既成政党への深い絶望感がとにかく“変化”を求めた、「大阪ダブル選挙」の分析(1)、橋下主義(ハシズム=ファッシズム)は終焉のときを迎えた(その8)

 大阪ダブル選挙が終わった。昨夜は勝敗の帰趨や如何にと勢い込んで開票結果を待っていたが、開票前からNHKの出口調査で早くも「当確」が出たのには驚いた。というよりは、がっかりしたと言った方が正確かもしれない。だが選挙結果が出ることには出たのだから、まずは「なぜこうなったのか」を分析し、次に「これからどうなるか」について、これから何回かのシリーズで考えていきたい。

私の予測は、投票率は府市とも50〜55%、投票総数は大阪府355〜391万票、大阪市106〜117万票、当選ラインが大阪府142〜156万票(得票数の4割)、大阪市が53〜59万票(得票数の5割)というものだった。しかし実際の投票結果は、大阪府52.9%、366.6万票、松井氏得票率54.7%、大阪市投票率60.9%、投票総数127.3万票、橋下氏得票率58.9%となった。私の誤算は、主として以下の推測の誤り(見通しの甘さ)にもとづくものだ。 
第1は、大阪府投票率を前回より数%アップ、大阪市投票率を同じく10%程度アップするものと見込んで府市両方とも50%台前半としたが、大阪府は3.9%アップと予想の範囲に収まったものの、大阪市は17.3%と大幅にアップして60%台に乗せるという予想外の展開となった。このことは、いままでほとんど選挙に行かなかった「棄権常習層」が投票に行ったことを示すもので、今回のダブル選挙の最大の特徴といえる。

第2は、有力3候補が争う大阪府知事選の当選ラインをかなり接戦になると見て得票数の4割に設定したが、実際は松井氏が54.7%を獲得して次点との大差がついた。このことは、橋下氏が前知事だということもあって、その影響が大阪市内はもとより大阪府下一円に及んでいることを示すものであり、倉田氏がいみじくも「橋下氏の幻影と残像に負けた」と語ったことにもあらわれている。

第3は、事前の各紙世論調査を参考にして、大阪維新の会の支持率を10%程度と見たが、NHKの出口調査では19%とほぼ倍増していた。このことは、世論調査では把握しにくい若者層(通常の世論調査は固定電話での回答によるが、携帯電話しか持たない若者層の意見は反映されにくい)がダブル選挙人気に乗って投票に行ったことを示すもので、瞬間風速的には「若者=棄権常習層=維新の会支持層」という図式が形成されていたのかもしれない。

第4は、これも世論調査を参考にして、民主・自民・公明・共産など各政党支持者のなかの橋下・松井氏への投票割合を2〜4割程度、無党派層の場合は3〜5割程度と想定したが、NHKや各紙の出口調査によると、橋下氏の場合は民主・自民の5〜6割、公明の4割、共産の2割、無党派の6〜7割が投票している。いわば既成政党支持者の“政党離れ・溶解現象”が起きているのであり、このことも今回のダブル選挙の特筆すべき特徴だといえるだろう。

この原因ははっきりしている。有権者の“政党離れ・溶解現象”が起きたのは、橋下政治に対して明確な態度を打ち出したのはみんなの党(支持)と共産党(反対)だけで、民主・自民・公明3党が本部レベルでは支持とも反対ともわからない曖昧な姿勢に終始したためだ。だから平松・倉田氏への支持は、民主・自民は府連レベル(本部は日和見)にとどまり、公明は自主投票という訳のわからない選挙になった。地方選挙とはいえ、大阪という重要な地域のダブル選挙に対して政権政党も有力野党も確たる政治方針を示せないのは、政党政治の劣化以外の何物でもないのだが、しかしこれが悲しい現実なのである。

このような政治状況はまた、大阪府政・市政で早くから民主(旧社会)・自民2大政党間の政策の壁がなくなり、公明党が接着剤になってオール与党体制(政治的癒着体制)が長く続いてきたこととも深く関係している。大阪府政・市政の中の重大問題が必ずしも議会政治を通して摘出されず、各党支持者に対しても的確な政治情報が伝わらなくなったために、有権者のなかに明確な判断基準がなくなってきているのである。若者が政治に絶望して選挙に行かなくなったのも、そのひとつのあらわれだ。

こうして政策論争がなくなり、問題が隠蔽され、得体の知れない閉塞感が高まってくると、橋下氏のような候補者が出てきて「大阪を変えないと駄目だ!」「自分がやる!」と叫ぶと、府民・市民はなんだかそこに「出口」があるように思ってしまう。そんな雰囲気が充満しているなかで行われたのが今回のダブル選挙であり、それを仕掛けたのが橋下氏だった。だが選挙現場の「熱気」に触れることの少なかった私は、その状況を的確に把握することができず、そのためこれほど投票率がアップし、かつ政党離れが起きるのを予測できなかったのである。

でも興味深いのは、これまでオール与党体制の上に胡坐をかいてきた大阪財界が、今回の選挙結果を必ずしも手放しで歓迎していないことだ。そのことは、「中立財界、根深い不信」という朝日記事(11月28日)の中にも見出されるし、また維新の会のダブル選挙勝利に対する日経記事(同)の「識者の見方」のなかにも見てとれる。なぜ大阪財界は橋下政治に「不信」を持つのか。そこにはこれから起きるかもしれない全国規模の政治変動への財界の不安が透けて見える。(つづく)