岩手県山田町の復興計画を解剖する(1)、(震災1周年の東北地方を訪ねて、その8)

 岩手県内市町村の津波による犠牲者数の対人口比率は、大槌町(10.2%)、陸前高田市(8.3%)、山田町(4.6%)、釜石市(3.1%)の4自治体が沿岸12市町村のなかでも突出している。このうち陸前高田市釜石市には昨年行ったが、大槌町と山田町へは前回も今回も行っていない。だからここで山田町の復興計画を取り上げることには、いささか躊躇を感じざるを得ない。現場の姿や被災者の声、行政担当者の苦悩などに接することなく、復興計画の是非は論じられないからだ。

 当初は、岩手日報の市町村関連記事を比較しながら全体像の分析を試みようとしたのだが、率直に言って新聞記事だけでの復興計画の比較検討は困難だった。岩手日報の記事は「現場ルポ」に優れたものが多いが、「解説記事」になると満足できる内容のものがそれほど多くないからだ。復興計画の内容が膨大かつ多岐にわたるので、現場の記者には手に余るのだろう。

それから市町村間の比較といっても、被災規模も違えば行政力量も異なる自治体の比較は容易でない。事情が異なる市町村の復興計画を形式的に比較するだけでは、かえって本質を見失う恐れがある。もともと市町村の復興計画はそれ自体が独自の性格を持つはずだから、形式的な比較には馴染まないというべきだろう。そんなことで、どこかの市町村の復興計画を典型事例として検討したいと考えた。

私が山田町の復興計画を検討対象にしたいと思ったのは、沿岸12市町村のなかでも復興計画に関する情報公開が最も充実していて、検討に必要な関係資料が整っていると思われたからだ。町のホームページを見ると、これまでの計画策定の経緯が関係資料とともに体系的に整理されており、しかも資料の完成度が高い。これはひとり担当者が優れているばかりでなく、町全体の行政能力が高いためだろう。

 計画策定の流れは、大きくは3期に分かれている。第1期が「本部会議」の立ち上げから「復興ビジョン」の公表までの2か月弱(2011年5月9日〜7月1日)、第2期が「復興ビジョン」への住民意見聴取から「復興計画行政素案」の公表までの3カ月弱(7月6日〜10月1日)、そして第3期が「復興計画行政素案」への住民意見聴取から「山田町復興計画」の策定までの約2カ月半(10月8日〜12月22日)である。

 計画策定組織は、「本部会議」、「計画策定委員会」、「同専門部会」、「プロジェクト会議」の4種類で構成されている。本部会議とプロジェクト会議は庁内組織と類推され(メンバーは明示されていない)、前者は首長・幹部職員などからなる全体の司令塔であり、後者は分野別課題ごとに関係部局から構成される実行計画策定組織であろう。

 計画策定委員会(20人)と専門部会(10人)は、町内外の事業者・企業、地区住民代表、町議員、学識経験者、国や県の関係部局代表者などで構成され、全体としてよくバランスが取れ、しかも地元色が強い組織(委員20人のうち14人)になっている。特筆すべきは漁業関係者が多いこと(委員4人、専門部会10人のうち5人)、地区住民代表者が多いこと(委員6人)、国や県の関係者が少ないこと(委員3人)、建設業関係者が少ないこと(委員1人)、大学研究者が少ないこと(委員1人)など、通常の権威的な委員会構成とは大きく異なっている。

 議会や地区住民に公表された計画案の流れは、「復興計画策定に向けた基本方針」(5月23日)→「復興ビジョン」(7月1日)→「復興計画行政素案(中間報告)」(9月1日)→「復興計画行政素案」(10月1日)→「山田町復興計画」(12月22日)の5段階の手順を踏んでいて、これも通常の場合に比べれば非常に丁寧な策定プロセスだといえるだろう。

最も注目されるのは、各段階の計画案が議会や地区住民に公表される度に多様な形で住民意見の聴取が行われていることだ。まず「基本方針」に関しては、「第1回住民懇談会」(19会場、参加人数1069人、5月27〜31日)、「山田町の復興に関するアンケート調査」(6888世帯、回収3161世帯、回収率45.9%、5月24日〜6月10日)、「事業者ヒアリング」(商工業者・農漁業者など6名、6月9〜10日)が連続して実施された。「山田町復興ビジョン」についても、地区別に住民意見や提案の募集が行われた(32の意見・提案が寄せられる、7月1日〜8月30日)。

次に「復興計画行政素案」に関しては、「第2回住民懇談会」(8会場、参加人数1183人、10月8〜12日)、「山田町復興計画行政素案に関するアンケート調査」(7007世帯、回収3395世帯、回収率48.5%、10月15〜25日)が実施された。また復興計画策定後は、「山田町復興計画に関する説明会・意見交換会」(14会場、2012年1月23〜31日)及び「山田町復興事業検討のための意向調査」(配布数3027、回収数1960、回収率64.8%、2012年2月8〜29日)が実施されている。

 町職員数が200人にも満たない小規模自治体で、これだけの内容の復興計画を短期間で策定することは驚異という他はないが、どこにそれほどのエネルギーが隠されているのか、またその源泉は何か、計画の内容やプロセスに問題はないのかなど、幾つかの疑問に対する回答を関係資料のなかから浮かび上がらせてみたい。(つづく)