GDP2期連続マイナスの衝撃、単なる「リシャッフル解散」のつもりが「アベノミクス審判選挙」に発展した、2014年総選挙を分析する(その1)

「地方創生」と「東京一極集中」の話題はこの際一時中断して、2014年解散・総選挙を論じようと思う。昨夜18日午後7時過ぎのテレビで安倍首相の記者会見を見て本気でそう思った。安倍首相の解散表明に何ひとつ批判的な質問も解説もできないNHK政治部記者やニュースキャスターの面々を見て、これでは安倍首相の解散の意図も総選挙の狙いも国民には何もわからないと考えたからだ。

私は11月17日に今年7〜9月期のGDP速報が発表されるまで、安倍首相の解散意図は改造内閣の「不祥事隠し」にあると考えていた。安倍首相自身もそのつもりだったと思う。なぜなら、消費再増税の時期を延期するだけのことなら国会で実施時期を変更すればよいのであって、わざわざ解散する必要などないからだ。それが「増税延期」を名目にして解散に持ち込むというのだから、野党が批判するように「大義のない選挙」であることは相違なく、真意(ホンネ)は別のところにあると考えていたのである。

ところが、専門家の間でも年率2%強の「プラス成長は固い」と思われていたGDP速報値が開けてみると年率換算でマイナス1.6%に落ち込み、「2期連続マイナス」になったことで事態の局面が一気に変わった。その衝撃がどれほど大きかったかは、株価が1日で500円余り下落したことでも明らかだろう。「GDP2期連続マイナス」というのは経済専門家の間では「景気の後退局面」と明確に判断される現象だ。2年間にわたって鳴り物入りで展開されてきたアベノミクスが、解散直前になって「景気の後退」「景気の腰折れ」を引き起こしていたことがわかったのだから、騒ぎが一気に大きくなったのである。

おそらく安倍首相はこの数字を見て真っ青になったのではないか。安倍首相は当初、総選挙を問題閣僚を一掃して内閣のイメージチエンジを図るための「リセット解散」「リシャッフル解散」の機会だと考えていた。消費再増税延期について国民の信を問うことなど毛頭考えず(再増税を中止することなどあり得ない)、単に「名目」として利用するだけのことしか念頭になかったのである。

高村自民党副総裁も「念のため選挙」と言っていたように、政権内部ではアベノミクスの推進を前提にして政権運営を行う、しかし消費再増税に対する国民の反対感情が強いので「念のため解散」を行い、国民の信任を得て総選挙後の然るべき時期(1年半後)に再増税を実施する、というシナリオが描かれていた。いわば、安倍政権が国民世論を忖度して「慎重審議」の風を装い、国民の信任を得たうえで再増税に踏み切ることを演出するための舞台として「念のため選挙」を上演するはずだったのだ。

だが、その思惑を粉々に打ち砕いたのが解散直前の「GDP2期連続マイナス」というハプニングだった。この瞬間からマスメディアの論調も一変し、「リシャッフル解散」はアベノミクスの正否を問う「アベノミクス審判選挙」へと発展したのである。しかしもう走り出した馬は止められない。自信たっぷりの「勝つための選挙」「負けるはずのない選挙」に一抹の不安がさし、それが昨日の記者会見の席上での「与党が過半数を取れなければ退陣する」(当たり前のことだが)との言わずもがなの首相発言になったのであろう。

日本の衆院解散については、米紙ウォールストリート・ジャーナルやニューヨーク・タイムズも注目している。両紙の17日電子版によれば、ウォールストリート・ジャーナルは自民党が選挙後に議席を減らす可能性があるとの見方に触れ、「安倍晋三首相がギャンブルに出ようとしている」と報じた。今回の総選挙を「ギャンブル」などという表現で報じたのは初めてのことだけに(日本のマスメディアでは見たことがない)、安倍政権に対するアメリカの懸念が強いのだろう。またニューヨーク・タイムズもマイナス成長を伝える記事で、「アベノミクスへの熱狂は消え去った」と報じた(産経新聞電子版、2014年11月18日)。

単なる「リシャッフル解散」のつもりが「アベノミクス審判選挙」に発展したことで、今後安倍政権の選挙戦略は一大転換を迫られるだろう。しかし安倍首相が消費再増税は「絶対にやる」と退路を断ったことで、安倍政権はいまや引き返すことのできない「ポイント・オブ・ノーリターン」の崖淵に立ったといえる。一方、公明党は早くも「地方創生」の看板を「消費税軽減税率導入」に切り替えて延命を図っている。野党再編も新たな局面に入った。その中で同じく「ポイント・オブ・ノーリターン」の崖淵に立った橋下維新の党共同代表はこれからどのような道を歩むのか、次回からこの問題を考えてゆきたい。(つづく)