安倍内閣・自民党の高支持率を分析する(5)、「保革対決=左右(Y軸)の対決」の枠を超えた対抗軸、すなわち「護憲対決=上下(X軸)の対決」の構図が必要だ、維新と野党再編の行方をめぐって(その8)

 革新勢力の政治戦略の基本は「保革対決」に置かれている。「保守=右翼」「革新=左翼」とも呼ばれているので、保革対決は「左右の対決」と言い換えることもできる。だが「中間政党」あるいは「第3極」という言葉もあるように、左右の中間領域にいろんな政党が生まれてくると、「保革」の境界があいまいになってくる。そうなると政策の中身で「保革」を判断することにならざるを得ないが、政策ごとに政党のスタンスが異なるので、これも「左右」にきれいに分けることが難しい。

 一番明快で簡単なのは、政党の名前を付けた対決構図を掲げることだ。これを最も得意とするのが共産党で、いまは「自共対決」がそのキーワードになっている。あらゆる政治情勢を「自共対決」の構図から分析して戦略戦術を組み立てる――という(硬直した)思考方法と行動様式だ。もっとも「自共対決」ばかりを強調していると他の政治勢力との連携が難しくなるので、政策ごとに「一点共同」というスローガンも添えられている。

 問題なのは、目下の最大課題である「改憲阻止=安倍政権打倒」という政治目標に対して、「自共対決」という政治戦略が果たして有効なのかどうかということだろう。「自共対決」には狭義と広義があることに注意しなければならない。狭義の「自共対決」は自民党共産党の政党対決だから、自民党改憲を政策の基本に据えている以上、共産党が対決するのは当然のことだ。しかし広義の「自共対決」になると、そこには政党支持者も含めての保革全体の対決になるので、自民党支持者や自民党と連立を組んでいる公明党支持者は、「自共対決」を叫ばれると共産党から攻撃されていると感じるに違いない。

 だが、最近の憲法をめぐる世論は複雑でありかつ激しく流動化している。昨今の世論調査では自民党支持者の中にも護憲派が多数派になり、地方議員の中には自民党の党是である改憲に反対するグループも出てきている。まして中間政党の公明党になると、公明党支持者の中核である創価学会員の間では改憲は党是に反するとの声が強い。こうした情勢の変化を読むことができず、百年一日のごとく「自共対決」を叫ぶだけでは、改憲に反対する自公支持者を護憲側に結集するのは容易でない。

 この点で、9条の会の活動はいくら評価しても評価し切れないほどの貴重な経験だ。このような国民的基盤に立った護憲活動がなければ、とっくの昔に改憲が強行されていたと言っても過言ではない。私の周辺でも、「かって」の自民党支持者や公明党支持者が9条の会に参加する中で護憲派に転じた事例が数多く見られる。その意味で9条の会の政治的影響力は、現在もこれからも衰えることはないだろう。

 にもかかわらず、現在進行中の安倍政権による急迫した改憲情勢の展開の下では、私はこれまでのような9条の会の活動だけでは解釈改憲の企みを防ぎ切れないと思う。「かって」の自公支持者だけではなく、「現在」の自公支持者をも引きつけることのできるような新たな方針を打ち出さなければ、自公支持者の中の護憲派を安部政権の囲いの中から解き放つことができないと考えるからだ。自民党支持者であれ公明党支持者であれ、安倍内閣改憲方針に反対する多くの勢力を保守層・中間層も含めて結集しなければ、安倍政権の暴走を止められないと思うからだ。

 革新勢力がいまなすべきことは、革新内部での集会や活動に甘んじることなく、自公支持団体や支持者に解釈改憲についての対話を積極的に呼びかけることではないか。かって作家・松本清張氏の仲介で宮本共産党委員長と池田創価学会会長の会談が実現したことがあったが、いまこそ共産党公明党創価学会憲法対話を呼びかけるときだ(断られても構わない)。またTPPや原発問題などで自民党支持団体である農協や医師会との対話が全国各地で行われているように、憲法に関する対話集会や公開フォーラムを地域女性会(婦人会)など地元保守層と共催するなどの試みがもっとあっていいと思う。

 連休明けの安保法制懇報告の提出を切っ掛けにして、集団的自衛権の行使容認など露骨な解釈改憲の動きがこれから一段と活発化するだろう。だが、このときは国民の憲法への関心が一層高まる時期でもある。たとえば今国会の会期が終わる6月下旬までの1ヶ月を「憲法対話月間」に設定して全国民に憲法対話を呼びかけ、全国各地で行動を起こす。そしてその中から従来の「保革対決」の枠組みを超えた「護憲対決」の構図を作り上げ、自公支持者をも巻き込んだ国民運動で安倍政権を包囲するーー。こんな新しい政治戦略があってもいいと思うのである。(つづく)