橋下「維新の党」共同代表(大阪市長)は本当に衆院選に出馬するつもりなのか、「出るも地獄」「留まるも地獄」の維新の内幕、2014年総選挙を分析する(その2)

 かねてから(どこでも書いてあるような)国政選挙のことなどつべこべ言わずに、「もっと関西の話題に集中すべき」とのご意見をいただいていた。やっとその時がきたようだ。今日午後解散される衆院選挙について橋下氏が例によって「出る」「出ない」とのあやふやな政治的発言を繰り返し、「維新の党」内外に波紋が広がっているからだ。

 この出馬発言は、松井「維新の党」幹事長(大阪府知事)が11月11日の産経新聞の単独インタビューでリークしたことが発端になって一気に広がった。松井氏は、前回衆院選大阪都構想への協力約束の見返りに公明党選挙協力したにもかかわらず(維新対立候補を見送りした)、その後、約束を裏切られたとして「このまま泣き寝入りするわけにはいかない」と述べたという(産経新聞、2014年11月12日)。聞いていると、まるで「ヤクザ」の出入り話のような言い草ではないか。

 橋下「維新の党」共同代表(大阪市長)も負けてはいない。翌12日、大阪市役所で記者団に「公明にやられたまま人生を終わらすことはできない。やられたらやりかえす」と息巻き、「立候補すれば市長投げ出しになる」との質問には「仕方がない」と答えたという(毎日新聞、11月13日)。公人として許されざる発言だ。今年3月に意味のない「出直し市長選挙」を実施して「独り相撲」を取って市政の空白を招いたばかりなのに、今度は残る任期さえ放り出して国政選挙に打って出るというのである。「私惑」のために市民の税金を無駄使いした挙句、今度は「私怨」のために市政を放り出す。これ以上の政治家不失格・首長不失格の人間はいないだろう。
 
だが松井・橋下両発言の背景には、維新がこれまで大阪都構想を実現するために講じてきたあらゆる方策(策略)が完全に行き詰り、将棋で言えば「雪隠詰め」状態に追い詰められたことがある。すでに大阪府大阪市両議会では維新が少数派に転落しており、いま現在も維新離れの流れは止まっていない(水面下で続いている)。だから、大阪都構想を両議会に提出しても悉く否決される構造は変わっていないし、これからも変わらない。これまでの経過を述べると、およそ次のようになる。

10月17日、大阪府市両議会の本会議で維新の表看板の「大阪都構想」の協定書議案が否決された。そもそも両議会とも維新は過半数割れしているのだから、否決される議案を提出しても意味がない。なのにわざわざ大阪都構想案を提出して否決され、そのうえ市長権限で議決を経ずに議案を処理する「専決処分」で住民投票にまでもっていくという奇想天外なアイデアまで披露するのだから、大阪府市民は到底付いていけない。

首長の専決処分は地方自治法上、議会が開けない時や緊急時などきわめて厳しい条件の場合に限られる。今回は災害が突発したわけでもなく議会で堂々と議論されそして否決されたのだから、橋下・松井両氏は大阪都構想を断念するか、あるいは反対意見を無視してこれまで強引に議事を進めてきた責任をとり、辞職するのが本来の筋というものだろう。

ところが、両氏はこんな地方自治と民主主義のルールには無知なのか、あるいは知らん振りなのか、今度は大阪都構想の是非を問う住民投票を行うべきか否か、それ自体を大阪市民に聞く「プレ住民投票」を実施するための直接請求署名運動の準備を始めた。直接請求による住民投票とは、地方自治法上、有権者の50分の1以上(大阪市の場合は約4万3千人)の有効署名を集めれば、住民投票の実施に必要な条例制定を首長に直接請求ができる(朝日新聞、11月12日)。

しかし、直接請求署名による条例制定は首長の同意と議会の可決がなければ実施できない。全国各地の多くの直接請求署名運動が煮え湯を飲まされ、切実な住民要求が討論の機会もないままにむざむざと葬られてきたのはそのためだ。今回の維新が始める直接請求署名運動は、首長の同意を得て市議会に提出されるところまではいく(橋下氏が市長だから)。しかし、反維新派過半数の市議会では100パーセント否決されることは間違いない。それでいて維新は「民意」を調達するためだと称して、12月上旬から「プレ住民投票」を始めようとしていた。これが突然の解散劇で事実上不可能になったのである。

進退窮まった橋下・松井両氏が選択した「一か八か」の破れかぶれの非常手段が、両氏の衆院選挙への立候補というものだった。橋下氏は大阪3区(大正区・住江区・住吉区西成区)で公明党大阪府本部代表の佐藤氏と対決し、松井氏は大阪16区(堺市堺区・東区・北区)で公明党副代表の北側氏と激突するという「やられたらやりかえす」作戦をぶち上げたのだ。こんなヤクザまがいの選挙スローガンでは勝てるとは思わないが、それでも御両人は一蓮托生と割り切って大真面目に考えているそうだから、これでは大阪府市民はますます付いていけなくなる。

私はこんな無責任なことは許されない、大阪府市民も絶対に許さないだろうと悲憤慷慨(ひふんこうがい)して、昨日大阪でいろんな人たちと意見交換をした。ところが驚いたことには、「出たらよろしいやん。みんな歓迎してまっせ!」という意外な反応が返ってきた。大阪府庁でも大阪市役所でも両氏が出馬すれば大歓迎とのこと、府市の職員はその瞬間を待ち望んでいるのだという。出馬表明をした夜は周辺の飲み屋が満杯になること間違いなし、ということだった。

一方、有権者の反応や予想はどうか。「出て落選したらせいせいする」、「ひょっとしたら通るかも知れへん」というのが半々に分かれているそうだ。そんな気配を感じたのか昨日20日午後、橋下氏は市役所で記者団の取材に応じ、衆院選への出馬を決めた場合に記者会見を開かず、街頭で市民に説明する意向を明らかにした(産経新聞、11月21日)。
「維新幹事長の松井一郎大阪府知事が、衆院選出馬の場合、会見せず、街頭で市民に向けて態度表明すると言っていた」(記者団)
「記者会見みたいなのはしません。街頭タウンミーティングとか、どっかでやりますよ」(橋下氏)。
 
 このやり取りを聞いて不審に思わない人は誰一人いないだろう。国政選挙への出馬に当たってきちんとした見解表明をするのは候補者の責務であり、それを街頭演説で誤魔化そうななどとは国民を馬鹿にしている。でもその発言の裏には、きちんとした記者会見を開かない(開けない)事情が突発していることが目に見えている。それが何なのか、また今後の事態はどうなるのか、引き続いてウォッチングしたい。(つづく)