安倍政権における「言論弾圧」と「言論懐柔」は表裏一体だ、自民党勉強会・文化芸術懇談会における百田発言と安倍首相のマスメディア幹部との「会食」に思う、大阪都構想住民投票後の政治情勢について(2)、橋下維新の策略と手法を考える(その40)

 自民党の「文化芸術」懇話会ではいつもこんな物騒なことを懇談しているのだろうか。6月25日に党本部で開かれた自民党勉強会では、マスメディア関係者が「本当に言ったのかと、耳を疑うほどありえない発言だ」と言うほどの乱暴な議論が飛び交ったらしい。出席議員からは「マスコミを懲らしめるには、広告料収入がなくなるのが一番。日本を過つ企業に広告料を支払うなんてとんでもないと経団連などに働きかけしてほしい」とか、「(沖縄タイムス琉球新報は)左翼勢力に完全に乗っ取られている。沖縄の世論のゆがみ方を正しい方向に持っていく」とかの発言が相次ぎ、これに対して講師に招かれた安倍首相のお友達の百田氏が「沖縄の二つの新聞社は絶対つぶさなあかん。沖縄県人がどう眼を覚ますか。あってはいけないことだが、どこかの島でも中国にとられてしまえば、目を覚ますはず」と応じたという。

 この他にも百田氏は「米兵が犯したレイプ犯罪よりも沖縄県全体で沖縄人自身が起こしたレイプ犯罪の方がはるかに率が高い」とか、普天間基地周辺の住民に対して「そこに住むのは金目当て」と述べるなど、言いたい放題の暴言を連発している。これに対して勉強会の代表を務める木原稔自民党青年局長は、記者団に「百田氏は自分の強い信念に基づいて発信し、国民に受け入れられている。われわれ政治家が学ばなきゃいけない」と語り、また維新の党顧問の松井大阪府知事も「ここぞとばかりに復讐だな。朝日と毎日は百田さんの表現と言論の自由を奪っているのではないか」と百田氏を擁護している(朝日新聞6月27日)。いずれも「同じ穴の狢(むじな)」というところだろう。

 しかし昨日の国会審議をテレビ中継で見ていたが、安倍首相は野党に追求されても言を左右にして絶対に陳謝しない。「事実であるとすれば大変遺憾だが、行政府の責任者としてだれがどう発言したのか報告するのは難しい」、「その場にいないにもかかわらず、勝手におわびすることはできない。発言した人物のみが責任を負うことができる」、「私的な勉強会で自由闊達(かったつ)な議論がある。言論の自由は民主主義の根幹をなすものだ」など、自民党総裁としての責任をあくまで回避する構えだ。自民党本部で党青年局長が開催した勉強会での発言や結果について党総裁が責任を持たなければ、一体誰が責任を取るというのか。謝罪しないところをみると、安倍首相も百田発言を本心では「その通り」と思っているのであり、百田氏や松井氏と「同じ穴の狢」であることはまず間違いない。

 この件に関する朝日・毎日両紙の社説は極めて厳しい。「自民の傲慢は度し難い」(朝日、6月27日)、「言論統制の危険な風潮」(毎日、同)と、政権与党が民主主義の根幹である言論の自由を否定する風潮を厳しく批判している。この社説だけを読めば、まさに「その通り」だと思う。しかし私が素直になれないのは、昨日6月26日の「しんぶん赤旗」に安倍首相とマスメディア幹部との会食が大きく報じられていたからだ。同紙によると、安倍首相は安保法案が審議入りした5月26日から1ヶ月の間に15回も銀座・赤坂で財界人や政界人との会食を繰り返し、その中にはマスメディア関係者も含まれていたというのだから只事ではない。

 「安保法案反対」「憲法を守れ」と3万人が国会を包囲した6月24日夜、安倍首相は銀座の日本料理店「銀座あさみ」でマスメディア幹部7人と会食をともにしていた。参加者は、曽我豪編集委員(朝日)、山田孝男特別編集委員(毎日)、小田尚論説主幹(読売)、石川一郎専務(日経)、島田敏雄解説副委員長(NHK)、柏谷賢之メディア戦略局長(日本テレビ)、田崎史郎解説委員(時事通信)の各氏である。いずれも各社の論説を代表する幹部だ。

当日、国会周辺では各社の現場記者が張り付いてデモや集会を懸命に取材していたが、そのときこれら論説幹部はシュプレヒコールが届かない静かな銀座の日本料理店で安倍首相と酒食をともにしていたのである。彼らはこの席上で一体何を話し合ったのだろうか。ひょっとすると、日に日に高まる国民の批判や抗議行動をどうかわして安保法案を成立に導くか、その戦略・戦術を話し合っていたのかもしれない。また、下落一方の内閣支持率をどう回復させるかについての対策を練っていたのかも知れない。いずれも「同じ穴の狢」の間の密談だと考えてよい。

安倍政権における「言論弾圧」と「言論懐柔」は表裏一体だ。自民党がNHKや民放への露骨な言論弾圧をこれ見よがしに強行する一方、その裏ではマスメディア幹部との度重なる酒食をともにして懐柔を図る。これではマスメディアの劣化が進むのも無理はない。だが、すでにNHKの報道番組視聴率が底を打っているように、やがては大手紙各社の販売数も後を追うだろう。安倍政権の提灯持ち論説はもはや国民に飽きられているからだ。(つづく)