産経新聞は「社会の公器」(ジャーナリズムの公共的使命)を担う資格がない、社の主張(社説)と真っ向から矛盾する世論調査結果(2014年7月22日、集団的自衛権の閣議決定について)をいったいどう捉えるのか、維新と野党再編の行方をめぐって(その30)

 産経新聞は7月19、20両日、集団的自衛権の行使容認に関する閣議決定後の世論調査を実施した。かねてより産経新聞世論調査は質問の仕方などで「右寄り」の結果が出ることで有名だから、今回も「そうだろう」と思って紙面を読んだところ、案に相違した「普通」(右寄りでない)の数字が並んでいた。調査を実施した当の産経新聞は、この調査結果の分析についてさぞかし困惑したのではないか。

世論調査に関する記事は、各社とも思い通りの結果が出たときは大々的に報道するが、そうでない場合は「生のデータ」だけを掲載するか、あるいは論評を加えずに表面的な数字の解説だけで終わることが多い。社の主張と異なる結果が出たときはその数字を表に出すことは都合が悪いので、出来れば隠したいとの編集心理が働くのであろう。7月22日の産経記事は、まさにその「お手本」ともいうべきものだった。

結論的に言えば、産経新聞安倍内閣の支持率下落(だけ)は気になるものの、それ以外はどんな数字が出ようと「われ関せず」といったおよそジャーナリズムとしては考えられない無責任な書きぶりなのだ。日頃から社説(産経の場合は「主張」)や記事、コラムなどで安倍政権に対して集団的自衛権の行使容認を散々煽っておきながら、その主張が世論に受け入れられなくてもいっこうに反省する様子がない。この姿勢は「社会の公器」たる新聞の存在意義を自ら踏みにじるものであり、世論に基づいて政府を批判すべき「社会の公器」の立場を完全に投げ捨てるものと言わなければならない。

世論調査の主な部分を紹介しよう(順不同)。
●「憲法解釈の変更によって集団的自衛権を使えるようにしたことについて、政府は国民に十分な説明を行っていると思うか」
○「思う」10% 「思わない」86% 「他」5%

●「集団的自衛権の行使ができるよう憲法解釈を変更する閣議決定を行うにあたって、政府・与党内で十分な議論が行われたと思うか」
○「思う」16% 「思わない」77% 「他」8%

●「同盟国の米国など日本と密接な関係にある国が武力攻撃を受けた際、日本への攻撃とみなして一緒に反撃する「集団的自衛権」について、政府は限定的な行使ができるよう憲法解釈を変更する閣議決定を行った。これを評価するか」
○「評価する」35% 「評価しない」56% 「他」9%

●「集団的自衛権を使えるようにしたことで、他国が日本を攻撃することを思いとどまらせる『抑止力』が高まると思うか」
○「思う」31% 「思わない」59% 「他」8%

●「政府は集団的自衛権の発動条件を「国民の権利が根底から覆される明白な危険がある」場合などに限るとしているが、これで歯止めがかかると思うか」
○「思う」29% 「思わない」60% 「他」11%

●「国際協力のための自衛隊の海外派遣について、政府はこれまで時限立法の特別措置法を制定して対応してきたが、安倍首相は海外派遣を随時可能にする一般法(恒久法)も含めて検討する考えを示している。自衛隊の海外派遣に一般法を制定することに賛成か」
○「賛成」33% 「反対」56% 「他」12%

●「石油を積んだタンカーなどが通る海上交通路を、自衛隊集団的自衛権を使って国際紛争の停戦前でも機雷の除去を行うことに賛成か」(カッコ内の数字は前回調査の6月28、29両日の結果)
○「賛成」48%(60%) 「反対」37%(26%) 「他」15%

●「安倍内閣を支持するか」(カッコ内数字、同上)
○「支持する」46%(49%) 「支持しない」40%(34%) 「他」14%(17%)

この世論調査結果は、どこから読んでも安倍政権の集団的自衛権に関する閣議決定に「ノー」を突きつけている。とりわけ「国民に対する説明責任を果たしたと思うか」との質問に関しては、回答者の8〜9割が「十分に説明したとは思わない」と答えている。また、閣議決定を挟んだ僅か1ヶ月足らずの間に、集団的自衛権を行使した「機雷除去」への賛成が12%減り、反対が11%増えている。

言い換えれば、この世論調査安倍内閣閣議決定した集団的自衛権の内容や効果に関しても、また自公両党だけの密室協議で決めたという解釈改憲の方法に関しても、国民はすべて「ノー」と言っているのである。そしてその結果が、産経新聞が「内閣不支持、初の4割」と報じた内閣不支持率の急激な上昇をもたらしているのである。

翻って閣議決定が強行された翌日、7月2日の産経新聞の驚くべき「主張」をみよう。まず総論は、「戦後日本の国の守りが、ようやくあるべき国家の姿に近づいたといえよう。政府が集団的自衛権の行使を容認するための憲法解釈変更を閣議決定した。日米同盟の絆を強め、抑止力が十分に働くようにする。そのことにより、日本の平和と安全を確保する決意を示したものである。自公両党が高い壁を乗り越えたというだけでない。長年政権を担いながら、自民党がやり残してきた懸案を解決した。その意義は極めて大きい」と諸手を挙げて全面賛成の立場だ。

次いで「日米指針と法整備へ対応急げ」と、自衛隊の活動範囲や武器使用権限などを定める新たな関連法の整備を促し、さらには「9条改正の必要は不変」として、「今回解釈を変更したからといって、憲法改正の核心である9条改正の必要性が減じることはいささかもない。自衛権とともに、国を守る軍について憲法上、明確に位置付けておくべきだ。安全保障政策上の最重要課題として、引き続き実行に移さなければならない」と改めて強調する。いったいどこからこんな国民世論と隔絶した(矛盾した)主張が導き出されるのか、不思議でならない。

例年、産経新聞も参加する日本新聞協会の新聞大会は、「特別決議」として「社会の公器」としての新聞の公共的使命の遵守を誓っている。2013年度(第66回、要旨)は、「民主主義を支える基盤としての権力監視、多様な意見の紹介、的確な論評と解説、日常生活に欠かせない情報の提供、公正な歴史の記録者――これらの公共的な役割を、わたしたち新聞人は品格と強い責任感をもって果たし、より平和で安定した社会の実現に寄与することを誓う」と謳っている。

前年の2012年度は、「真実を追究し、国民の知る権利に応える―これこそがわれわれの最大の使命である。今後も公共的・文化的使命を自覚し、多事多難な時代を乗り越えるために全力を尽くすことを誓う」。そして前々年の2011年度は、「われわれはジャーナリズムの公共的な使命を心に深く刻み、政治、経済、環境など多角的な視点から、日本が進むべき道を読者に提示し、未来への展望を切り開いていかねばならない。今後も読者に寄り添い、人々から信頼されるメディアであり続けるよう全力を尽くすことを誓う」など、同様の趣旨が毎年繰り返されている。

新聞協会の特別決議は「満場一致」が原則だから、産経新聞も賛成したことは間違いない。だとすれば、産経新聞は自らの「主張」と世論調査結果の乖離(矛盾)を新聞協会の特別決議に照らして自ら検証しなければならない。私は提案する。産経新聞は自らの「主張」の妥当性について世論調査を行うべきだ。

産経新聞集団的自衛権閣議決定について(全面)賛成しました。また自衛隊の活動範囲や武器使用権限などを定める新たな関連法の整備を促しました。さらに自衛権とともに国を守る軍について憲法上明確に位置付けるために、安全保障政策上の最重要課題である憲法9条の改正を改めて主張しました。あなたはこの主張に賛成ですか、それとも反対ですか」と。(つづく)