読売・産経両紙はいったい何のために世論調査をするのか、世論調査に現れた「民意」を無視した編集方針は果たして成立するのか、両紙は自らの編集方針や記事に関する世論調査を行い、読者の評価を受けるべきだ、憲法破壊の安保法案「成立」後の政治情勢について(2)

 安保法案「成立」直後の9月19〜20日、新聞各社の世論調査が一斉に行われた。ここでは(1)「安保法の賛否」(安保法成立の是非)、(2)「安保法に関する政府・与党の説明」、(3)「内閣支持率」の3点に絞って各社の調査結果を見よう。それによると、安保法に批判的な朝日・毎日・共同通信3社と肯定的な読売・産経・日経3社では編集方針が180度異なるにもかかわらず、世論は「ほとんど違いが見られない」という驚くべき結果が出ている。このことは、今回の安保法案「成立」に関する国民世論は高いレベルで確立しており、各社調査結果は押し並べて安保法に「ノー」を突きつけているということだ。当然と言えば当然だが、民意の所在は明らかだと言うべきだろう。

まず、安保法そのものに対する評価すなわち「安保法に賛成」「安保法成立を評価する」については、すべて30%台で(最高:産経38%、最低:朝日30%)、世論の3分の1は安保法に肯定的(賛成)だと言っていいだろう。これに対して「安保法に反対」「安保法成立を評価せず」は全て50%台だから(最高:読売58%、最低:朝日51%)、国民の過半数が安保法に批判的(反対)だということだ。

●「安保法に賛成」「安保法成立を評価する」:朝日30%、毎日33%、共同通信34%、読売31%、産経38%、日経31%
●「安保法に反対」「安保法成立を評価せず」:朝日51%、毎日57%、共同通信53%、読売58%、産経57%、日経54%

次に「政府・与党の安保法に関する国民への説明」については、安倍首相が「丁寧な説明」を繰り返したにもかかわらず、「説明十分」は10%台にすぎず地を這っている(最高:朝日16%、最低:読売・日経12%、産経は項目なし)。これに対して「説明不十分」はいずれも80%前後に達し、圧倒的多数の国民が否定的評価を下している(最高:共同通信・読売82%、最低:朝日74%)。これでは政府・与党は「説明責任」を到底果たしたとは言えず、国会審議の前提が崩れていると言わざるを得ない。

●「政府・与党の安保法に関する国民への説明は十分」:朝日16%、毎日13%、共同通信13%、読売12%、日経12%
●「政府・与党の安保法に関する国民への説明は不十分」:朝日74%、毎日78%、共同通信82%、読売82%、日経78%

 注目の内閣支持率に関しては、前回の8月調査(安保法「成立」前)に比べて各社とも「安倍内閣支持」が減り(毎日は微増)、「安倍内閣不支持」が増えた。また「不支持」が「支持」を上回っていることも各社共通している(読売は今回が初めて)。「支持」は30%台後半から40%台前半に分布しており、最高は産経43%、最低は朝日・毎日35%の開きがある。「不支持」は40%台後半から50%台前半にわたり、最高は読売51%、最低は朝日45%である。なお、前回調査に比べて「支持」の減り方が大きかったのは日経6ポイント、共同通信・読売の4ポイントであり、「不支持」の増え方が大きかったのは日経7ポイント、読売6ポイントである。読売を含めて各社の「不支持」が「支持」を上回ったことは、安倍内閣が国民から事実上「不信任」を突きつけられている状態だと言える。

●「安倍内閣を支持する」(カッコ:前回):朝日35%(36%)、毎日35%(32%)、共同通信39%(43%)、読売41%(45%)、産経43%(44%)、日経40%(46%)
●「安倍内閣を支持しない」(カッコ:前回):朝日45%(42%)、毎日50%(49%)、共同通信50%(46%)、読売51%(45%)、産経48%(45%)、日経47%(40%)

新聞が「社会の公器」「社会の木鐸」である以上、編集方針は「社会=国民世論=民意」を反映したものであるべきことは当然だろう。日本新聞協会の「倫理綱領」の前文には、「おびただしい量の情報が飛びかう社会では、なにが真実か、どれを選ぶべきか、的確で迅速な判断が強く求められている。新聞の責務は、正確で公正な記事と責任ある論評によってこうした要望にこたえ、公共的、文化的使命を果たすことである」(抜粋)とあり、「正確と公正」の段では、「新聞は歴史の記録者であり、記者の任務は真実の追究である。報道は正確かつ公正でなければならず、記者個人の立場や信条に左右されてはならない。論評は世におもねらず、所信を貫くべきである」とある。

以前の拙ブログでも書いたように、現在の新聞協会のトップは読売(会長)、産経(副会長)なのであるから、両紙は率先して「新聞倫理綱領」を実践する責務を負っている。また両紙は自ら実施した安保法に関する世論調査においても、安保法に反対し、安倍内閣を支持しない「国民世論=民意」の所在が明白に示されているのであるから、「新聞の責務は、正確で公正な記事と責任ある論評によってこうした要望にこたえ、公共的、文化的使命を果たすこと」だと自覚しているのであれば、そこでの記事や論説は、当然のことながら「社会=国民世論=民意」を体したものになるはずだ。

ところがどうだろう。安保法案が成立した翌日の読売新聞は「祝賀ムード」一色に包まれていた。1面から3面までぶっ通しで安保法関連の記事が大々的に掲載され、「日本の安保新時代」「抑止力高める画期的基盤」「自衛隊広がる国際貢献」「首相10年越しの宿願、支持低下でも譲らず」などなど時代掛かった大見出しがズラリと並んだ。見るも恥ずかしいほどの「安保法賛歌」「安倍賛歌」のオンパレードではないか。日の丸を振っての「祝賀パレード」でも煽りかねないほどの勢いだ。読売紙が如何にこの日を待ちかねていたかがよくわかる。

「積極的平和主義」を具体化するための提案も社説で懇切丁寧に列挙されている。「自衛官の適切な武器使用のあり方を含め、新たな部隊行動基準(RОE)を早急に作成しなければならない」、「米軍など他国軍との共同訓練や、共同の警戒・監視活動を拡充すべきだ」、「機密情報の共有も拡大したい」、「新たに必要となる装備の調達や部隊編成の見直しなども、着実に進めることが重要である」等々、まるで自衛隊を「日本軍隊」と言い換えてもよいほどのはしゃぎぶりだ。自民党日本国憲法改正草案の「第9条の2(国防軍)」すなわち、「我が国の平和と独立並びに国及び国民の安全を確保するため、内閣総理大臣を最高指揮官とする国防軍を保持する」の憲法改正が、あたかも実現したような書きぶりになっているのである。

国会審議に関する記事の中にも「強行採決」の言葉は一切なく、野党が長時間の演説で「議事を妨げた」とあるだけだ。「目的のためには手段を選ばない」という言葉があるが、「安保法案成立のためには手段を選ばない」安倍政権をここまで賞賛するのでは、同紙はもはや議会制民主主義を放棄(否定)したと言われても仕方があるまい。また自ら行った世論調査の「安保法の成立を評価しない」58%、「安倍内閣を支持しない」51%と言う数字を完全に無視した点でも(前回調査でも同じ傾向は出ている)、このメディアは国民世論や民意など一切眼中になく、社主や編集幹部の意向で紙面が決まるように見える。

世論調査結果が掲載された9月21日の読売紙は、「読売新聞社の緊急全国世論調査では、安全保障関連法への国民の理解が進んでいないことが浮き彫りになった。政府・与党は引き続き国民に向けて丁寧に説明していく考えだ」とまるで他人事のように書いている。そこには、安保法案の成立のために社を挙げて「改憲キャンペーン」を続けてきた編集方針に対する反省もなければ、「社会の公器」としての自覚のカケラも見られない。しかも国民世論が安保法に圧倒的に反対している事実をねじまげて、「国民の理解が進んでない」という始末だ。これでは「安保法反対」という国民の声を無視してひたすら強行採決に走った安倍首相の言い分と全く同じであり、「反対=理解不足」として国民世論を無視する独裁者の論理に他ならない。

産経紙についてはどうか。自公与党が参院特別委員会で問答無用の強行採決をした翌日、9月18日の産経社説は、「採決こそ議会制の根幹だ」と題して、「(民主党議員らは)他の反対勢力ともども『民意に反した強行採決は許されない』などと批判しているが、まったく的外れだ。審議を経た法案を採決するのは立法府として当然だ」と居直っている。これ以上書くと長くなりすぎるので簡潔に述べるが、この社説子は自社の世論調査など全く眼中になく、「報道は正確かつ公正でなければならず、記者個人の立場や信条に左右されてはならない」という倫理綱領もまったく念頭にはないのだろう。なぜなら、法案採決の前提となる「国会は安保関連法案の審議を十分に尽くしたと思うか」という自社の世論調査においても、「思う」18%、「思わない」78%と言う歴然たる数字が出ているのである(これまでも同様)。

産経紙は、他社のように「政府・与党の安保法に関する国民への説明は十分か」と言う質問を避けて、主語を「政府・与党」から「国会」に置き換え、「国会は安保関連法案の審議を十分に尽くしたと思うか」という質問をすりかえ、政府・与党の説明責任や審議責任を野党全体に及ぶように巧みに小細工している。政府・与党が安保法案に関する衆参両院の特別委員会委員長、議事運営委員長や本会議議長をすべて独占し、議事運営(採決)の権限を一手に握りながら、それでいて国民からは「国会は安保関連法案の審議を十分に尽くしていない」(78%)と批判されている事態に目をつぶり、「審議を経た法案を採決するのは立法府として当然だ」と居直っているのである。

思うに、読売・産経両紙は世論調査を「民意の指標」にしていないのではないか。安倍政権の広報紙としての両紙の役割は、改憲を推進する安倍政権を維持するため、世論調査を「統治手段」として利用しているのだろう。言い換えれば、政権維持の妨げとなる国民世論を未然に察知し、民意を操作しながら、政府・与党の政策を実現していくための「マーケティング・リサーチ」として世論調査を利用しているのである。読売紙が世論調査の解説欄(9月21日)で、「支持率が小幅な下落にとどまったことで、政府・与党内には安堵感も広がった。安倍首相周辺は『支持率の下げ幅は想定の範囲内だ。経済対策で反転攻勢に出る』と語った。首相も20日、周辺に『次は経済だ』と述べた」などと書いているのは、安倍政権にとっての情報提供の役割を物語っている。

 私は提案したい。読売。産経両紙は、自らの記事や論説、編集方針などについて一度世論調査を行ってはどうか。「あなたは、最近の読売(産経)新聞の政治関連記事をよく読みますか」(読む、読まない)、「あなたは、全体として読売(産経)新聞の編集方針や政治主張に賛成ですか」(賛成、反対、わからない)、「あなたは、読売(産経)新聞が安倍政権を支持していることに賛成ですか」(賛成、反対、わからない)などなど、質問が山のように浮かぶ。(つづく)