橋下市政の最大課題は同和行政(解同問題)の刷新だ、(大阪ダブル選挙の分析、その3)

 12月19日の橋下新市長の登庁日を控えて、目下、大阪維新の会は「絶好調」のように見える。すでに橋下氏による大阪市役所幹部からの「聴き取り」(というよりは要求・注文)は終わり、年内立ち上げ予定の府市統合本部の陣容も決まって、維新の会は実質的な執務態勢に入っているようだ。

聞くところによれば、市役所内の緊張ぶりは相当なものでピリピリした空気が張り詰めているという。幹部職員はもはやそれなりに腹を括っているというが、中間管理職あたりが不安定な状況に置かれているらしく、落ち着かない毎日を送っているらしい。しかし一番落ち着かないのは、「余剰人員」がだぶついているといわれる現業職場だろう。そこでは日々、“1万2千人削減”の話で持ちきりのようだ。

 それはそうだろう。これまで大阪市役所は、市当局・市議会・市労連が三位一体で強固な利益共同体・「市役所一家体制」を形作ってきたのだ。その象徴的存在が解同部落解放同盟)との癒着にもとづく現業職場での「余剰人員」問題だった。平松前市長が選挙前の退任記者会見で、「在任中に一番頭を悩ましたのは、相次ぐ職員不祥事問題だった」と述懐したことがいみじくもそのことをあらわしている。

周知のごとく、大阪市は市民千人当たりの職員数(2008年10.4人)が政令指定都市平均(同7.2人)に比べて1.5倍近くにも達している。もちろん民営化路線を遮二無二進めて大リストラ政策を強行した中田横浜市政などとの安易な比較は慎まなければならないが、それにしても現業職場での「余剰人員」問題の存在を否定することはできない。また凶悪事件も含めて年間2桁に達する職員不祥事についても、本来公務員としての自覚や資質に乏しい(欠ける)職員がこれまで多数「選考採用」されてきたことをうかがわせる。

この問題は、マスメディアでは表立ってほとんど報道されることがない。大阪市の「余剰人員」問題はことあるごとに指摘されるが、大半はその中身を論じることなく単なる量的比較で終っているのである。どこで「余剰人員」問題が生じているかを具体的に解明することなく、単なる上辺の数字の比較で「事足れり」としているだけだ。これでは「垂れ流し記事」の類だと言っても過言ではなく、問題を摘出することもできないし、処方箋を書くこともできない。 

しかし選挙前に大阪で行われたジャーナリスト関係の討論会では、ある全国紙の論説委員が「大阪市役所の一家体制を崩すには、信長が比叡山の焼き打ちをしたぐらいのことをしなければ解決しない」と語ったほどの深刻な問題なのだ。平松氏敗北の有力な原因が、平松氏が同和行政(解同問題)の刷新にさしたる実績を上げられず、心ある職員が市長の“優柔不断”に絶望して多数離反していったことが大きいといわれる。

このことはまた、大阪市民の投票行動にも大きな影響を与えている。橋下氏を「独裁」と批判して平松支持に踏み切った共産党の大胆な政治決断は大方の支持者から賛同を得たものの、そのなかから少なくない橋下支持票が出たのは、平松氏では解同問題を解決できないと見なされたためだろう。“信長”のようなやり方でなければ解同問題の刷新は無理だとして、少なくない共産党支持者がその期待を橋下氏に託したのである。

したがって、橋下市政の第1の課題は、新市長がどれだけ解同問題に切り込み、同和行政を抜本的に刷新できるかにあるといえる。大阪市政の内実を詳しく点検すれば、余剰人員問題のみならず同和関係団体・関係施設への膨大な補助金がたちどころに浮かび上がってくる。また公共事業の受注に関しても「公開競争入札」が原則であるにもかかわらず、実質的には“談合指名入札”が横行している。「同和枠」という予算が各部局で厳然と受け継がれ、予算執行に際してもその「枠」が同和系団体・企業によって消化されるという慣行が続いているのである。

知事時代に、橋下氏は「同和問題は解決されていない」と広言した。その本人が果たしてこの課題に取り組めるかどうかは大いに疑問の残るところであるが、自らの出自をめぐって「いわれのないこと」と激怒したのであれば、容赦なく同和行政(解同問題)の暗部に切り込むことで、大阪市民の前に新市長としての覚悟のほどを示してほしい。

また、中田前横浜市長大阪市副市長として就任することが巷間伝えられている。もしこの異例の人事が実現するとすれば、中田新副市長の役割は何よりも同和行政(解同問題)の刷新でなければならないだろう。幸い関西や大阪に余りしがらみのない中田氏のことだから、横浜市政で振るった「辣腕」を同和行政(解同問題)刷新に発揮することはさほど難しくないのではないか。

ともあれ、大阪市民の目は橋下新市長の手腕に注がれている。そして、もし「スーパーメガ官庁・大阪市」の刷新が「同和抜き」で行われるようなことになれば、その時にどれだけのリアクションが返ってくるかは想像を超えるものがあるだろう。(つづく)