震災復興計画は「リアリズム」(被災地の現実を見る目)と「民主主義」(被災者の合意を尊重する心)がなければつくれない、(震災1周年の東北地方を訪ねて、その7、地元紙「岩手日報」の記事から見えてくるもの(3))

 一般的にいって「計画」(プラン)とは、(1)当面する問題の分析と把握にもとづき、(2)問題の将来方向を予測することを通して、(3)問題解決に必要な基本目標を設定し、(4)それに至る当面の目標を達成するために、(5)各種資源を効果的かつ効率的に運用する方法や手順を、(6)利害関係者の合意に基づいて民主的に定めることだ。

その意味で「計画策定」(プランメイキング)とは、(1)問題の構造と発展方向を解明する調査分析プロセス、(2)問題解決に必要な方策を生み出す政策形成プロセス、(3)利害関係者(ステークホールダー)参加による民主的合意形成プロセスを三位一体でマネイジメントすることだといえる。この計画理念や策定方法を今回の市町村復興計画に当てはめてみると、本来的にはおよそ次のような全体像が描けるのではないか。

(1)問題の分析と把握
計画策定の第一歩は、東日本大震災により沿岸地域の住民の「暮らし」と「なりわい」が根こそぎ破壊されたという被災状況を可能な限り詳しく調査し、それを再建・再生したいという被災者の基本的ニーズを正確に把握することから始まる。緊急事態にあっては、「調査など悠長なことをしてはいられない」といった気持がないではないが、被災状況の正確な把握は「調査なくして計画なし」といわれるほど計画策定の大前提であり第一歩であって、決して踏み外してはならない最初の計画プロセスだ。
 
(2)問題の将来予測
次に、被災地域の経済社会的構造(人口構成や就業構造など)や沿岸地域の地理的特性(湾岸の地形や高台の有無など)を踏まえて、被災者の当面する問題に対して適切な対策が講じられない場合、あるいは対策が放置された場合、被災地域の問題状況が今後どのように進行するかを厳しく予測することが求められる。これは、空想的な未来予測図をイラストで描いてさもそれが実現するかのような雰囲気をつくりだし、世論誘導を図るのとは正反対の方法だ。いわば被災地域の現実と将来を直視する「リアリズム」的手法であり、「将来にすがる」のではなく、「将来を見据える」ことによって「現在の取るべき対策」を考えようとする客観的な思考方法であり、現実的な将来予測だといえる。

(3)基本目標の設定
計画策定のもっとも重要な分岐点は、被災地域の「持続的発展」か「構造改革」かの選択に懸っているといっても過言ではない。これまでの(1)(2)の計画プロセスは、実はこの判断をするための準備作業ともいえるものであり、それが不十分であるときは基本目標の設定がぶれたり、間違ったりする恐れがある。往々にして構造改革型の基本目標が掲げられることがある。このままでは地域は衰退する一方なので、この際「抜本的な構造改革」が必要だというわけだ。問題はその場合、地域住民がどうなるかだろう。改革の主体が「外人部隊」(外来資本)であり、復興の主力を外部勢力に頼るときは、結果として地域資源が住民の手から奪われることになりかねない。これは「ショックドクトリン型復興計画」(災害便乗型資本主義計画)への道である。この方向を回避するには、「地域の将来は自分たちが決める」という原則と覚悟が必要だろう。災害で失った「暮らし」と「なりわい」を取り戻すという決意で基本目標を設定することなしには、被災者がそこに住み続けることが困難になるからだ。「持続的発展」(サステイナブル・デベロップメント)という計画理念は、平たく言えば「そこに住み続ける」ことに他ならない。

(4)当面の達成目標
基本目標への道は果てしなく遠い。だから「復興の階段」を着実に昇っていくためには、「当面の達成目標」を掲げることが効果的だ。人々は往々にして夢を語り、それを一夜にして実現しようと言った想いを抱きがちだが、「復興への道は1日してならず」が鉄則なのだから、過剰な期待は「絶望の淵」に直行することに留意しておかなければならない。実現可能な「当面の達成目標」は、計画策定への住民参加の度合いとそこで生み出される「合意レベルの高さ」によって決まる。リーダシップの大切なことは言うまでもないが、それが首長の拙速な「思い込み」であったり、コンサルタントの「入れ知恵」であったりするときは、目標をつくるのは簡単だが壊れるのも早い。

(5)各種資源を効果的かつ効率的に運用する方法、手順
市町村が復興の主体として実質的な権限や財源を与えられていない以上、未曾有の大災害から立ち直るためには、国や県からの支援が計画の前提にならざるを得ない。だが問題は、国や県からの支援を「上意下達の指示」として無条件に受け取るか、それとも単なる陳情ではなく被災者のニーズや地域の要望を踏まえて国や県と折衝する気構えがあるかによって、復興事業の形は大きく変わってくる。いうまでもなく、その場合の市町村の交渉カードになるのは「住民合意」という切り札だろう。形式的な住民アンケートや住民懇談会の実施にとどまらず、市町村がどこまで踏み込んで被災者の切実なニーズを把握しているか、また復興事業の優先順位や実施時期・実施方法などに関してどの程度「住民合意」が成立しているかによって、国や県に対する市町村の交渉能力は飛躍的にアップするからだ。

(6)住民合意の意義、そして社会的役割
計画策定は、住民参加を通して復興事業に関する民主的合意に導く政治プロセスだといったが、そのプロセスを愚直に追及することは、被災者や住民に復興に向けての確信と勇気を与えるばかりではない。高いレベルの住民合意は、復興計画の基本方針を揺るぎないものにすると同時に、国や県のレベルを超えて国民に直接アピールする情報発信力と正統性を獲得するのである。現在は情報社会である以上、被災地域や市町村からの復興に向けてのアピールは瞬く間に世論となり共感と支援の輪になって、被災者や市町村を励まし、復興計画実現に向かっての大きな力になるだろう。計画策定過程における住民参加と住民合意の保障は、市町村を名実ともに復興の主体とする可能性を秘めている。

以上が私の拙い復興計画論であるが、次回はこのような観点から山田町の計画策定プロセスやその結果まとまった計画内容について若干触れてみたい。(つづく)