アメリカのTPP撤退でお先真っ暗の安倍内閣の支持率がなぜ上がるのか、国民にとってはアベノミクスの行き詰まりよりも、国際情勢にたいする「不安」の方が大きいのだ、改憲派「3分の2」時代を迎えて(その26)

 トランプ氏がアメリカ次期大統領に選ばれた直後の11月12〜13両日、読売新聞と産経新聞世論調査が行われ、結果が15日に掲載された。私が主に注目したのは、アベノミクスの「残された矢=TPP」が完全に行き詰った状況を国民がどう判断するか、TPPに全てを賭けてきた安倍内閣の支持率がどう変化するかの2点だった。

 産経新聞は、「TPP(環太平洋経済連携協定)の承認案と関連法案が10日、衆議院を通過しました。あなたはこれらを今の国会で成立させることに賛成ですか、反対ですか」と尋ね、結果は「賛成」は38・8%(前回47・7%)、「反対」は48・5%(同40・1%)となって、前回(10月15、16両日実施)とは賛否が逆転した。ちなみに前回の質問は、「安倍政権は、TPP(環太平洋経済連携協定)の承認案と関連法案を今の国会で成立させたいとの考えです。あなたは、このことに賛成ですか、反対ですか」というものだった。これは、TPP脱退を主張するトランプ氏が次期大統領に当選した影響が早速あらわれたものといえ、政府がこれまで誘導してきたTPP世論に劇的な変化が生じたことを示している。

また、「政府は、日本がまずTPP(環太平洋経済連携協定)を承認し、アメリカをはじめとする各国の承認を促したい方針です。あなたは、この政府の方針を支持しますか、支持しませんか」との質問に対しては、「支持する」「支持しない」がともに45・2%で拮抗(きっこう)した。これは、やってみてもいいが結果はあまり期待できない、との国民の冷めた気分をあらわしている。いずれにしてもTPPは国内外において重大な壁にぶつかったのである。

一方、読売新聞の世論調査の方はなかなか手が込んでいる。前回調査(11月4〜6日実施)では、環太平洋経済連携協定(TPP)を今の臨時国会で承認することの是非を直接的に問い、「賛成」43%、「反対」39%との回答を得ていた。ところが今回の調査はそれに該当する質問がなく、「トランプ氏は環太平洋経済連携協定(TPP)に反対しています。このことが、世界の経済に与える影響は、プラスの方が大きいと思いますか。マイナスの方が大きいと思いますか。それとも、プラスとマイナスが同じくらいだと思いますか」といった、まるで経済評論家に対するような質問にすり替えている。

読売新聞が前回と同じ質問をすれば、産経新聞のように「TPP反対」の結果が出ることが明らかなので、こんな的外れの一般的な質問にすり替えたのだとすれば、これは悪質極まりない世論操作だと言わなければならない。安倍政権のTPP政策の行き詰まりが国民世論にあらわれることを恐れ、それを誤魔化すためにトランプ氏に対する国民の反感を利用して、トランプ氏がTPPに反対しているのだから「プラスにはならない」と言わせたかっただけなのだ。結果は「プラスの方が大きい」7%、「マイナスの方が大きい」46%、「プラスとマイナスが同じくらい」36%だった。

にもかかわらず、私は安倍内閣の支持率が下がらず、むしろ上昇したのには驚いた。産経は57・9%(前回57・6%)、読売は61%(同58%)となり、NHKでも55%(同50%)と上昇している。その理由をいろいろ考えてみたが、これはTPP政策の行き詰まりに対する反応というよりは、トランプ氏が次期大統領に当選したことにともなう国際情勢の不安感がより大きな影響を及ぼしたと考える方が妥当だろう。なぜなら、産経・読売両紙ともトランプ氏の登場に対する世論の圧倒的に否定額側に傾いているからである。

このことは、産経新聞の「トランプ氏が勝利して良かったか」の質問に対して「そう思う」19・3%、「思わない」67・6%、「日米関係に良い影響をもたらすか」に対して「そう思う」17・3%、「思わない」67・1%という数字がないよりも示している。

読売新聞の方も同様で、(1)トランプ氏が新しい大統領にえらばれたことは「良かった」15%、「良くなかった」62%、(2)今後の日米関係に関しては「期待の方が大きい」8%、「不安の方が大きい」58%、(3)日本経済への影響は「良い影響が大きい」7%、「悪い影響の方が大きい」58%、(4)日本の安全保障への影響は「良い影響が大きい」7%、「悪い影響の方が大きい」58%、(5)国際社会の平和と安定への影響は「良い影響が大きい」6%、「悪い影響の方が大きい」57%というように、まるでハンコを押したような数字が並んでいる。

安倍内閣の高支持率が、これまで国民に対する北朝鮮や中国の脅威を煽ることで維持されてきたことは周知の事実であるが、今度はそれにトランプのアメリカが加わることによって国際情勢の緊張が一挙に高められ、そのことが支持率の上昇につながっているのだろう。また折しも、隣国の韓国情勢が朴大統領に対する政治不信によって流動化しており、日韓関係が動揺していることもそれに輪をかけている。安倍政権の行き詰まりが支持率の低下につながらず、却って対外情勢や国際関係の不安定と流動化が支持率の上昇を引き起こしていることは「歴史の皮肉」だという他はないが、それが現実政治の流れである以上、私たちはこの現実から逃げられそうもない。(つづく)