NHK7月世論調査、安倍内閣を「支持しない」9ポイント増、「支持する」7ポイント減の衝撃、それでも安倍政権は安保法案を強行採決するのか、大阪都構想住民投票後の政治情勢について(7)、橋下維新の策略と手法を考える(その45)

昨夜のNHKニュースを見て驚いた。NHKが7月10日から12日にかけて行った定例世論調査で、安倍内閣を「支持する」と答えた人は先月より7ポイント下がって41%で、「支持しない」と答えた人は9ポイント上がって43%となり、第2次安倍内閣の発足以降、初めて「支持しない」という回答が「支持する」を上回ったというのである。

7月に入ってからすでに読売新聞、毎日新聞世論調査が行われており、直近では日本テレビ(7月10〜12日実施)と朝日新聞(7月11、12日実施)の世論調査も発表された。読売を除いてはいずれも安部第2次内閣発足以降、初めて不支持が支持を上回るという結果が出ているので、NHK調査もその流れに沿っていると言えるだろう。だから、結果自体にはそれほど驚かなかった。

 私が目を見張ったのは、実は「支持する」7ポイント減、「支持しない」9ポイント増といういわゆる「上げ幅」「下げ幅」の変動の大きさである。今年の2月から3月にかけても「支持」8ポイント減、「不支持」8ポイント増という大幅な変動があったが、この段階ではまだ不支持が支持を上回るようなことはなかったので、4月に入ると「支持」5ポイント増、「不支持」3ポイント減と若干持ち直した。しかし、今回は不支持が支持を上回ると言う「質的変化」を伴っているので、今後の成り行きは予断を許さない。このまま支持率が直下降して、安倍内閣が総崩れになって行く可能性も十分あると思う。

 内閣支持率と政局運営の関係は一概に言えないが、一般的には30%台で「危険信号」、20%台になると「退陣間近」ということになっているらしい。安倍内閣は不支持が支持を上回ったとはいえ、まだ40%前後の支持率をキープしているので楽観しているのだろう。今日の朝日・毎日両紙はいずれも1面で「安保法案 明日採決(方針)」と書いているのだから、安倍首相の「決めるべきときには決める」方針は揺らいでいないと見るべきだ。それどころか、「さらなる内閣支持率の低下を招く前に採決に踏み切り、安保関連法案の成立を確実にしたいとの考えが強まっている」(朝日、7月14日)とのことだから、もはや「毒喰らわば皿まで」という心境にでも陥っているのだろうか。

話は少し(大分)古くなるが、私が学生時代の「60年安保」のときのことだ。1960年5月19日深夜、岸首相(安倍首相の母方祖父)は国会に右翼と警官隊を導入して安保改定条約案を強行採決した。このとき、岸首相は1ヶ月後に退陣する羽目になることなど予想すらしていなかった。しかし強行採決後、「議会制民主主義を守れ」との国民世論が大爆発し、数十万の市民が国会を取り巻んで抗議行動を続ける中、岸首相は陸上自衛隊による武力鎮圧を要請したものの実現せず、遂に内閣総辞職に追いこまれた。このとき、朝日世論調査では岸内閣の支持率は12%、NHKの世論調査では17%にまで落ち込んでいた。

 安倍首相は国民世論の変化に対して多分高を括っているのだろう。「1強多弱」の国会勢力の下で一定の審議時間を消化すれば、国民世論などは関係なくとにもかくも採決するのが「民主主義」だと確信しているのである。その結果、内閣支持率はたとえ10%程度は下がろうともそのうちに回復する、長期政権構想にはなんら差し支えないと過信しているのである。だが、果たしてそうだろうか。私は国民世論を軽視(無視)する政権は必ず手酷いしっぺ返しを食うだろうと確信する。

これは余り記憶に自信がないが、確か政治学者の丸山真男が60年安保を回顧した雑誌『世界』(1995年頃)のインタビュー記事で、「ふつう、大衆運動が盛り上がっていった頂点に60年安保があったというふうに考えられがちだが、そうではない。突如としてあの大爆発になった。5月19日の強行採決によって突然大爆発が起きた」といった趣旨のことを語っている。いまから55年前のあの日、岸首相はまさか自ら率いた強行採決が歴史的な安保闘争の導火線になるとは考えていなかった(夢想すらしなかった)。尊敬する祖父の血筋を受け継ぐ安倍首相のことだ。彼もきっと祖父と同じことを考えているに違いない。

だが、「歴史に学ぶ」というのは、血筋や世襲関係を超えて冷静な判断できることだろう。それができない安倍政権の命運は「危うい」と言うほかはない。安倍首相をこよなく愛し、安倍政権浮揚に全力を傾注して来た読売新聞ですら心配しているではないか。7月12日の読売紙の政治面トップは、「難題山積 試練の首相」、「安保/原発再稼動/新国立劇場・・・」との見出しで、「安倍首相は今夏、安全保障関連法案や原子力発電所の再稼動など、国民の賛否が分かれる政治課題で決断を迫られる。内閣支持率は低下傾向にあり、首相周辺は政権浮揚策の洗い出しに躍起になっている」との情勢を紹介し、「支持率はどんどん削られるだろうが、やるべきことはやっていくしかない」とする首相の政治姿勢に懸念を示している。

記事の中の「国民の賛否が分かれている政治課題」という表現は正確ではなく、「国民の(大)多数が反対している政治課題」というべきであろうが、安倍首相にとっては「支持率がどんどん削られていく」状況の中で「やるべきことをやっていくこと」は茨の道そのものだ。「私が総理大臣だ!」と見栄を切るのはもう止めにして、そろそろ「裸の王様」になった自分の周辺を冷静に見渡すときではないか。(つづく)