『広野町復興計画』の背景にあるもの、いわき市を取り巻く“復興状況”と広野町の“開発前夜”、福島原発周辺地域・自治体の行方をめぐって(その14)、震災1周年の東北地方を訪ねて(85)

東日本大震災後、最初に福島市いわき市を訪れたのは昨年の5月連休中のことだった。目的は主として被災者支援だったが、いわき市では副市長から震災直後の市内状況の説明を受け「これは大変なことになる」と思った。その意味は二つある。ひとつは双葉地域の避難者がいわき市に殺到して避難所や住宅の確保が急迫していること、もうひとつは原子炉の冷温停止作業や災害復旧工事のために全国からゼネコンや設備機器メーカーなど原発関連企業が進出し、そのため市内の用地取得難が激化していたことだ。

いわき市は、磐城地方の基幹産業であった常磐炭田の衰退に伴い、全国総合開発計画に基づく「新産業都市建設地区」(1964年)の指定を受けるため、14市町村(5市4町5村)が1966年に大合併して誕生した日本一広い面積(1227平方キロ、当時)を持つ広域自治体である。合併後はJR常磐線沿線や国道6号線沿道への人口集中が進み、山間部地域では過疎化が激化した。人口も合併時の34万人からそれほど増加せず、1990年代後半の36万人をピークにその後は漸減傾向が続いていた。

だが、震災後は状況が一変する。原発事故にともない市内から約7千人の住民が東京方面へ転出する一方、双葉郡のなかでも原発が立地する「警戒区域」から約2万3000人の被災者が一斉に避難してきたのである。市内の工業団地には仮設住宅が4千戸近く建設され、役場機能も楢葉町富岡町大熊町の出張所などが設置されている(一時は広野町役場もあった)。また最近になって、埼玉県に避難している双葉町役場もいわき市に引っ越してくることが決まった。

いわば双葉郡全体の半分の役場・出張所や住民がいわき市内に緊急避難し、これに被災したいわき市民の住宅需要が加わるのだから、いわき市内の住宅事情が逼迫(ひっぱく)するのも無理はない。また原発が立地する4町が「(少なくとも)5年間は帰れない」事態が明らかになるに及んで「仮の町」をつくる構想が浮上してきているが、その規模・形態・立地場所などをめぐって避難4町といわき市との間の意見が必ずしも一致しているわけではない。むしろ、本格的な検討が始まるのはこれからだと考えてよい。

それだけではない。いわき市内は、東京電力3発電所(第1原発・第2原発・広野火力)の作業員や関連企業従業員の居住地にもなっており、ゼネコンその他関連企業の進出も相次いでいる。通常の災害復旧工事の場合なら長くても5年もあれば終わるが、原発事故収束作業や廃炉作業ともなればいつまで続くかわからない。進出企業はいずれも長期戦になることを予測して事務所や工場あるいは従業員宿舎の用地取得を先行させており、これが宅地需要を一層過熱させ、土地取得難を激化させているのである。

また、いわき市から第一原発基地に向かう道路の混雑ぶりも無視できない。海岸線に沿って北上する国道6号線はいまや交通渋滞の名所と化していて、いわき市内から第1原発までの約50キロの道程は、毎朝数キロが連続して渋滞する「数珠つなぎ状態」となる。これでは作業能率も上がらないし、作業員の拘束時間も延びる一方だ。これら企業がもっと便利な所へ「前進基地」を設けたいと思うのか当然であり、それがいわき市に隣接し、第1原発・第2原発にも近い広野町への「溢れだし」現象となっているのだろう。

広野町の地価はいわき市に比べてかなり低い。また開発用地のストックにもゆとりがあるので、用地買収も容易だ。不動産業者やデベロッパーがあちこちで土地を物色しているとの噂も聞く。いわば町全体が原発災害による被災地としての雰囲気よりも、なにかしら“開発前夜”のような様相を呈しているのである。そしてそれが「ピンチはチャンス」とする『広野町復興計画』に投影されていると言ったら言い過ぎだろうか。

戦後高度成長の牽引車となった「開発行政」は1960年代から離陸し、1970年代には全開状態となって全国各地に「開発王国=土建王国」を築いた。全国総合開発計画の先兵となった新産都市建設や新全総の花形となった新幹線や高速道路などの国土幹線整備そして原発などエネルギー基地建設などは、1970年代の高度成長日本を代表する巨大プロジェクトだった。

いわき市は1960年代に市町村大合併をして新産都市建設に名乗りを上げ、双葉郡町村も遅れじとばかり1970年代に福島第1原発を運転開始させてこれに続いた。だがそれから半世紀後のいま、いわき市双葉郡町村も「開発行政」がもたらした厳しい(厳しすぎる)結果と現実に直面している。「ピンチはチャンス」としてふたたび「開発王国」への道を目指すのか、それとも「ピンチはピンチ」として「脱原発原発ゼロ」の道へ方向転換するのか、いま原発周辺自治体は“未来への岐路”に立っている。(つづく)