大阪都構想推進本部の政策チームは“広告会社”だった、大阪維新の会内部資料が暴露した橋下維新の実体(その2)、ポスト堺市長選の政治分析(11)

 大阪維新の会内部資料の「現状認識」にはこの他まだまだ続きがある。それは「市民の政治的欲求の変化」と「住民投票の困難性」という項目だ。前者は、民主党政権から安倍政権へ移行したことで政権が安定し、市民の危機意識がなくなって維新への期待が薄れてきたというもの。後者は、そのものズバリの「擬人化しない住民投票の困難性⇔敗北すれば大阪維新壊滅」との指摘である。「擬人化」といった表現がいったい何を意味するのか、私のような世代には直ちには理解できないが、「敗北すれば大阪維新壊滅」と言うのはよくわかる。この点では、維新も私も(立場は違うが)同じ危機感を共有しているのだろう。

 それはさておき、私が『ねっとわーく京都』のコラム原稿を書いていた11月中旬の時点では、都構想推進本部の政策チームが“広告会社”であることを知らなかった。だから後で述べるように、なぜ「全体戦略」や「活動計画」の重点がこれほど大阪都構想の“広報戦略”に置かれているのか、なぜ都構想の設計図に関わる具体的課題にまったく触れられていないのか、その理由がよくわからなかったのである。しかし、この内部資料の作成者が広告会社だとわかってからは、橋下維新の狙いが来秋に予定されている大阪都構想の是非を問う住民投票を“広報宣伝術”で乗り切ろうとするものであることに漸く気付いたというわけだ。

 周知のごとく、アメリカの大統領選挙や州知事選挙などでは莫大な広告費が選挙戦に注ぎ込まれ、選挙費用のほとんどがテレビ広告費で占められることも珍しくはない。それもまともな政策宣伝であればまだしも、大半が「ネガティブ・キャンペーン」(敵対する政党や相手候補に対する誹謗中傷合戦)に終始するのだから、選挙戦は政策では勝てず広告戦で決まるとさえ言われている。しかし今度の場合は大阪都構想の是非を問う住民(信任)投票だから、ネガティブ・キャンペーン方式は通用しない。と言って、都構想の設計図すなわち具体的な中身の話になると次々にボロが出てくるのでこれも困る。そこで「全体戦略」(その1・問題意識)は次のような方向を提起する。

 「都構想そのものか⇔統治機構再編の向こう側にあるものか」、「向こう側にある『夢』を訴えないで住民投票に勝てるのか」
 「市民への訴求手段⇔文字による訴求から画像による訴求へ」、「文字中心の説明で住民に理解が広まるのか」

 この問題意識は、大阪維新の広報戦略の意図をよくあらわしているといえるだろう。つまり都構想そのものの説明に重点を置くと、この前の府市統合法定協議会での経費削減効果に関する議論のように「羊頭狗肉」の実態が暴露されるので、それを避けて「向こう側にある“夢”」を語ろうというわけだ。言い換えれば、大阪都構想とはどういうものかという「現実の世界」を語らないで、大阪都構想が実現すればどんな素晴らしい“夢”を描けるかと言う「バーチャルな世界」(空想の世界)で勝負しようというのである。

 そして“夢”を語るには文字による説明は適当ではなく、画像によるイメージアップの方法が有効だとする。つまり、キタ(北・新大阪)では「うめきた」「リニア新幹線」、ミナミ(あべの、難波)では「ハルカス」「LRT」、夢州・咲州では「カジノ」「戦略港湾」といった“未来の戦略的プロジェクト”を画像化してプレゼンし、大阪都構想をテレビコマーシャルのように映像化して市民の関心を惹きつけようというわけだ。

 通常、政党の政策立案や戦略構築には「シンクタンク」が起用される。シンクタンクとは政策提言を主たる業務とする研究機関であり、関連分野の多くの専門家集団がその任に当たっている。ところが、大阪維新が起用したのは他ならぬ広告会社だったのである。本来であれば、大阪都構想すなわち地方自治体の統治機構再編といった戦略的課題は、とうてい広告会社の手に負えるような簡単なテーマではない。それは地方自治研究や自治体政策に分厚い蓄積を持つシンクタンクでなければ扱えないような課題であり、政府においても内閣府審議会の「地方制度調査会」などにおいて延々と議論が重ねられているテーマでもある。

 それを大阪維新が広告会社を起用してやろうというのだから、彼らのいう大阪都構想がどの程度のものであるかはおよそ察しが付くというものだろう。橋下代表のいう大阪都構想は、大阪府市の二重行政の無駄を排して大阪都に一元化し、それによって生まれた余剰財源を広域的プロジェクトに投資して、大阪を世界と戦える国際都市にするという極めて単純(粗雑)な思いつきにすぎない。だから、これをいざ実現しようとすると次から次へと欠陥が暴露されて収拾がつかなくなり、今度は広告宣伝術による“イメージ戦略”で批判をかわそうというのである。次回は広告宣伝術の視点から内部資料を解剖しよう。(つづく)