自公連立政権・安倍内閣の支持率に構造的変化の前兆があらわれている、その兆し(若者・女性の安倍離れ)を捉えた日経新聞世論調査(2014年7月28日発表)の分析は鋭い、維新と野党再編の行方をめぐって(その31)

 集団的自衛権の行使容認を掲げる御三家(読売、産経、日経)のなかでも、日経新聞は比較的冷静な眼を持っているのが特徴だ。今回の閣議決定に関しても方向性は支持するが、やり方については拙速でまずかったという立場だ。「極右のパシリ」を自認する産経新聞とは異なり、日経新聞には保守本流としての自覚があるのだろうか、世論調査の分析でもそのことがよくあらわれている。

 日経新聞が7月25〜27日に実施した集団的自衛権閣議決定に関する世論調査は、その分析視角において久しぶりに読ませる記事だといえる。分析の主軸は「若者の政党離れ・安倍離れ」であり「女性の安倍離れ」である。結果によれば無党派層が過去最高の47%に達し、なかでも20〜30歳代の若者では66%にまで上昇したとある。無党派層は40歳代でも60%を占めており、若い年代ほど比率が高いという傾向が明らかになったのである。保守・革新を問わず各政党は自党支持層の獲得に躍起になっているが、この巨大な無党派層向けの政治戦略を考えない限り日本政治を動かす現実の政治勢力にはなれないだろう。「何とか対決」だけを政治スローガンにして「党勢拡大」の方針しか打ち出せない政党は、遠からず退場を余儀なくされること確実だ。

本題に戻ろう。日経世論調査では性別・年齢別の集計結果が公表されていないので記事文中から推測するほかはないが、それでもそこにあらわれている傾向はこれまでのトレンドを大きく超えていることが注目される。言い換えれば、政治に関する世論動向に構造的変化が起こり始めており、遠からず安倍内閣の支持率にもその影響が及ぶだろうということだ。私が注目する数字は、集団的自衛権の行使容認に対する性別反応および無党派層の態度の2点である。

まず集団的自衛権の行使容認に対する全体傾向は、「評価する」36%、「評価しない」48%というもので、他紙の調査結果とそれほど変わらない。だが問題は性別反応のズレの大きさだ。男性が「評価する」51%、「評価しない」39%で行使容認側に傾いているのに対して、女性は「評価する」24%、「評価しない」55%と全く正反対の結果を示しているのである。それも賛否の差が倍以上という大差なのだ。自分が大切に産み育ててきた子どもをひょっとすると戦場に送らなければならないという不安が、女性に重苦しく圧し掛かっているからだろう。

年代別の傾向をみると、20〜30歳代が「評価する」32%、「評価しない」58%で女性とほぼ同様の傾向を示している。これは若い男性(お父さんたち)が女性と同じ立場に立っているからだと考えられる。年齢層が若いほど「評価しない」比率が増えることは、将来に希望を抱かせるものだ。これから安倍内閣の下で集団的自衛権の行使に関する関連立法が具体化するにつれて、20〜30歳代の若者層(お父さん、お母さんたち)が反対運動の先頭に立つ日が遠からずやってくるに違いない。

集団駅自衛権に関する賛否が内閣支持・不支持率に結びついていることは確かだ。全体では閣議決定前の前回6月に比べて支持率は53%から48%へ5ポイント減り、2012年12月の第2次安倍内閣の発足以来最低水準を記録して初めて50%を割った。また不支持率は36%から38%へ2ポイント増え、支持・不支持率の差は10%となった。これは安倍内閣が5%の人が態度を変えれば支持・不支持率が逆転する「境界ゾーン」に差し掛かったことを示している。

内閣支持率の性別、年齢別数字は公表されていないが、記事中には僅かに「20〜30歳代の支持率が10ポイント、40歳代は9ポイント支持率が低下した」とある。全体の2ポイント低下に比べると大幅な低下だ。また女性の場合は、集団的自衛権の行使容認を「評価しない」層が圧倒的に多いことを思えば、不支持率が支持率を上回っていることはもはや疑いないだろう。日経新聞首相官邸の意向など気にすることなく、男女別、年齢別の内閣支持・不支持率の公表に踏み切るべきだ。

7月1日の閣議決定後、安倍政権のスタッフは集団的自衛権のより完全な行使に向けて日本は着実に進んでいくと楽観的らしい。だがここ数カ月、世論は集団的自衛権の概念に対して一層反対する方向に傾いている。多くの人は今回の憲法解釈の変更が再び軍国主義を招くのではないかと懸念を深めているのである。内閣支持率は総合指標だ。政府の安全保障政策に反対でも景気対策が気に入れば、内閣を「支持する」人は沢山いる。だが今回の日経世論調査が示したものは、集団的自衛権への賛否が内閣支持率に連動し始めたことである。とりわけそれが若者層、女性たちに鋭く現れていることを看過すべきでない。

 英エコノミスト誌(2014年7月5日付、日経翻訳版)は、こんな状況を「政府が閣議決定を実行に移すには、現行法を10以上も改正しなければならない。それには何年もかかるかもしれない。最初は簡単だと思っていた今回の一歩が難しかったように、今後も長く厳しい道のりが続くことになるだろう」と解説している(つづく)