%に落ち込んだままである。

 

もう1つの数字を見よう。こちらの方は市内全体の宿泊施設数の推移である。2018年旅館業法改正によりホテルと旅館の区別がなくなったため、宿泊施設数はホテルと旅館が一括されて計上されている。インバウンドブームが爆発する前の2014年度末から2020年度末にかけての宿泊施設(ホテル・旅館および簡易宿所)の推移は、以下の通りである。

 

          ホテル・旅館       簡易宿所          合計       開業 廃業

        施設数  客室数     施設数  客室数    施設数    客室数

2014年度 542(100)  26,260(100)   460(100)   2,929(100)   1,002(100)  29,189(100)  106  --

2015年度 532( 98)  26,297(100)    696(151)   3,489(119)   1,228(123)  29,786(102)  255 29

2016年度 550(101)  27,753(106)  1,493(325)  6,134(209)   2,043(204)  33,887(116)  838 23

2017年度 575(106)  29,172(111)  2,291(498)  9,247(316)   2,866(286)  38,419(132)  909 86

2018年度 624(115) 33,608(128)  2,990(650) 12,539(428)  3,614(361)  46,147(158)  919 171

2019年度 656(121) 36,243(138)  3,337(725) 17,228(588)  3,993(399)  53,471(183)  663 284

2020年度 679(125) 39,729(151)  3,104(675) 16,454(562)  3,783(378)  56,183(192)  422 632

 

 この数字を見ると、京都の宿泊施設が2016年度以降「爆発的」とも言える勢いで増加したことがわかる。なかでも、簡易宿所(民泊)の増え方が凄まじい。2014年度末を基準にすると、簡易宿所の施設数と客室数は2019年度末でピークに達し、僅か5年間で施設数は7.3倍(3337軒)、客室数は5.9倍(1万7228室)に激増した。ホテル・旅館の方は、それほどの倍率ではないものの2020年度末においてもなお増加が続いており、2014年度末を基準にすると施設数は1.3倍(679軒)、客室数は1.5倍(3万9729室)に達している。

 

2016年と言えば、門川市長が『京都市宿泊施設拡充・誘致方針~観光立国・日本を牽引する安心安全で地域と調和した宿泊観光を目指して~』(2016年10月)を打ち出した年である。京都市産業観光局の『平成27年(2015年)京都観光総合調査』によると、京都の外国人延べ宿泊客数は、2012年以前は50万人から100万人の間で緩やかな増減を繰り返していたが、2013年の113万人を起点にして、それ以降は2014年183万人(1.6倍)、2015年316万人(2.8倍)と年々急増していた。

 

折しも安倍政権の下での成長戦略、『明日の日本を支える観光ビジョン―世界が訪れたくなる日本へ―』(2016年3月)が策定され、これまでのインバウンド目標である「2020年2000万人、2030年3000万人」が一挙に「2020年4000万人、30年6000万人」に倍増された。国の目標をそのままスライドすると、京都市の外国人宿泊客数は5年後の2020年には440万人(2015年の1.4倍)となり、京都市独自の推計によればさらに「630万人」を上回るとのことだった。門川市長は、「安心安全で地域と調和した宿泊観光」を実現するため、、2015年現在の客室約3万室を「2020年までに約1万室新設する」との方針を打ち出した。

 

京都市の宿泊施設拡充・誘致方針は、前代未聞の「お宿バブル」(京都新聞)を引き起こした。2015年度末3万室(2万9786室)だった客室数は、簡易宿所(民泊)が導火線になって爆発し、僅か2年で目標4万室に近づき、2020年度末には5万6千室に達した。5年間で3万室のほぼ倍近い2万6千室の客室が新たに供給され、目標4万室を大きく上回った。

 

2019年11月、『みずほリポート』は新型コロナ発生の兆候もなく、東京五輪が予定通り2020年に開催されることを前提に、「2020年東京五輪開催年のホテル需給の試算」を発表し、次のような予測を示した。

(1)全国の2018年延べ宿泊者数実績値は5億3800万人(日本人4億4373万人、外国人9428万人)、2020年東京五輪開催時予測値は5億4409万人(日本人4億4036万人、外国人1億373万人)でほとんど変化しない。

(2)京都府(京都市が9割以上を占める)の2018年延べ宿泊者数実績値は2085万人(日本人1418万人、外国人660万人)、2020年予測値は2110万人(日本人1408万人、外国人703万人)とほとんど変化しない。

(3)全国の客室ストック数2018年実績値は149万室、2020年予測値は162万室、伸び率8.7%。京都府(同上)の2018年実績値は4.7万室、2020年予測値は5.6万室、伸び率19.3%である。京都府の伸び率19.3%は全国第1位、大阪府18.9%(第2位)、東京都15.5%(第3位)を上回っている。

(4)全国の客室稼働率は2018年実績値63.2%、2020年予測値58.8%と4.4ポイント低下し、京都府は2018年実績値64.7%、2020年予測値56.0%へと8.7ポイント(前年第2位)低下する。ポイント低下数は、大阪府10.4(第1位)、東京都8.2(第3位)である。

 

つまり、新型コロナ発生など考えられもしない「平常状態」で迎えるはずだった2020年東京五輪開催時においても、京都のホテル需給状態はすでに全国でも突出した〝オーバーホテル〟状態にあったのであり、それが新型コロナの発生によって壊滅的な危機に陥ったのである。京都観光協会月報2021年4月号は、「2021年5月以降の客室稼働率の予測値は、4月の20.6%から徐々に下がり、7月には10.7%にまで落ち込む見込みである。緊急事態宣言の再延長が検討されており、今後の情勢次第ではさらに下振れする可能性がある」と警告している。次回は、簡易宿所(民泊)について考えたい。(つづく)

『ねっとわーく京都』連載コラム、「広原盛明の聞知見考」の再開にあたって、「コロナ禍」でも突き進む京都観光(番外編1)

 

 日本を代表する観光都市京都は、いまコロナ禍の中で〝どん底〟に沈んでいる。「閑古鳥が鳴く」といったありふれた状況ではなく、まさに閑古鳥も鳴かないほどの暗闇の中に沈んでいるのである。2年余り前のインバウンドブームに酔いしれていたころの話はもはや「今は昔」、まるで大嵐の後の廃墟のような静けさが漂っているではないか。

 

私は、これまで10年余にわたって連載を続けてきた月刊誌『ねっとわーく京都』(1990年12月創刊)のコラムの中から観光関連のテーマ(2017年4月~20年7月)を抜き出し、これに幾つかの講演録を加えて『観光立国政策と観光都市京都』(文理閣2020年10月)を昨年上梓した。残念ながら、『ねっとわーく京都』は2021年3月(386号)で休刊となったが、その後も京都観光への関心が決して薄れることはない。

 

京都観光はいま、コロナ禍の下で未曽有の困難に直面している。観光関係業界では懸命の努力が続けられているというが、コロナ禍が収束しないこともあって、行く先はいっこうに見えてこない。まさに「五里霧中」とはこのような状況を指すのであろう。タイタニック号の遭難事件を考えるまでもなく、こんな時には一旦立ち止まって(停泊して)方向を定めるのが常道というものだが、不思議なことに京都市政にはその気配が見られない。まるで何事もなかったかのように、観光政策の基調はこれまでと変わらないのである。このままでは、氷山に向かって粛々と進んでいくタイタニック号のような運命をたどることにならないか―、心ある市民はみんなが心配している。

 

門川市政は4期目に入り、予想外の苦境に直面している。コロナ禍で観光客数が激減するにともなって経済状況が急激に悪化し、肥大化した市財政が極度の赤字状態に陥ったのである。市中では、雨後の筍のごとく増えた民泊(簡易宿所)の大半が「空き家」状態になり、多くの民泊では廃業の危機が訪れている。門川市政が観光を基軸に据えた経済政策に舵を切った(偏重した)結果、大都市京都の産業構造はこれまでになく歪な構造になり、観光不況が京都経済を直撃するようになったのである。

 

インバウンドブームの絶頂期に市長を降りるのは残念とばかり、権力の座にしがみついた門川市長にとっては、この状況は予想外の事態だったに違いない。インバウンドブームを門川市政の〝レガシー〟に位置付け、京都市政に残る名市長として「有終の美を飾りたい」との当初の思惑は大きく外れたのである。2024年2月の退任までにコロナ禍が収まるか収まらないかは別にして、いずれの場合においても残り3年間が門川市政にとって「いばらの道」になることは間違いない。

 

とはいえ、これまで安倍政権の観光立国政策に呼応してインバウンドブームを煽ってきた門川市長からすれば、その後継政権である菅内閣の下でいきなり観光政策を転換することは至難の業だろう。菅政権はこの期に及んでも「2030年6000万人」のインバウンド目標を政府の「骨太の方針」として堅持しており、それに背くことはできないからだ。加えて、菅政権の成長戦略会議には京都観光の指南役、デービッド・アトキンソン氏が委員として参加している。いわば京都市は、「GoToキャンペーン」などを推進する菅政権の直轄下におかれているのであり、京都が先頭に立って菅政権の観光政策を推進する役割を課されているのである。

 

その象徴的な事件が、世界文化遺産・仁和寺前に「上質宿泊施設誘致制度」を適用して富裕層向けホテルを建設しようとする無謀な企みだろう。菅首相は、アトキンソン氏主張の「三ツ星ホテル」誘致論に積極的に賛同し、並々ならぬ意欲を示してきた。門川市長もかねてから富裕層向けの「ラグジュアリーホテル」誘致を、国賓クラスの富裕層を泊めるラグジュアリーホテルが京都の品格を高めるからと言う理由で推進してきた。だが、市民はラグジュアリーホテルよりも世界文化遺産の方が大切だと思っている。世界文化遺産の周辺環境を破壊して富裕層向けのラグジュアリーホテルを誘致することなど、本末転倒だと思っているのである。

 

この6月26日(土)の午後1時30分から、烏丸御池東北角の登録会館で「シンポジウム〝京都の歴史遺産、過去・現在・未来〟―京都にはもうホテルはいらない」が開催される。講演者は、宮本憲一先生(滋賀大学元学長、学士院会員)と私の二人、多くの市民の参加を歓迎している。宮本先生は3月25日、ホテル建設の見直しを求めるアピールの呼びかけ人として市役所での記者会見に臨まれ、その熱い想いを披露された。すでにアピール賛同署名は800名を超えており、このシンポジウムを機に市民活動の一層の高まりが期待されている。

 

これまで門川市政と並走してきた私にとっても、残り任期の3年間は21世紀の京都の未来を見定める大事な時期となる。「ポストコロナ時代」の国内外情勢の動向を見きわめ、コロナ後の京都観光をどう立て直すか、その戦略と方策を多くの方々とともに考えていかなければならない。『ねっとわーく京都』の連載はそのための得難い情報発信基地となってきたが、これからは拙ブログ「広原盛明のつれづれ日記」に場所を移して、その時々の観光政策について考えていきたい。(つづく)

バイデンにがっかり、バッハとコーツに怒り、ガースーには心底絶望、菅内閣と野党共闘の行方(34)、改憲派「3分の2」時代を迎えて(その259)

 

 この1週間は国内外で緊迫した情勢が続いた。イスラエルとパレスチナでは(どちらが仕掛けたのかわからないが)激しい戦闘が行われ、ガザでは多数の犠牲者が出た。国連をはじめとする国際社会は、イスラエル軍の空爆を止めるため懸命の努力をしているというのに、国連安保理事会は停戦決議一つさえ出すことができなかった。イスラエルと特別の関係にあるアメリカが、停戦決議に強固に反対したからだ。

 

 バイデン米大統領は就任後、トランプ前大統領が壊した国際関係を修復するため、気候変動パリ協定への復帰、WHOへの再加盟、イラン核合意の再交渉など、国際協調への意欲的な姿勢を示してきた。イスラエルの空爆に対しても、その立場から同様の厳しい態度で臨むのではいないか―、と期待していたのである。

 

 ところが、その期待はあっさりと裏切られた。バイデン大統領の演説を聞いていても、いったい彼が何を言おうとしているのかさっぱりわからない。パレスチナの民間人に多数の犠牲者が出ているにもかかわらず、イスラエルに対しては軍事行動を停止せよとは一言も言わない。ただ、抽象的な平和を望むといった言葉を繰り返しているだけだ。これでは、アメリカのイスラエル関係はトランプ時代と少しも変わらない。要するに、ネタニヤフ政権の腐敗(首相自身が汚職疑惑で裁判にかけられている)などには一切目をつぶり、その軍事行動を事実上容認しているだけの話なのだ。

 

 それはともかく一番腹が立ったのは、IOCバッハ会長とコーツ副会長の東京五輪開催に関する無責任きわまる発言だ。アメリカのマスメディアでは、バッハ会長は「ぼったくり男爵」、コーツ副会長は「はったり男爵」などと呼ばれているそうだが、両氏は揃いもそろって日本国民がコロナ禍の緊急事態宣言下で苦しんでいる事態を無視し、何が何でも東京五輪を開催すると言明したのである。バッハ会長は「五輪の夢を実現するために、誰もがいくらかの犠牲を払わらなければならない」と言い、ジョン・コーツ副会長は「緊急事態宣言が出されている中でも東京五輪開催はイエス」だと断言した。

 

 これは、菅首相の責任逃れ発言、「東京五輪開催の判断はすべて国際オリンピック委員会(IOC)の権限」だとする発言を受けたものであろうが、それにしても両氏の態度は目に余る。「東京五輪開催」すなわち「IOCの利権」を確保するためには、日本国民は「犠牲を払わなければならない」と言うのである。両氏は、IOCが国家主権を超える権限を行使できるとでも思っているのだろうか。

 

オリンピック憲章の精神を土足で踏みにじるようなこの発言は、日本国民の激しい怒りを巻き起こしたばかりでなく、世界中に「オリンピックは誰のものか」「何のために開かれているのか」「そんなものに意味があるのか」といった根本的な疑問を広げている。もしこのまま東京五輪開催が強行されれば、今後オリンピック開催を引き受ける国はなくなり、IOCは存在意義を問われる事態に直面するだろう。

 

 それにしても、この間の「ガースー」(菅首相)の対応には絶望するばかりだ。東京、大阪など大都市圏自治体以外の県にできるだけ緊急事態宣言区域を広げまいとして宣言区域の拡大を渋ったが、結局のところ「専門家」の意見に従わざるを得なかった。東京五輪開催のため、国内のコロナ感染状況をなるべく小さく見せかけようとする姑息な魂胆がすべて裏目に出て、感染拡大状況が次第に勢いを増しているからである。

 

 菅首相に絶望しているのは、どうやら私だけではないらしい。5月の各メディア世論調査を見ると、(菅首相にとっては)目をそむけたくなるような数字が並んでいる。念のためそれを一覧表にすると、前回に比べて支持率が一斉に下がり、不支持率がそれ以上に跳ね上がっているのがよくわかる。

 

 〇産経・FNN 支持43.0%(-9.3)、不支持52.8%(+10.9)

 〇朝日新聞  支持33%(-7)      不支持47%(+8)

 〇読売新聞  支持43%(-4)      不支持46%(+6)

 〇共同通信  支持41.1%(-2.9) 不支持47.3%(+11.2)

 〇時事通信  支持32.2%(-4.4) 不支持44.6%(+6.9)

 〇NHK    支持35%(-9)      不支持43%(+5)

 〇日テレ   支持43%(-4)      不支持46%(+6)

 〇テレビ朝日 支持35.6%(-0.6) 不支持45.9%(+8.5)

 〇TBS   支持40.0%(-4.4) 不支持57.0(+4.3)

 

極め付きは、直近(5月23日)の毎日新聞の世論調査だろう。内閣支持率は31%、前回調査40%から9ポイント下落し、昨年9月の政権発足以降で最低となった。不支持率は59%、前回の51%から8ポイント上昇した。東京五輪については「中止すべきだ」40%(+11)で最も多く、「中止」と「再延期」を合わせて6割を超えた。東京五輪の開催と新型コロナウイルス対策は両立できると思うかとの問いには、「両立できると思う」21%、「両立できないので新型コロナ対策を優先すべきだ」71%に上った。菅政権の新型コロナ対策については「評価する」13%、前回(19%)より6ポイント下がり、「評価しない」69%で前回(63%)より6ポイント上がった。緊急事態宣言については、「妥当だ」20%にとどまり、「全国に発令して感染を抑え込むべきだ」が59%に達した。

 

同紙は、「支持率急落は、政府の新型コロナ対策への不満や、東京五輪を予定通り開催する方針に批判が強まっていることが影響しているとみられる」と分析しているが、私はそれ以上に、菅首相にたいする絶望感が国民の間に大きく広がっているからだと思っている。芥川賞作家平野啓一郎氏の菅首相の人物評価は、まさに正鵠を射ている(デイリースポーツ5月18日)。その記事を紹介して終わりにしよう。(つづく)

 

  ―芥川賞作家の平野啓一郎氏が18日、ツイッターに新規投稿。菅義偉首相の政権運営について「末永く訓話として伝えられるべき」と記した。平野氏は「能力が無いのに人事パワハラでのし上がった首相が、国家の危機に直面して、結局誰もまともな助言をしてくれる人がおらず、利権と政権維持欲と『思い』とカンだけで対処し、甚大な被害を出した、というのは、末永く訓話として伝えられるべきだと思う」と投稿。「彼が嘘つき前首相の後継だというのも漏れなく」と安倍晋三前首相についても触れた。菅首相は、政策に反対する官僚は異動させると公言している―