安倍内閣の「広報紙」、産経・読売新聞の世論調査の恐るべきカラクリ、それでも「安保法案反対」の国民世論を押し止めることはできない、大阪都構想住民投票後の政治情勢について(4)、橋下維新の策略と手法を考える(その42)

前回(6月29日)の拙ブログで、国民世論の節目が「アベノミクス期待」から「安保法案反対」へ変わりつつあることを述べた。当日、朝刊をまだ読んでいなかったので日経新聞の6月調査がその日に発表されたことを知らなかったが、結果はほぼ予測通りの展開となった。以下、日経世論調査(6月26〜28日実施)の結果を簡単に紹介しよう。

日経の「本社世論調査」(6月29日)の紙面は非常に分かりやすい。主要項目の結果が一覧表にまとめられ、一目で分かるように工夫されている。
●安全保障関連法案は憲法に「違反していない」22%、「違反している」56%
集団的自衛権の行使に「賛成」26%、「反対」56%
●安保関連法案の今国会成立に「賛成」25%、「反対」57%
●政府の安保関連法案に関する説明は「十分だ」8%、「不十分だ」81%

これに安倍内閣の支持率(カッコ内:前回)を加えると次のようになる。ただし、最初の質問(2択形式)の結果は紙面では掲載されていない。
安倍内閣を「支持する」43%(44%)、「支持しない」37%(32%)、「いえない・わからない」20%(24%)
●「いえない、わからない」と回答した人に「お気持ちに近いのはどちらですか」という追加質問をした場合、「支持する」47%(50%)、「支持しない」40%(36%)、「いえない、わからない」13%(14%)

 この結果を日経は「安保法案 理解進まず」「『違憲』56%、『説明不十分』81%」「安保法案、成立反対57%」と述べ、「今後の国会で説得力ある議論ができるかがカギを握る」と分析している。また、内閣支持率に関しては「内閣支持率は47%で前回調査から3ポイント低下した。50%割れは昨年12月発足の第3次安倍内閣で初めて。不支持率は4ポイント上昇して40%となり、2012年12月の第2次安倍内閣発足以降で最も高くなった」と述べている。だが、この傾向は2択形式の回答ではもっと鮮明に出ている。なにしろ「支持しない」が前回の32%から一挙に5ポイントも上昇したのである。

 その翌日の6月30日、今度は産経新聞とFNNの合同世論調査(6月27、28日実施)が発表された。いつもなら1面に出るはずの調査結果が5面(政治)で掲載され、しかも「安保法案 理解に時間、PKO法は成立後 支持拡大」という訳の分からない見出しがついている。下段の調査項目と結果を見てやっとその意図が分かったのだが、要するに今国会で安保法案を成立させることへの「反対」が「賛成」を大きく上回っており、しかも5月調査に比べて「反対」が増えてきているので、国民の理解を得るには「時間がかかる」と言いたいのだ。

 傑作なのは、今回の調査とは何の関係もない「PKO法」の話を持ち出し、PKO法も成立前は反対論が多かったものの時間が経てば賛成論が増えて行くのだから(PKO法に関する内閣府世論調査のグラフまでわざわざ掲載している)、安保法案も成立すれば「そうなる」との「分析」を延々と展開していることだ。「牽強付会」(けんきょうふかい)とはまさにこのようなことを言うが、それを恥ずかしげもなくやるところに産経の真骨頂があるのだろう。

しかし、調査結果はリアルだった。日経風にまとめると次のようになる。
●安保関連法案を今国会で成立させるため、安倍政権が国会会期を95日間延長したことを「評価する」43%、「評価しない」50%
●延長国会で安保関連法案を成立させることに「賛成」32%、「反対」59%
●安保関連法案に関し安倍政権は「合憲」、憲法学者は「合憲」と「違憲」に見解が分かれているが、どちらの説明により納得できるか、「合憲論」22%、「違憲論」58%
安倍内閣を「支持する」46%(前回54%)、「支持しない」42%(同35%)

 それからもうひとつ、産経の真骨頂ともいうべき質問がある。それは調査の主題である「日本の安全と平和を維持するために、安保関連法案の成立は必要だと思うか」との質問だ。この質問は、安倍首相が法案説明の際に必ず枕言葉として使う「安保関連法案=日本の安全と平和を維持するもの」との主張をそのまま引用したもので、そこには安保関連法案の肝である「集団自衛権行使容認」という本質がすっぽりと抜け落ちている(抜き去られている)。だから安保関連法案の内容に必ずしも詳しくない回答者は、日本の安全と平和を維持するための法案なら「必要だ」と言うことになる。もっとも結果は、こんな誘導質問でも「必要だ」49%、「必要ない」44%と拮抗しており、産経の意図は必ずしも成功していない(FNNニュースは「安保関連法案に賛成多数」と大々的に報道していた)。ちなみに安保関連法案の賛否を問う産経紙の質問がどれだけ不当なものかを他紙の世論調査と比較してみよう。

日経6月調査は、「Q6. アメリカなど日本と密接な関係にある国が攻撃されたとき、日本が攻撃されていなくても反撃する権利を集団的自衛権といいます。政府・与党は集団的自衛権の行使容認を盛り込んだ安全保障関連法案は憲法に違反していないと説明していますが、民主党などは憲法に違反していると主張しています。あなたはどう考えますか」(「憲法に違反していない」22%、「違反している」56%)、および「Q7. あなたは日本が集団的自衛権を行使することに賛成ですか、反対ですか」(「賛成だ」26%、「反対だ」56%)の二段構えで尋ねている。

 朝日6月調査は、「今の国会に提出された安全保障関連法案についてうかがいます。集団的自衛権を使えるようにしたり、自衛隊の海外活動を広げたりする安全保障関連法案に、賛成ですか。反対ですか」(「賛成」29%、「反対」53%)というもので、いずれも安保法案の内容を正確に説明して回答を求めており妥当なものだ。

 しかしこの点で、産経に勝るとも劣らないのが読売6月調査(5〜7日実施)だろう。その中の注目すべき質問は、「現在、国会で審議されている集団的自衛権の限定的な行使を含む安全保障関連法案についてお聞きします」、「(1)安全保障関連法案は日本の平和と安全を確保し、国際社会への貢献を強化するために自衛隊の活動を拡大するものです。こうした法律の整備に賛成ですか、反対ですか」、「(2)安倍首相は安全保障関連法案を今開かれている国会で成立させる考えです。あなたは今開かれている国会での成立に賛成ですか、反対ですか」というもので、おそらくこの質問を読んだ調査専門家やマスメディア関係者は絶句したのではないか。私もこれまでいろんな世論調査に接してきたが、ここまでの露骨な誘導質問は見たことがない。

つまり、読売調査は安保法案を「日本の平和と安全を確保し、国際社会への貢献を強化するために自衛隊の活動を拡大するもの」と産経以上に踏み込んで断定し、また「安倍首相は安全保障関連法案を今開かれている国会で成立させる考え」だと強調して、今国会での成立を後押ししているのである。しかしここまで言われると、さすがの国民も黙っていられなかったのだろう。結果は読売が驚愕するような回答となった。

●安保関連法案の整備に「賛成」40%(前回46%)、「反対」48%(同41%)
●安保関連法案を今国会で成立させることに「賛成」30%(前回34%)、「反対」59%(同48%)
●安全保障関連法案の内容について国民に「十分に説明している」14%、「そうは思わない」80%
●安全保障関連法案が成立すれば、日本が外国から武力攻撃を受けることを防ぐ力いわゆる抑止力が「高まる」35%、「そうは思わない」54%
安倍内閣を「支持する」53%(前回58%)、「支持しない」36%(同32%)

 なぜかくも形振り構わない世論調査を産経・読売両紙が行うことになったのか。私はそこに両紙が安倍政権の「広報紙」としての役割を果たさなくては、もはや安保法案の成立が困難になりつつあるとの重大な情勢変化があったと見ている。読売調査(6月5〜7日)は、6月4日の衆院憲法審査会での3人の参考人憲法学者が挙って法案は「違憲」だと述べた後で急きょ行われた。産経調査(6月27、28日)は、自民党本部で6月25日に開かれた勉強会「文化芸術懇話会」で講師に招かれた作家の百田尚樹氏(安倍首相との共著もある)の「とんでもない発言」の後で実施された。いずれも安保法案の本質を表裏から暴露される中で産経・読売両紙がそれを打ち消すために行われた世論調査だったが、結果がその真逆になったのは皮肉だった。「安保法案反対」の国民世論は、どんな誘導質問によってももはや操作不可能の確固たるレベルに到達したのである。(つづく)