恥も外聞もない橋下・松井両氏の衆院出馬断念表明、公私の分別もつかない気まぐれ行動は自分の首を絞めるだけだ、「出るも地獄」「留まるも地獄」の維新の内幕(2)、2014年総選挙を分析する(その3)

 記者会見も開かず(開けず)、身内の会合で衆院出馬への態度表明をすると言っていた橋下・松井両氏がついに出馬断念に追い込まれた。昨11月23日、大阪市内で開いた松井氏の後援会パーティーの席上、橋下氏と松井氏が支援者たちに揃って出馬断念を伝えたという。橋下氏の国政進出に期待していた維新の党国会議員団には落胆が広がり、若手議員のなかには「残念だ」と話す者もいたというが、「橋下氏が出ても議席拡大効果は限られていた」というあたりが率直な評価らしい(日経新聞、2014年11月24日)。もはや大阪以外では「橋下フー?」(橋下って誰?)といった空気が広がり、マスメディアもほとんど興味を失っているためだ。

それにしてもこの間、公明党への(私的な)恨みを晴らすため、「このまま泣き寝入りするわけにはいかない」「やられたらやりかえす」などといったヤクザまがいの気炎を上げ、公党を恫喝するような言動を繰りかえしてきた責任を両氏はどう取るのか、知らぬ顔では済まされない。また世間を散々騒がせてきた威勢のいい発言はいったいどこに消えたのか、両氏にはそれをキチンと説明する公的責任がある。なぜなら両氏は大阪府市の首長という重責にありながら、任期途中で国政選挙へ出馬するとの言動を弄んで府市政を混乱に陥れ、府市民に極度の政治不信を与えてきたからだ。

橋下・松井両氏は国政に挑戦せず(衆院出馬を断念して)来春の統一地方選に専念するというが、この間の一連の騒動が「維新の党」や「大阪維新の会」にどれほど大きな政治的ダメージを与えたのか、彼ら2人にはからしきわかっていないらしい。維新の地方議員の間には「もう付いていけない」との幻滅感と危機感が広がり、「維新離れ」が水面下でますます広がっていると聞く。もともと「私的行動原理」(自分本位の権力欲や利害関係だけで動くこと)に準拠して動いている集団だから、船が沈みそうになれば自分ひとりでどう逃げるかを真っ先に考える議員が多い。この調子で行けば、早かれ遅かれ「大阪維新の会」の崩壊は避けられないし、来春の統一地方選の前に維新派議員の相当部分が一斉に「維新離れ」することも十分考えられる。

橋下・松井両氏がおよそ自治体首長にあるまじき行動に出たのは、彼ら2人が頭の先から爪の先まで「首長責任」や「政党責任」などにはおよそ無関心な人物だからだ(こんな首長を選んだことが悲しい)。聞くところによると、橋下氏が衆院出馬を思い立ったのは、「結い」との合流で「維新の党」の主導権を国会議員団に握られ、とりわけ「尻尾」(結い出身)であるはずの江田氏が(共同)代表の在に座って大きな顔をしていることに我慢できなくなったということだ。それに国会解散後は、政党代表の意見表明が日々求められて江田氏が「維新の党」の代表としてクローズアップされてくると、橋下氏の影はますます薄れて存在感がなくなっていく。テレビを利用して(テレビ効果だけで)政治の世界に入った橋下氏にはそれが痛いほどよくわかるし、それだけに「このまま大阪で燻ぶっていてよいのか」と日々葛藤していたのだろう。

だが、大阪府市の首長が揃って国政選挙に出るとなると、当然のことながら後釜の首長候補を用意しなければならない。この点で決定的なダメージになったのが後継候補と目されていた大阪府教育長と大阪市交通局長の不祥事だ。類は友を呼ぶというが、前者は橋下氏の刎頚の友、教員が君が代斉唱をしているかどうかを「口元調査」して橋下氏に報告していたという「ゲシュタボ」(ナチスドイツの秘密警察)張りの人物だ。それが就任後ことあるごとに悶着を引き起し、今度は自己主張を曲げなかった府教育委員(女性)に対して、「誰のお陰で教育委員でいられるのか。罷免要求を出しますよ」と恫喝するパワハラ事件を引き起こした。これが府議会で大問題になり、辞職寸前にまで追い詰められたというわけだ(毎日新聞、2014年10月31日)。彼が候補者の座から一挙に沈んだことは言うまでもない。

もう一方の市交通局長は、地下鉄・バスの民営化を推進する切り札として橋下氏が大手私鉄から引き抜いてきた人物だ。しかし、交通局広告事業の受注をめぐる公募審査で事前に入札業者と会食するなど不透明な接触を繰り返し、特定業者に高得点をつけて落札させるという不祥事が発覚した。内部告発があったのか、その後市議会で厳しく追及され、外部調査委員会の調査報告書でも「公募の公平性を害した」とクロと断定された(朝日新聞、2014年11月18日)。またこの不祥事とも関連して地下鉄民営化条例案が11月21日の市議会本会議で野党4党の手で否決され、市交通局局長としても後継候補としてももはや完全な「死に体」に陥った。

さすがの橋下・松井両氏もこのような情勢の下では「出る幕」がなくなったのだろう。しかし両氏を取り巻く環境は「出るも地獄」「留まるも地獄」と化していて、出馬断念の後遺症はさらなる合併症を引き起こして事態を悪化させるだろう。引き続きこのシーリーズに注目してほしい。(つづく)