「一の丸」(堺市)、「二の丸」(岸和田市)に続いて、“維新本丸”(大阪府・市)も陥落か、泉北高速鉄道外資(米投資ファンド)売却議案否決の波紋(その1)、ポスト堺市長選の政治分析(17)

 出張を終え、自宅に戻って大量に溜まった新聞を整理していたら、大阪府議会で泉北高速鉄道売却議案が否決された記事がでかでかと出ているのに驚いた。しかも、朝日・毎日・読売・産経の各紙(大阪本社版、2013年12月17日)がすべて1面トップで扱っているのだから、余程の大ニュースだといえる。暫くの間、情報から遮断された環境で仕事をしていたので外部の出来事にまったく気付かなかったのである。

 1地方自治体の出来事がこれほどの大ニュースになるのは、やはりそれなりの理由(わけ)がある。外資投資ファンドによる公共交通機関の買収は「日本初」であり(最近、米投資ファンドによる私鉄買収の動きはあったが失敗した)、しかもいま話題の橋下維新の命運が懸かっている案件だから、各紙が挙って注目したのであろう。

 橋下維新にとって、舞台となった大阪府は“本丸中の本丸”ともいうべき特別な存在だ。橋下氏が政治家(知事)としてデビューした本家本元が大阪府であり、首長と議会を制しているのも大阪府だからである。維新が知事部局(執行機関)と府議会(審議機関)の両方を掌握しているのだから、橋下流に言えば、民意をいわば白紙委任されたのも同然で「出来ないことはない」のである。それが維新派議員4人の造反によって重要案件が否決されたのだから、二重三重の意味で衝撃が走った。ひとつは維新執行部に従属していた議員のなかから造反分子が4人も出たこと、もうひとつはその結果として維新が府議会で過半数を失ったこと、そして何よりも“維新本丸の陥落”と言う決定的印象を大阪府民に与えたことである。

 実は、このような事態が起り得ることは予測しないでもなかった。来年早々に発刊される『ねっとわーく京都』(2014年2月号)の「大阪都構想住民投票は実現するか〜大阪を府民・市民の手に取り戻すときが来た(その3)〜」というコラムで、私は住民投票には3つの高いハードルがあることを指摘していた。3つのハードルとは、第1が大阪府大阪市特別区設置協議会(法定協議会)で協定書がまとまること、第2が大阪府大阪市両議会で協定書が承認されること、第3が大阪市民を対象とする住民投票大阪都への移行が承認されることである。原稿の締め切りが12月13日だったので(正月休みが入るので例年この時期は特に締め切りが早い)、この時点では次のように書いている。

 「第1のハードルは、現在進行中の大阪都制のコア(核心)ともいうべき特別区の区割り案が法定協議会においてすんなりと承認されるかどうかわからないということだ。現在、区割り案をできるだけ早く1つに絞り込みたい維新とそうはさせまいとする反対派が鋭く対立しており、法定協議会の結論がなかなかまとまらない。また維新内部においても「5区」でいくのか「7区」でいくのか意見が統一されていないこともあって、区割りは難航に難航を重ねているのである」

 「第2のハードルは、仮に協定書がまとまったとしても、府・市両議会で協定書が果たして承認されるかどうかが全く五里霧中だということだ。大阪府議会は維新が過半数議席を有しているので「承認間違いなし」との声も聞かれるが、実はそれほど簡単なことではない。現在の府議会構成は現員105(定数109、欠員4)のうち維新55なので、維新は過半数53を僅か2議席上回っているにすぎない。もし維新会派から3人の議員が離脱するようなことになれば過半数を割ることになり、協定書は不承認になる」

 「こうした維新府議の離脱がささやかれる背景には、次の統一地方選挙から府議会定数が109(うち1人区33)から88(同48)に大幅削減されることがある。この定数削減は維新が各派の反対を押し切って強行採決したもので、採決当時は1人選挙区を増やすことで維新の絶対多数を確保しようとする党利党略にもとづくものだった。なにしろ維新は前回府議選で1人選挙区33議席のうち29議席を獲得したのだから、その勢いがこれからも続くと思っていたのだろう。ところが維新が「落ち目」となった今では、1人区が48議席に増えたことが逆に維新の命取りになろうとしている。そして次の府議選で落選しないためには、維新を離脱して他会派に乗り換えるしかないという噂が真実味を増し、それが府議会を駆け巡っているのである」

 私の観測は、住民投票を巡ってはいずれにしても維新派議員の離脱は避けられないというものであるが、意外だったのはそれが泉北高速鉄道の売却問題で一気に早まったということだ。その鍵は、造反した堺市南区選出府議の次の言葉にある。「今回の議案は自分には大阪都構想と同じぐらい重要、住民の悲願(の値下げ)が10円で決着することにストップをかけた」(日経新聞、2013年12月17日)。次回からこの問題を掘り下げて考えてみたい。(つづく)