「野党再編」で窮地を脱しようとする橋下維新の“究極の誤算”、結いとの合併では地元大阪で生き残れない、維新と野党再編の行方をめぐって(その17)

 橋下氏本人はもちろんのこと、大阪維新の会の幹部は挙って野党再編に熱心だと聞く。それは大阪都構想の手詰まりを府議会・大阪市議会での合議によって解決しようとするのではなく、国政レベルの野党再編の力を駆って「上から」打開しようとする橋下氏一流の強引な手法がまだ有効だと思っているからだろう。だが、この手法が通用した(と思われてきた)のは、橋下氏のカリスマ的人気が圧倒的だった昨年5月頃までの話だ。

 周知の如く、橋下人気は次のようなプロセスを経て加速度的に低下してきた。最初の切っ掛けは、昨年5月、突然飛び出した「従軍慰安婦・風俗必要発言」だった。この発言は全国を震撼させる(アメリカにまで波及した)ものとなり、2011年総選挙に続いて2013年参院選で更なる国政進出を果たそうとする維新にとっては大打撃となった。とりわけ関西では維新与党の公明支持層(創価学会婦人部など)の強い反発に遭い、この発言を境に維新と公明の蜜月関係にひびが入ったといわれる(9月の堺市長選でも公明支持層は維新候補に投票しなかった)。

 従軍慰安婦発言が橋下氏の「最初のオウンゴール」だったとすれば、昨年半ばから発覚し始めた民間公募校長・区長の相次ぐセクハラ・パワハラ不祥事は、橋下チームメンバーの「反則退場」が止まらなくなったことを意味する。この「反則退場」はその後も途切れることなく続いていて(現在も進行中)、維新サポーターとくに子育て期のファミリーを「もういい加減にしてほしい」とシラケさせる最大の原因になっている。若い母親たちの期待を裏切るといったいどんなことになるか、そのことの怖さを橋下維新は認識していないのだろうか。

 橋下チームの凋落を決定づけた「2点目のオウンゴール」は、今年1月から2月にかけての大阪都構想の制度設計を話し合う法定協議会における公明党との決裂だった。大阪市特別区に分割する4つの区割り案を1つに絞り込みたいとする橋下氏の強引な提案に対して公明幹部は「議論が不十分で賛成できない」と伝え、自民、民主、共産の各派とともに反対に回った。常識のある首長なら議会の同意を得られない提案は引っ込めるなり修正したりするのだが、そこはプライドの高い(独裁志向の強い)橋下市長のこと、逆切れして「(公明が衆院の)議席欲しさに大阪都構想に協力すると言って、議席を得たら反故にするのは人の道に反する」と激しく公明党を批判(罵倒)し、稚拙にも公明を与党から野党へと追いやった。

 ここから、大阪出直し市長選という橋下氏の「3点目のオウンゴール」劇が始まる。相手チームが参加しない試合を一方的に開会宣言し、観客もまばらな会場で独り試合を強行する。相手チームのゴールキーパーがいないのだから得点は入り放題。「勝った」「勝った」とはしゃいだのはいいが、世間は誰一人「公式試合」とは認めない。結局、試合そのものが政治的には「没収試合」となり、橋下チームの汚点が重なっただけの醜い結果となった。

 こうしてみると、橋下氏が監督兼主将を務める橋下維新チームは、橋下氏の派手な独り善がりのパフォーマンスが悉く「オウンゴール」となり、その度に失点を重ねてきたことが分かる。しかし橋下氏が「監督兼主将」だから、チームメンバーとしては彼の失策が続いても文句が言えない。文句を言えばクビになるので黙っているしか仕方がない。こうして日本維新の会は分裂し、大阪維新の会は地元大阪で政治的に孤立するという事態に追い込まれたのである。

 前口上が長くなってしまったが、以上が大阪維新の会が直面する政治世界の偽らざる現状である。前回ブログの最後で紹介した「維新地元、分派の動き」と題する朝日新聞記事は、このような現状に耐えかねた地元議員から出てきた必然的な動きを捉えたもので、それが一過性の行動に終わるとは到底考えられない。記事の中にある維新市議の一連の発言、「(維新にとっては)まったく成果のない議会だった。同じ状況が続くならやっていられない」、「ほんとに何も動かないし、市議をやっていて何なんだろうな、って思う」、「これから1年、何も前に進まない状況が続いては意味がない。動向を見極めていきたい」等々が彼らの抑えがたい心情を物語っている。

 橋下氏や大阪維新の会の幹部は、結いとの合流(合併)に異常な執心を燃やしている。石原氏に棄てられた今となっては、残された道はそれしかないということなのだろう。だが、来春の統一地方選で当落に直面する維新府議・市議にとっては、大阪都構想の展望を抜きにしたままで「野党再編」の話をしても、有権者にはまったく受け入れられないことをよく知っている。そして大阪都構想の展望がもはや開けないこともよく知っているのである。こんな四面楚歌・八方塞りのなかで彼らはいったどんな脱出口を求めているのか。一説によれば、維新からの離党を決意しているものの、今それを明らかにすると議席を失うので統一地方選直前まで秘匿し、無所属あるいは(それまでの水面下の動きを通して)他党派候補として名乗りを上げるという動きも相当あるという。

 今朝はまだ各紙を読んでいないので確かなことはいえないが、石原新党への華々しい動きに比べて、橋下新党のほうはなかなか進展を見せない。また野党再編に関する直近の世論調査(5月30日〜6月1日実施の読売新聞世論調査、読売新聞6月2日)によれば、「日本維新の会の石原共同代表と橋下共同代表は、維新の会を分党することで合意しました。このことで、野党再編が進むことに期待しますか、期待しませんか」との質問に対して、回答は「期待する」28%、「期待しない」62%だった。(つづく)