「福島県の原子力災害による避難区域等の住民に対する意向調査」が目下実施されている、中間貯蔵施設の現地調査受け入れが復興計画に与える影響(7)、福島原発周辺地域・自治体の行方をめぐって(その32)、震災1周年の東北地方を訪ねて(102)

 「福島県原子力災害による避難区域等の住民に対する意向調査」は、復興庁・福島県・地元自治体が共同で調査主体となり、(株)日本リサーチセンター(民間の調査会社)に調査業務の委託をして2012年半ばから実施中だ。葛尾村は2012年8月、大熊町(第1回)は同9月、田村市楢葉町飯舘村富岡町は同11月、双葉町は同12月、浪江町大熊町(第2回)は2013年1月から順次実施されている。調査結果(速報版)は葛尾村(2012年10月)と大熊町(第1次、同11月)の分が公表されており、今後他の市町村も年度内に公表される予定だ。

 調査方法はすべて郵送によるアンケート方式によるものだが、異なるのは調査対象と調査内容だ。調査対象は同じ避難区域でありながら、市町村によって一定年齢以上の全住民を対象にする場合と世帯主を対象にする場合に分かれている。この違いが調査結果にどのような形であらわれるか、興味深いところだ。
・満15歳以上の全町村民が調査対象:葛尾村約1400人(ただし中学生を除く)、楢葉町約7000人、双葉町約6300人
・満18歳以上の全町民が調査対象:浪江町約18400人、富岡町約13000人
・全世帯主が調査対象:飯舘村約3000世帯、大熊町約5400世帯、田村市約930世帯(避難指示解除準備区域及び旧緊急時避難区域のみ)

 調査項目は「現在の状況」と「将来の意向」に分かれていて、前者の項目は各市町村ともほとんど変わらない。主たる内容は、避難先の居住形態、雇用の状況、避難生活で困っていること(医療、介護・福祉、教育等)の3項目である。後者は今回調査のメイン項目であり、かつ市町村によって避難先から直接帰還するか、いったん「仮の町」その他を経由して帰還するかの方針が異なるため、調査内容もそれに応じて異なっている。
・避難先から直接帰還する方針の葛尾村楢葉町田村市の場合:調査内容は、帰還の有無、帰還の時期・条件、帰還に向けて優先的に取り組むべき事項、帰還後に行政に求める事項などである。
・避難先から「仮の町」その他を経由して帰還する方針の双葉町浪江町大熊町富岡町飯舘村の場合:共通する調査内容は、「仮の町」その他への居住意思の有無、移転するに当たって優先する事項、移転先で望む行政サービス・施設、帰還の有無、帰還の時期・条件などである。 
 8市町村の調査結果(速報版)が全て揃うのは年度末だから、いずれそのときに全体の傾向を分析したいと思うが、現時点では中間貯蔵施設候補地9カ所のうち6カ所が集中している大熊町(第1次分、2012年11月6日公表)の調査結果についてだけとりあえずふれておきたい。調査概要は、調査時期が2012年9月7日〜9月24日、調査対象が全世帯主(分散避難している場合はそれぞれの代表者)5378世帯、回収数は3242世帯(回収率63.7%)である。

 調査結果のなかの最も衝撃的な数字は、大熊町への帰還についての回答だろう。「現時点で戻りたいと考えている」のは377世帯(11.0%)だけで、残りは「現時点で戻らないと決めている」1563世帯(45.6%)、「現時点ではまだ判断がつかない」1435世帯(41.9%)だったからだ。

 これまでどちらかと言えば、私は、原発周辺地域の復旧・復興のあり方を「帰還」に重点を置いて考えてきた。当該自治体の関係者の考え方もほぼ同様に「帰還」を目指すものだった。避難者の声も圧倒的に「帰りたい」というものだった。にもかかわらず、大熊町住民の半数近くが「現時点で戻らないと決めている」という事実は否定のしようがない。

 戻らない理由は、言うまでもなく高放射線量が将来も続くことだ。戻らないと決めている1563世帯の理由(複数回答)をみると、過半数の世帯が挙げているのは、「放射線量に対する不安がある」1263世帯(80.8%)、「原子力発電所の安全性に不安がある」1097世帯(70.2%)、「家が汚損・劣化し、住める状態ではない」1057世帯(67.6%)、「生活に必要な商業施設が元に戻らない」978世帯(62.6%)、「医療環境に不安がある」855世帯(54.7%)というもので、原発周辺地域の住民は、人間の生存を許さないほどの凄まじい危険状況に向き合っていることがよくわかる。この現実をいったいどう考えればよいのだろうか。(つづく)