問答無用・強行一点張りの安倍政権の国会運営にも遂に赤信号が点滅し始めた、対維新の裏工作だけでは事態の打開が難しくなりつつある、大阪都構想住民投票後の政治情勢について(1)、橋下維新の策略と手法を考える(その39)

 自公両党は通常国会末を目前にして安保法案を成立させるため、国会会期を戦後最長の95日間延長することを6月22日衆院本会議で可決した。衆参両院での安保法案の強行採決を睨んだ会期設定であり、たとえ参院で採決にいたらなくても衆院の3分の2で再可決できる憲法規定を念頭に置いてのことだ。

 しかし同日、衆院安保法制特別委員会では5人の参考人を招いて質疑が行われ、歴代の内閣法制局長官のうち宮崎元長官は、「(集団的自衛権の行使について)憲法9条の下で認められないことは、我が国において確立した憲法解釈で、政府自身がこれを覆すのは法的安定性を自ら破壊するものだ」、「法案は憲法9条に違反し撤回されるべきだ」、「(砂川判決についても)他国防衛たる集団的自衛権の話が入り込む余地はない。黒を白と言いくるめるたぐいだ」と断じた。

同じく阪田元長官も「(1972年政府見解の結論部分の変更は)憲法を順守すべき政府自ら憲法の縛りを緩くなるように解釈を変えるということだ」、「(集団的自衛権の行使は)進んで戦争に参加することで、国民を守るというより国民を危険にさらす結果しかもたらさない」、「(安倍晋三首相が必要性を強調する中東・ホルムズ海峡での戦時の機雷掃海は)中東の有事も出番があるなら限定的でも何でもない。遠くで油が入りにくくなったとの話まで対象なら満州事変の時と同じだ」と指摘した。

6月4日の衆院憲法審査会の参考人質疑で3人の憲法学者が挙って安保法案を「違憲」と指摘したことに引き続いて、政府で憲法解釈の実務を担った元長官が2人も国会で政府提出法案に真っ向から異を唱えるのは異例中の異例のことだろう。ここにきて安倍政権は安保法案の審議を進めるうえで、理論的にも実務的にも進退窮まったと言える。安倍首相が「国際情勢に眼をつぶってその責任を放棄し、従来の解釈に固執するというのはまさに政治家としての責任の放棄だ」(6月18日衆院予算員会)と幾ら叫んでも、もはやその声は国民の耳には遠く届かなくなっているのである。

このことは最近行われた各社の世論調査でも余すところなく明らかになってきている。6月12〜14日に実施された日本テレビの定例世論調査では、安倍内閣の支持率は41%と前回5月調査から2%低下し、不支持率は2%上って39%となり、支持・不支持がほぼ拮抗状態になった。回答者の52%が安保法案は「憲法違反」だと考え、63%が集団的自衛権の行使には「反対」、64%が今国会での法案成立に「反対」であり、79%がこの法案についての内閣の説明が「不十分」だと感じているのが、支持率低下の背景にあるのだろう。これは第2次安倍内閣の発足以来の最低水準であり、安倍内閣が支持・不支持の分水嶺に差し掛かったことを示している。

 共同通信社が6月20、21両日に実施した全国電世論調査でも、安保法案が「憲法に違反していると思う」との回答は57%、「違反しているとは思わない」は29%でその割合は2:1、安保法案に「反対」は59%で前回5月調査から11ポイント上昇し、「賛成」は28%でこれも2:1の大差がついた。また安倍内閣の支持率は47%で5月の前回調査から2・5ポイント減り、不支持率は43%と次第に拮抗状態に近づきつつある。

また共同通信社と同じく6月20、21両日に行われた朝日新聞6月世論調査では、この傾向がより一層鮮明に出ている。それによると、安倍内閣の支持率は39%で前回5月調査の45%から6ポイント下落し、不支持率は37%で前回32%から5ポイント上昇した。とりわけ注目されるのは、今回、女性の内閣支持率の落ち込みが大きく、前回の42%から34%に8ポイント減少する一方、不支持率は前回31%から37%に増えて、支持と不支持が逆転したことだろう。女性の支持率逆転は昨年11月29、30日調査以来、全体支持率の40%割れは昨年11月22、23日の調査以来であり、第2次安倍内閣発足以降最低に並んだ。

支持率低下の特徴は、安倍政権が推進する安保法案に対する国民の評価(賛否)と直結していることだろう。安保法案への賛否は、「賛成」29%に対して「反対」は53%と過半数を占め、憲法学者3人が衆院憲法審査会で「憲法違反だ」とした主張に関しては「支持する」が50%に達し、「憲法違反ではない」と反論する安倍政権の主張を「支持する」人は17%にとどまった。実に憲法学者への支持は安倍首相の3倍に達しているのである。これは首相の国民への説明が「丁寧ではない」69%、「丁寧だ」12%という数字にもあらわれており、安倍首相への信頼感が大きく揺らいでいることを物語るものだ。また安保法案をいまの国会で成立させる必要があるかについては「必要はない」が65%を占め、前回調査の60%から増えた。逆に「必要がある」は23%から17%に減った。

 ロイター、ブルームバーグフィナンシャル・タイムズ紙といった主要海外メディアもこの間、安倍内閣の支持率低下に注目した記事を相次いで発表している。安倍内閣は「アベノミクス」によるデフレ脱却や景気回復策などへの期待感もあり、それまでの内閣に比べれば安定した支持率を保ってきたが、ここに来て高い支持率が安倍首相の強いリーダーシップ(強硬姿勢)を支えるという図式が危うくなってきたというのである。

 目下、安倍政権の関心はもっぱら維新の取り込みにあるかのような印象を受ける。自公両党での強行採決も不可能ではないが、維新さえ取り込めばたとえ維新が法案に賛成しなくても安保法案の成立は可能だとの見通しである。だが、これは国会内の議席数すなわち「数の驕り」にもとづく政権運営であって、国民世論のありかを見失った政権の末路を示す何物でもないだろう。

国会延長期間のこの3ヶ月の間に、国民世論にどれほど大きな変化があらわれるかはまったく予断を許さない。5月以前から続いている首相官邸前での絶えることのない抗議行動、6月20日、21日の両日に全国で展開された予想以上の大規模な市民、学生、若者、女性たちによる「憲法守れ」の街頭行動、何かしら60年安保闘争を思わせるような空気が満ち満ちてきている。安倍首相は尊敬する祖父の二の舞を舞うのか、それとも歴史の教訓に学んで安保法案を撤回するのか、その歴史的瞬間は刻々と迫っている。(つづく)