なぜ、大西隆氏は国家戦略会議フロンティア分科会座長に就任したのか、「原子力ムラ」「開発ムラ」「安全保障ムラ」を横断する政治人事(1)、福島原発周辺地域・自治体の行方をめぐって(その6)、震災1周年の東北地方を訪ねて(77)

財界代表が政府審議会の主要メンバーとして政策立案に関与することは従来からの慣行であったが、各省庁の「タテワリ審議会」を超えた国家戦略機関が“財界の司令塔”として猛威を振るうようになったのは、小泉内閣の「経済財政諮問会議」以降のことだ。民主党政権においても菅内閣の「新成長戦略実現会議」、野田内閣の「国家戦略会議」がそれに当たる。

野田内閣は2011年10月に国家戦略会議(議長、野田首相)を設置し、菅内閣の「新成長戦略」を改定した「日本再生の基本戦略」(2011年12月)を策定し、その後、『日本再生戦略〜フロンティアを拓き、「共創の国」へ〜』(2012年7月)を閣議決定した。また2012年1月の野田改造内閣発足に伴い、国家戦略会議のなかに「フロンティア分科会」を置いた。開催趣旨は以下の通りである。

「「希望と誇りのある日本」を取り戻し、日本再生を実現するため、我が国が切り拓いていく新たなフロンティアを提示し、中長期的に目指すべき方向性をビジョンとして策定するフロンティア分科会を開催する。」

 また「フロンティア分科会」のもとに、2050年を見据えて、「繁栄」(中間所得層の増加させる成長戦略)、「幸福」(将来世代の安心につながる社会保障)、「叡智」(人材育成や宇宙政策、科学技術)、「平和」(外交や海洋政策)の議論や検討する4部会が設置された。これら4部会の設置は、各々「繁栄=経済」、「幸福=社会」、「叡智=教育研究」、「平和=外交」の政策領域に対応するものであり、いわば国家戦略の将来展望を各分野にわたってデザインするプロジェクトチームが組織されたといえる。そして、4部会を統括する分科会座長に大西氏が野田首相から指名されたのである。

 これまでは「開発ムラ」の代表が政府各種審議会や全国総合開発計画策定のメンバーに選ばれてきたことはあったが、首相をトップとする国家戦略会議の政策プロジェクトチーム責任者に「開発ムラ」の都市工学者が就任した事例は寡聞にして知らない。大西氏の経歴から見ても国土審議会委員(国交省)と産業構造審議会委員(経産省)は歴任しているものの、それらはいずれも省庁レベルの審議会であってそれ以上のものではない。

それでは、なぜ大西氏が「2階級特進」ともいうべき国家戦略会議の座長に指名されたのであろうか。その背景には、東日本大震災にともなう復興問題とりわけ原発再稼働問題が国土計画上の課題としてはもとより、アメリカの安全保障問題とも絡んだ国際的戦略課題として急浮上したからだ、というのが私の観測意見である。つまり、アメリカの核支配(核抑止力)の維持にとって不可欠な(目下の)パートナーである日本が「原発ゼロ」状態に陥らないよう、野田政権はアメリカと日本財界からどうしても原発を再稼働させなければならないという巨大な圧力に曝されたのである。

このことを余すことなく物語るのが米戦略国際問題研究所所長ジョン・ハレム氏のインタビュー記事、「原発ゼロ、米が危ぶむ理由」(朝日新聞オピニオン欄、2012年10月24日)だろう。ハレム氏はクリントン政権の国防副長官を務め、その後も国防長官諮問機関である国防政策委員会の現職委員長であり、かつ次期国防長官候補に取りざたされている“超本流インサイダー”だそうだから、その発言は米政府(米軍)そのものの意向だと言ってよい。ハレム氏は世界覇権国アメリカを代表して、傲慢にも「日本に原子力発電を放棄する選択肢はない」と次のように言う(要旨)。

「我々は将来にわたって原子力エネルギーの広がりを管理するとともに、(核兵器の)拡散を防止することを国益と考えている。世界各国に対して核の安全を説くことができるのは、自ら原子力の運用を行っている国だけだ」
「日本に発言力があるのは(原発を運用していることに加えて)世界で展開する商業用原子炉メーカー4グループに、日本の3社が入っているからだ。日本は商業用原子力エネルギー分野で世界の一大強国だ。しかし、原子力発電をやめてしまえば、その地位を失うことになる」
「(核)不拡散は、米日欧が主導してきたものだ。3極体制が崩れると、不拡散の目的を必ずしも共有しない国々がより大きな影響力を持つことになる。それは日本にとっても好ましいことではない。世界は今より大きな危険にさらされることになる」

しかし、原発再稼働と安全保障問題を直結させることは、新たな軍事的疑惑を呼ぶことによって野田内閣の政治基盤の動揺につながるので避けなければならない。また原発再稼働を技術的側面から推進することは、「原子力ムラ」の御用学者たちの権威がボロ布のごとく地に落ち、原子力政策に対する国民の信頼が根底から失われた状況の下ではもはや不可能だ。そこで野田政権は東日本大震災復興構想会議委員を務めた大西氏を起用することによって、従来の国土計画ビジョンを作成するような装いで「フロンティア分科会」を立ち上げ、「能動的平和主義=集団自衛権の行使」を主張することで原発再稼働に道を開こうと画策したのである。

私がかくいうのは、決して憶測だけの話からではない。なぜなら大西氏は表向きの単なる座長に過ぎず、「フロンティア分科会」の実質的なキーパーソンは「平和」部会長の中西寛京大教授、及び分科会全体の事務局長の永久寿夫PHP研究所専務だったからである。(つづく)