表向きは信任、実質は「モラトリアム(様子見)信任」の第3次安倍内閣が発足した、長期政権との世評とは裏腹に安倍政権の政治基盤は砂上の楼閣だ、2014年総選挙を分析する(その13)

 12月24日、総選挙の結果を受けて第3次安倍内閣が発足した。衆院では自公与党が3分の2を超える326議席を占め、改憲発議が可能になる「危険水位」に達した(参院では達していない)。安倍政権は解散前、国会で守勢に立たされていた。「政治とカネ」で2閣僚が辞任し、そのうえ複数の閣僚が政治資金問題で追及されていた。この状態を放置すれば安倍政権は間違いなく窮地に陥り、集団的自衛権に関する法制化をはじめ景気後退に対しても打つ手がなくなり、内閣支持率の低下は免れなかった。

 今回の衆院解散の目的は、「灰色閣僚」の交代による内閣イメージの一新にあると私は考えてきた。ところが驚いたことに、安倍首相は選挙で「みそぎ」が済んだとして灰色閣僚全員を再任するという強硬姿勢に転じ、僅かに江藤防衛相が安保法制の国会審議に支障をきたすとして交代させられただけだ。首相は衆院選で信任を受けたことを理由に閣僚を交代させず、一気に強気の国会運営に転じたのである。

交代させなかったのは「灰色閣僚」だけではない。靖国参拝河野談話などで事あるごとに物議をかもしている「女性閣僚トリオ=地雷3人組」もそのまま再任された。対中・対韓関係において正常な外交状態を回復させなければならないにもかかわらず、いつ爆発するかもしれない「地雷3人組」を除去しなかったことは、安倍政権が対中・対韓関係を依然として正常化する意思がないことを示すものだ。来年もまた彼女らの靖国参拝問題で騒々しい年が明けるのだろう。

安倍首相は24日、首相官邸の記者会見における記者団との質疑応答で、「閣僚交代を最小限に絞った閣僚人事の狙いは。憲法改正には今後どう取り組むか」との質問に答えて、「9月の内閣改造から3カ月しかたっておらず、全面的な改造という考え方が間違っている。憲法改正自民党結党以来の大きな目標で、まず3分の2の多数を衆参両院で得る努力を進める。同時に国民投票過半数の支持を得なければならず、国民的な理解を深める努力をしたい」と真っ向勝負の構えを強調した。また「憲法改正自民党の結党以来の大きな目標だ。歴史的なチャレンジと言っていい」と力説し、憲法改正を飽くまでも追及する姿勢を崩さなかった(各紙、2014年12月25日)。

しかしながら今回の総選挙の一大不思議は、圧倒的議席数を背景にした安倍首相の強気発言と選挙結果に対する国民世論が「天と地」ほど乖離していることだろう。このことは、選挙直後の12月15、16両日に実施された共同通信、読売新聞、朝日新聞各社の緊急世論調査によって余すところなく裏づけられる。結論的に言えば、今回の総選挙は読売新聞がいみじくも指摘するように、「与党の圧勝が、内閣や自民党への積極的な支持によらない『熱狂なき圧勝』」(2014年12月17日)だということだ。

読売新聞の選挙評価は、過去の衆院選における解散直後と選挙直後の政党支持率内閣支持率との比較と今回の世論調査に基づいている。2005年以降、過去3回の衆院選で圧勝した政党の支持率が8〜16ポイントも上昇しているのに対して、今回の自民党支持率は逆に5ポイント下がっている。また2005年の小泉内閣支持率は13ポイントの上昇だったのに対して、今回の安倍内閣支持率は2ポイントの上昇に過ぎない。

政党支持率
 ○2005年衆院選自民党支持率、解散直後40%→選挙直後48%(+8%)
 ○2009年衆院選民主党支持率、解散直後31%→選挙直後47%(+16%)
 ○2012年衆院選自民党支持率、解散直後22%→選挙直後34%(+12%)
 ○2014年衆院選自民党支持率、解散直後41%→選挙直後36%(−5%)
内閣支持率
 ○2005年衆院選小泉内閣支持率、解散直後48%→選挙直後61%(+13%)
 ○2014年衆院選安倍内閣支持率、解散直後49%→選挙直後51%(+2%)

世論調査の方はもっと端的な結果が出ている。自公与党が圧勝した選挙結果は「よくなかった」46%で「よかった」38%を上回った。自民党が大勝した理由については、自民党支持層でさえ「ほかの政党よりはまし」との消極的理由が64%と3分の2を占め、「安倍首相への期待が高かった」14%、「経済政策が評価された」11%、「与党としての実績が評価された」9%などの積極的理由は合わせても3分の1に過ぎない。つまり自民党を支持した人たちの間でさえも、3人のうち2人は選挙結果を安倍政権を評価してのものだと見なしていないのである。

朝日新聞のほうも同様の結果が出ている(2014年12月18日)。自公与党が3分の2を超える議席を獲得したことは、「ちょうどよい」21%、「多すぎる」59%で6割の人が与党の勝ちすぎを懸念している。自民党が大勝した理由(2回答のうち1つを選択)についても「安倍首相の政策が評価されたから」はたった11%で、「野党に魅力がなかったから」が72%と圧倒的だ。また今後の安倍政権の政策についても「期待の方が大きい」31%、「不安の方が大きい」52%と多くの人が不安を感じている。
一方、安倍政権の政策評価共同通信世論調査で見ると(安倍首相はこれらの政策も含めて選挙で信任されたと言っている)、(1)憲法改正=「賛成」36%、「反対」51%、(2)アベノミクスで今後景気がよくなるか=「思う」27%、「思わない」63%、(3)2017年に消費税を10%に上げる=「賛成」39%、「反対」58%、(4)憲法解釈変更による集団的自衛権行使容認など安倍政権の安全保障政策=「支持する」34%、「支持しない」55%、(5)米軍普天間基地辺野古移設=「計画通り進める」27%、「計画をいったん停止する」35%、「白紙に戻す」29%など、およそ2対1の割合で悉く否定的な結果が出ている(京都新聞、2014年12月17日)。

もうこれ以上数字の羅列は止めにしようと思うが、要するに私の言いたいことは、今回の総選挙が「安倍内閣自民党への積極的な支持によらない与党の圧勝」であり、安倍政権が推進する重要政策に関しては多くの国民が「反対」の立場を堅持し「賛成」していないということなのである。だから安倍政権が今後、憲法改正などの反動政策を強行すればするほど国民の反発と抵抗は大きくなり、安倍政権の政治基盤が一挙に崩壊するときがやってくるということなのだ。

時の政権に対する国民の評価は、政策に関する「個別評価」と政権与党・内閣に対する「総合評価」(支持率)としてあらわれる。目下のところ国民の多くは安倍政権の政策には反対であるものの、政権を託すべき魅力ある野党の存在が見えないということで、自民党安倍内閣を「当面支持している」にすぎない。その意味で今回の自公与党圧勝は、国民の「モラトリアム(様子見)支持」の結果にすぎないのであって、安倍首相が舞い上がるような類の勝利ではない。

すでにその予兆は「共産党の躍進」という形であらわれている。これまで「様子見」をしていた国民の一部が、安倍政権に見切りをつけて共産党支持へ軸足を移した。また戦後70年にわたって米軍基地を押し付けられてきた沖縄では、「オール沖縄」が保革の垣根を超えて団結して4選挙区で完勝した。この流れがどのように成長していくかは予断を許さないが、方向性だけははっきりしたと言える。今後、野党再編の嵐のなかで保守2大政党の企てが再び浮上するであろうが、「国のかたち」を規定する基本政策をめぐって国民の価値観が揺らぐようなことはないだろう。(つづく)