“男女の気持ちの違い”を考慮しない「帰村意向アンケート調査」には限界がある、“帰村宣言”は現実のものとなり得るか(4)、福島原発周辺地域・自治体の行方をめぐって(その20)、震災1周年の東北地方を訪ねて(91)

川内村の帰村宣言の直後に行われた第2回調査は、「村の復興と行政機能再開に向けた帰村の意向調査」という名の通り、避難者の帰村意向の確認のために行われた調査である。ホームページには調査結果の重要な部分が公開されており、かつ10代から70代以上までの年代別集計が掲載されているので、分析方法も格段に精度が挙がっている。ただし、調査票が掲載されていないので調査項目の全容はわからない。

調査概要は、配布数1350、回収数689、回収率51.0%がまず記載され、次に対象者数2894人、回答者数1817人、回答率62.8%と記されている。察するに1350世帯に調査票を送り、そのなかに10歳以上の世帯員2894人への個人調査票が同封されていて、1817人から回答が返ってきたのだろう。第1回の世帯調査は回収率63.8%だから、第2回の世帯員調査の回収率が62.8%になったのはかなりの高率だといえる。村民の多くが行政を信頼して調査に協力している証しだろう。

今回の調査の特徴は「世帯員=個人調査」なので、性別・年代別の分析が鍵になる。しかし(きわめて)残念なことに、この調査結果は年代別分析だけで性別分析のデータがない。ひょっとすると行政側が「男女の意見の差はない」と勝手に解釈して調査項目から性別記入欄をオミットしたのかもしれない。もしそうだとしたら、この判断は適切なものとは言えず、データの価値を著しく損ねるものになったことは否めない。

周知のごとく、放射能汚染に対する女性の不安感や恐怖感は男性よりも遥かに強い。たとえ夫婦の間といえども夫と妻の気持ちが一致しない例はよく知られている。県外避難者の多くが子どもを連れた母親であり、また遠隔地への避難者のほとんどが女性なのもこのことを裏書きしている。子育て期の若い女性の場合はとくに放射能に敏感なので、同じ世代であっても男女差の考慮なしには分析は十分なものと言えないのである。

このように男女の違いは、まず放射能汚染から「逃げる」「逃げない」の避難行動の判断に大きな影響を与える。それを確かめようとすれば、「県内」「県外」の避難者の性別内訳をみるだけで十分だ。また中長期的にも、男女差は「帰る」「帰らない」の判断に無視できない影響を与える。この点で川内村への“帰村分岐点”を左右するのは女性の意向だと言っても差し支えがなく、その意味でも性別データが欠落したのは残念なことだ。

とはいえ「ないものはない」のだから、1817人の年代別内訳を示して次に数もう。年代別内訳は、10代226人(12.4%)、20代138人(7.6%)、30代141人(7.8%)、40代168人(9.2%)、50代302人(16.5%)、60代297人(16.3%)、70代以上543人(29.9%)というものだ。これを「若年層」(10〜20代)、「壮年層」(30〜50代)、「中高年層」(60〜70代以上)に3区分して再集計すると、各々364人(20.0%)、611人(33.6%)、840人(46.2%)となって過疎地域の典型的な人口構成になる。

調査の要となる質問は、帰村意向の有無(問1)、「帰村する」とした人の帰村時期(問2)、「帰村しない・わからない」とした人の理由(問3)、川内村復興のために必要な施策(問4)である。この他にも自由回答欄が付いていて200人近い回答者から記入があり、しかもその内容は詳細な意見が多かった。通常、この種のフリーアンサーの記入率が10%を超えることは稀なので、この調査に対する回答者の関心が極めて高いことを示している(自由意見は役場から頂いた)。

まず帰村意向についての全体の内訳は、「避難しなかった」2(0.1%)、「帰村済み」94(5.2%)、「帰村する」591(32.5%)、「帰村しない」512(28.2%)、「わからない」618(34.0%)となり、「する」「しない」「わからない」がほぼ3等分された。まさに原発周辺地域の避難者が置かれている状況(心境)を象徴するデータである。

ところが、この帰村意向を年代3区分でみると(避難しなかった2人を除く)、顕著な差があらわれる。「わからない」はどの年齢層でもほぼ1/3を占めているが、「帰村する」は若年層19%→壮年層30%→中高年層40%と上昇していくのに対して、「帰村しない」は各々32%→28%→21%と下降していく。当たり前といえば当たり前の結果だが、私は「帰村しない」と表明している人たちが全体で3割弱、若年層においても1/3にとどまっていることに注目したい。(つづく)

     計    帰村済み  帰村する  帰村しない わからない
若年層  364(100) 2(5.5) 70(19.2) 167(32.1) 125(34.3)
壮年層  611(100) 32(5.2) 183(30.0) 171(28.0) 225(36.8)
中高年層 840(100) 60(7.1) 338(40.2) 174(20.7) 268(31.9)
全体   1815(100) 94(5.2) 591(32.6) 512(28.2) 618(34.0)