「架空の質問」に対する「架空の回答」は参考にならない、“帰村宣言”は現実のものとなり得るか(3)、福島原発周辺地域・自治体の行方をめぐって(その19)、震災1周年の東北地方を訪ねて(90)

川内村が実施した住民アンケート調査は過去2回ある。第1回目は被災者の避難先が大体落ち着いた2011年6月、第2回目は帰村宣言直後の2012年2月、そして2012年11月現在、総合計画策定のための第3回目の調査が行われている。いずれも川内村にとっては“自治体行政の岐路”ともいうべき大切な節目であり、住民アンケートがそのための重要な判断材料として活用されていることを物語るものだ。

第1回目の調査結果はホームページに掲載されているが、調査方法や集計方法に関する記載がなく調査項目もごく大雑把なものなので、調査そのものとしてはきわめて不完全なものだ。それでも混乱が続く仮庁舎のなかでの調査だから、「調査すること自体に意義がある」と考えるべきだろう。こうした緊急事態のもとで行われる住民アンケートは、行政と住民をつなぐ大切な絆なのだ。

調査概況は、調査票の郵送数1100、回収数702、回収率63.8%というものである。調査対象が1100になった根拠は書かれていないが、おそらく避難先が特定できる世帯数がその程度の数だったのではないかと推測される。いわば原発事故発生3カ月後の「緊急全世帯アンケート調査」との位置づけであり、その意味で2/3もの世帯から回答が返ってきたのは、広い意味での「安否確認」情報としても大いに役だったであろう。

調査項目は避難先での被災者の生活状態や健康状態に関するものもあるが、行政側(役場・村長)が最も聞きたかったことは、避難者の帰村意向とそのための条件だったと思われる。したがって質問はいきおい行政側が条件設定して回答を求める形式が多くなり、避難者の真意やニーズを引き出すうえで「無理な質問」が並ぶことになる。

たとえばその極めつきは、「問6.原子力災害が解決された場合、川内村に帰郷されますか」という質問だろう。回答は「はい」587(85.9%)、「いいえ」96(14.1%)となり、その結果は村民の圧倒的な「帰村意向」を示すものとして各紙でも大々的に報道された。ただし、この質問に回答しなかった19名(702−587-96=19)は集計から外されている。無回答は「このような質問には回答できない」といった意思表示の場合もあるのだから、集計結果に含めるべきだろう。

最大の問題は、「原子力災害が解決される」ということはいったいどのような状況を指すのかが全く不明なことだ。もしこれが「放射能汚染が(完全に)除染される」ということを意味するものであれば、除染作業の困難さからして(当時すでに判明していたことだ)、「架空の質問」に対する「架空の回答」ということになる。このような回答を以て「帰村意向」が確かめられたなどは到底言えず、単なる「夢と希望」の表明にすぎないと考えておいた方がよい。

だがこのような質問に対してさえ、「いいえ」と回答した世帯が96世帯に上ったことが注目される。その理由を尋ねた「問7」の複数回答の内訳は、「放射能被害が怖いから」38(39.6%)、「仕事が無く、所得が得られないから」49(51.0%)、「子どもが避難地区で現在通学しているから」34(35.4%)、「交通が不便だから」28(29.2%)、「農作物などが栽培できないから」25(26.0%)、「その他」18(18.8%)という内容になっている。この回答を寄せた人たちは、もはや離村を決意している世帯だと考えてもよいだろう。

おそらくその他の人たちも、多くが同様の理由(懸念)を抱えていたに相違ない。だが、それを考えないことにして「夢と希望」を表明したのであろう。この住民アンケートはそんな「夢と希望」を大切にしながら、「何としても帰りたい」と決意をしている人たちを励ます“リアルな質問”が欲しかった。住民アンケートは単なる希望調査でもなければ、数字だけの客観調査でもないからである。

「問6」に比べて一転して「リアルな質問」になるのは、就学前の子どもがいる家族への「就学場所」に関する質問だ。「問11.今後、どのように就学させたいと考えていますか」という質問に対する回答は、「川内村に戻って就学させたい」43(29.7%)、「川内村以外の放射能被害のない場所で就学させたい」92(63.4%)、「その他」10(6.9%)となって、放射能汚染に対する親の強い懸念が率直に表明されている。

加えて、「問13.川内村以外で放射能被害のない場所で就学させたいと回答した方で、お子さんが高校進学に当たってご家族はどこに居住しますか」という質問に対して、回答の内訳は「家族に小中学生等の子どもがいるので、現在の場所で生活します」27(29.7%)、「子どもが高校を卒業するまで村外で生活します」52(57.1%)、「高校生だけを下宿させ、ほかの家族は川内村に戻る予定です」10(11.0%)、「その他」2(2.2%)となって、ほとんどの家族は子どもの就学期間中に帰村することはないことを表明している。

おそらく川内村の“帰村宣言”の今後の帰趨を決するのは、就学前あるいは高校進学を控えた親たちと子どもたち自身の気持と行動だろう。川内村の未来を担う子どもたちに対して如何なる次の手が打たれるのか、第2回目の「村の復興と行政機能再開に向けた帰村の意向調査」(2012年2月)の結果を通して考えよう。(つづく)