大阪維新の会は国政選挙に進出するか、できるか、(大阪ダブル選挙の分析、その4)

 12月19日正午、北朝鮮金正日総書記の死亡が例の女性アナウンサーによって朝鮮中央放送から発表された。イミョンバク韓国大統領と野田首相の日韓首脳会談が京都で終わった直後の出来事で、両氏とも事前にこの情報を把握していなかったらしい。少しでもその気配を察知していたのであれば、韓国大統領の訪日はなかっただろうし、野田首相の新橋駅前での街頭演説の予定も組まれなかったであろう。

 もっとも野田首相は、北朝鮮が正午に「特別放送」をすると予告していたにもかかわらず予定通りノコノコと演説に出かけ、途中で慌てて引返したというから、図らずも野田内閣の北朝鮮に対する関心や危機意識はその程度のものだったことが明らかになった。それに悪い時には悪いことが重なるもので、その後に開かれた国家安全保障会議にも山岡拉致担当相が欠席し、その責任を「事務方の連絡不十分」にすり替えた。「この首相にしてこの大臣あり」というところだ。

だがこの件は、山岡氏本人や側近が正午のニュースを聞いていたのであれば、即座に駆けつけなければならない類の大事件であるだけに、本人がニュースに気付かなかったか、あるいは気づける場所にいなかったとすれば、「公務の怠慢」という他はない。今話題の消費者担当相としてだけでなく、拉致担当相としても失格十分だろう。

私は金正日死亡の第一報に接したとき(いずれ私もその感想を書きたいと思っている)、一瞬この「特大ニュース」は橋下大阪新市長の就任記事を吹っ飛ばすほどの大ニュースだと感じた。また当然のこととして、橋下氏の政府・政党関係者に対する訪問日程にも影響を与えるものだと思った。だが翌日の12月20日の各紙を見ると、なるほど紙面の多くは「金正日特集」で覆われていたものの、橋下関連記事も決して小さいものではなかった。

 19日、20日の2日間で橋下市長が面会した政党関係の要人は、前原・平野・輿石・小沢・仙谷の各氏(民主党)、谷垣・石原氏(自民党)、山口氏(公明党)、亀井氏(国民新党)、渡辺氏(みんなの党)、舛添氏(新党改革)と、共産党社民党などを除く「各党総なめ」となっている。大名行列よろしく東京の政治部、大阪の橋下番記者などが大挙して付いてきているので、「会わないわけにはいかない」というのが各党の表向きの理由らしいが、実際に展開されているのは卑屈で醜いばかりの「追従とすり寄り」の光景だった。

 各党の要人がなぜこれほどの卑屈な態度を示すのか、そこにはそれなりの理由があるのだろう。大阪維新の会の圧勝が、国民全体にみなぎっている「政党不信」「政治不信」の噴出であり爆発であるとすれば、一地方首長だとはいえどもそれをすげなく扱うことは、橋下番記者の標的になることを覚悟しなければならないからだ。

しかしもうひとつの理由(本音)は、来年に予想される総選挙で橋下氏を敵に回したくない、自分の選挙区から維新の会の候補者に出てほしくないので、見え見えの追従笑いを浮かべて親しい雰囲気を演出しているわけだ。この光景に接した心ある国民が、ますます「政党不信」「政治不信」を深めるにもかかわらずである。

だが残念なことに、現実の政治(選挙)は「ハシズム」(橋下流)のようなポピュリズム(大衆扇動・大衆操作)によって動かされている。そして、その政治効果はマスメディアの世論調査によって即刻に現れるのだから無視できないのである。選挙直後の空気の反映とはいえ、毎日新聞の全国世論調査(12月3、4日実施)では、「大阪維新の会の活動に魅力を感じる」と回答した人が65%に上り、「感じない」とする回答31%を大きく上回った。一方、既成政党の支持率は民主・自民とも17%と相変わらず低迷しており、「支持政党なし」がほぼ半分の49%に達している。(毎日12月5日)

この世論調査のなかで注目されるのは、民主党支持層の74%、自民党支持層の63%、公明党支持層の48%、無党派層の63%が「大阪維新の会の活動に魅力を感じる」と回答していることだろう。つまり大阪のみならず全国的にも既成政党離れが進み、有権者の政党支持構造に重大な変化が生じているのである。これらの調査結果から、毎日新聞が「維新の会代表を務める橋下徹・大阪新市長は「大阪都構想」を実現するため、国政選挙での独自候補擁立にも言及しており、今後、既成政党側の維新接近が強まりそうだ」との観測を導き出しても不思議ではない。(同上)

またそれに続くNHK全国世論調査(12月9〜11日実施)でも、野田内閣に対しては発足後3か月で不支持が初めて支持を上回り、「支持しない」42%が「支持する」37%を逆転した。その一方、「大阪市長選挙で当選した橋下徹氏が代表を務める大阪維新の会が「大阪都構想」の実現を目指して国政に進出することを望ましいか」との質問に対しては、「望ましい」28%、「どちらかといえば望ましい」31%、「どちらかといえば望ましくない」17%、「望ましくない」11%という肯定的結果になった。この結果は毎日新聞と比べてもほぼ同様の傾向を示しており、大阪維新の会に対する世論は「肯定6割」「否定3割」で変わっていない。

野田内閣に対する不支持率が急上昇し、既成政党支持率がますます低迷するなかで、橋下氏は12月13日の記者会見で次期衆院選に維新が候補者を擁立する場合、「大阪都構想道州制を訴える。国のかたちを変える道州制が次の選挙の主役になる」と意気軒高だ。今回の政党回りでも「国政政党が大阪都構想に賛成してくれないなら、維新の会が国政選挙に打って出る」と広言し、相変わらずの「ブラウ(脅かし)とトリック(ごまかし)」の発言を続けている。

大阪維新の会が、当面、民自公体制が膠着する閉塞状態のなかで国民の反射的な(一過性の)期待を集める可能性はあるかもしれない。だが私は、「大阪維新の会ハシズム」は、所詮“大阪止まり”の局地的・瞬間風速的現象だと考えている。大阪都構想がそのまま「全国版の政策=見せかけのパン」になるにはその中身があまりにも貧しすぎるし、また大阪都構想を全国バージョンの「道州制」に嵩上げしたとしても、道州制自体がすでに手垢にまみれた不人気なスローガンである以上、国民を惹きつける政策になりようがないからである。 
既成政党が橋下氏に恥ずかしげもなくすり寄る一方、この発言に対しては、むしろ地元の首長から厳しい批判が出ていることに注目したい。井戸兵庫県知事は、上記の橋下発言を評して、「大阪都をつぶして関西州に変える話しで、都構想と矛盾しているのではないか。地域政党である維新が国政選挙に出るために国家的課題を取り上げたのではないか。直ちに共感を得られるかは別の問題だ」と批判している(日経12月14日)。引き続き、橋下地域政党の国政進出の可能性について注目していきたい。(つづく)