自民党大阪府連はダブル選完敗の総括をどうする、中山府連会長はこのまま居座るのか、それとも完敗の責任を取って辞任するのか、おおさか維新を野党分断カードに起用する安倍戦略が着々と進行している(2)、大阪ダブル選挙の行方を考える(その12)

大阪ダブル選の翌々日、11月24日の読売新聞は「エース降板 党の行方は」という興味深い記事を掲載している。「自民 柳本氏で大敗 人材喪失」というわけだ。それを象徴する光景が描写されている。
――大阪維新の会が圧勝したダブル選から一夜明けた23日午前10時、市長選で敗れた自民党市議の柳本顕氏(41)は、大阪・難波の街頭に立っていた。選挙戦最終日、「(投開票の22日を)大阪の民主主義を守った日にしよう」と絶叫した柳本氏だが、この日は約4分、意気消沈した様子で淡々と話し、最後に一礼すると車でその場を去った。聴衆は約20人。自民党府連幹部は「22日は、自民府連が死んだ日だ」とつぶやいた。
――敗北は、人材の喪失も意味する。柳本氏は、出馬直前まで市議団を束ねる幹事長の要職にあった。知事選で敗れた前自民党府議の栗原貴子氏(53)は府議政調会長だった。府議会(定数88)では特に、栗原氏の辞職で欠員1となり、第1党の大阪維新(43議席)が過半数まであと1人と迫る。自民党府議団幹部は「もう維新には対抗できない」と話す。別の府議もあきらめ口調でこう語った。「維新との協調を考えたらいい。落ちる所まで落ちたんやから」

一方、ダブル選の翌日11月23日に大阪府連ホームページに出された中山府連会長のコメントは以下の通りである(全文ママ)。
「昨日行われました大阪府知事選挙、大阪市長選挙大阪市西成区大阪市会議員補欠選挙、3つの選挙におきまして投票の結果が判明いたしました。 栗原候補、柳本候補、矢田候補。皆様方お支えのもと、3候補とも厳しい戦いをよく健闘する事が出来ました。結果として推薦する候補が敗れた事は、自由民主党にとりまして誠に残念ではありますが、選挙結果を謙虚に受け止め、敗因を分析していきたいと考えています。今回の選挙戦におきまして、各候補者の必勝を期し、ご支援を賜りましたすべての皆様方に、衷心より感謝を申し上げます。3候補はもちろんの事、私たちは生まれ育った愛する街、大阪の繁栄発展、市民府民の健康と幸福を心から希求しています。今後とも日本国の繁栄を、愛する街、この大阪から実現する為にも私達が自らを奮い立たせ、聖徳太子のおつくりになられた最古の十七条憲法第1条の精神に則り、国民の為の政治に尽力して参る所存です。この度は、本当にお世話になりました。どうか今後ともよろしくお願い申し上げます。ありがとうございました。感謝。自由民主党大阪府支部連合会会長 中山泰秀

このコメントには、本来なら完敗の責任をとって即刻、府連会長を辞任表明すべきところ、通り一遍の言葉で事を済ませようとする中山氏の意図がよく出ている。全体が無内容な言葉の羅列であることはさておき、「完敗」を「厳しい戦いをよく健闘する事が出来た」と言い換え、またこれだけ明白な敗北原因を「選挙結果を謙虚に受け止め、敗因を分析していきたい」と先送りするなど、どうやら自分の責任は頬被りしてこのまま府連会長に居座り続ける算段らしい。この人物には、府連幹部の「22日は自民府連が死んだ日だ」という絶望的なつぶやきも、府議団の「もう維新には対抗できない」「維新との協調を考えたらいい。落ちる所まで落ちたんやから」という声も「どこ吹く風」としか感じられないようだ。

もともと自民党大阪府連の会長人事は、一般党員はもとより府議・市議など地方議員でさえ参加せず、国会議員(だけ)の事前協議で決まるという典型的な「ボス人事」だった。まるで親分衆が全てを取り仕切るような印象を与える前近代的体質だ。それがダブル選を直前に控えた今回の会長人事では紛糾に紛糾を重ね、なぜか中山氏に決まった。この間の経緯を朝日新聞が次のように伝えている(10月13日電子版)。
――自民党大阪府連は12日の府連大会で、11月の府知事、大阪市長のダブル選挙で陣頭指揮を執る新しい会長に中山泰秀衆院議員(44)を選んだ。本命視されていた北川知克衆院議員(63)との間で異例の投票決着に。中山氏は自民党の擁立候補を「自主的支援」する方針の共産党との連携に否定的で、反「大阪維新の会」勢力の結集という戦略にも影響が出そうだ。府連会長人事は、国会議員の協議で事前に内定するのが通例だが、当日までもめた。前会長の竹本直一衆院議員(74)らベテランの間では5期目の北川氏を推す声が強く、北川氏も会長就任を前提に、知事候補の擁立作業に当たっていた。待ったをかけたのが、4期目の中山氏。選挙を前に「府連のイメージを刷新したい」若手が中心に推した。複数の関係者によると、前日まで府連所属の国会議員18人は両氏の支持で真っ二つに割れていたが、府連大会直前に国会議員が無記名で投票し、11対7で中山氏が勝ったという。
――中山氏は府連大会後、記者団に対し、大阪都構想住民投票をめぐり、自民党共産党が一緒に演説会を行ったことを批判。「自民と共産がまるで相乗りで(ダブル選挙の自民党の擁立候補)2人を応援するという誤解を今まで生んでいた」と指摘したうえで、「共産党に対しては、我々から何か要請することはあり得ない」と踏み込んだ。発言の背景には、維新が「自民、共産が一緒にやっている」と攻撃を展開していることもあるようだ。(略)ただ、自民党の市長候補の柳本顕(あきら)市議(41)は「大同団結」を強調しており、中山氏の方針と食い違う恐れもある。自民のベテラン国会議員は「『勝手に票を入れて』という戦略が期待できなくなる」と嘆いた。

栗原・柳本氏が自民党府議・市議でありながら「無所属」で立候補したことは、柳本氏が言うようにダブル選を「大同団結」して戦ううえで極めて重要な意味があった。自民党公認では都構想住民投票で結集した「オール大阪」の力を発揮する事が出来ず、ダブル選の見通しも立たなかったからだ。しかし橋下氏らと通じる首相官邸の意図は違った。たとえ1勝1敗でも大阪維新がダブル選で敗れれば橋下氏らの政治生命が危うくなる可能性がある以上、クーデター的戦術を行使しても中山氏を府連会長に就任させて「オール大阪」体制を壊す必要があった。中山氏は官邸の圧力を利用して府連所属国会議員の多数派工作を行い、期待に応えて首尾よく府連会長に就任したのである。

自民党大阪府連を取り巻く環境はこれから一段と厳しくなるだろう。ダブル選の勝利で大阪維新に世論が傾いたいま、橋下氏らの公明党を巻き込む多数派工作が間もなく実行に移されるだろう。橋下氏は11月26日の記者会見で「維新もとにかく攻撃の一点張りだったが、吉村新市長になったら自民、公明と妥協点を探る新しい大阪市政の時代に入る」(朝日新聞11月26日)と述べ、府議会・市議会で与党多数派を形成する意図を鮮明にした。公明党本部や創価学会はすでに「維公」体制を期待していることを考えれば、国会に先駆けて「維公」連立が大阪で形成されることになり、少数派となった大阪自民が孤立することも考えられる。その時、大阪自民は「地元保守」としての主体性を維持するのか、それとも大阪維新に屈して「維公」体制に加担するのか、その帰趨が問われることになる。中山氏がその時まで府連会長にとどまるときは(週刊文春で暴露された「クラブホステスお持ち帰り」事件で失脚する可能性もあるが)、首相官邸の指示に従って「維自公」体制の構築に全力を傾けるだろう。国会での改憲勢力総結集モデルの構築のために。(つづく)