安保法案への理解が進んでいないからではない、安倍内閣への本質的理解が進んできたからこそ内閣支持率が低下したのだ、産経・FNN世論調査(2015年7月18、19日実施)を分析する、大阪都構想住民投票後の政治情勢について(11)、橋下維新の策略と手法を考える(その49)

 もはや安倍内閣の広報紙・産経新聞をいえども事実を認めざるを得なくなってきたのだろう。7月21日の産経新聞はついに、安倍内閣について「内閣支持39%、不支持52%、初の逆転」と報じた。前回調査(6月27、28日実施)から支持率が一挙に7ポイント減の39%、不支持率は10ポイント増の53%となり、支持率と不支持率が鋭角的にクロスする見事な「X字」カーブを描いたのだ。
 
しかし調査結果に関する政治面の見出しは、「首相、支持率回復目指す」、「安保法案『参院で分かりやすく』」というもので、解説記事のリードは、「第2次安倍晋三内閣の支持率と不支持率が初めて逆転したことについて、政府・与党は安全保障関連法案の理解が進んでいないためと分析。国民に対する説明を尽くして法案への理解を深め、支持率回復につなげたい考えだ」と紹介している。

 そう言えば、安倍首相も7月20日のフジテレビ番組(例のポンチ模型を使っての集団的自衛権の広報番組)で、安保法案について「戦争法案といわれるが、戦争を未然に防ぐための法案だ。参院審議を通じて分かりやすく説明していきたい」と強調しているし、また公明党の斉藤幹事長代行も産経紙の取材に対して、「支持率の下落はわれわれの説明不足だということだ。法案の重要性を引き続き国民に説明していく努力をすることに尽きる」と歩調を合わせている。要するに自公与党提出の安保法案は「正しい」、しかし国民の「理解」が進んでいない段階で強行採決をしたので支持率が下がった、これから丁寧に「説明」すれば支持率は回復するとの(手前勝手な)分析である。

 だが、政治面に掲載された世論調査の主な質問と回答をみると、安保法案に対する国民の本質的理解が深まるにつれて安保法案への反対が増え、それを強行する安倍内閣の支持率が低下するという世論動向がくっきりと浮かび上がってくる。産経紙は自ら行った世論調査結果を質問ごとに正確に分析することなく、支持率低下の原因は安保法案の「説明不足」にあるとの手前勝手な「政治的結論」を導き、あたかもそれが調査結果であるかのような紙面づくりをしているのである。マスメディアとして「風下にも置けない」とはこのことだ。

 おそらく世論調査の担当記者は、質問と回答を照らせ合わせて具体的な分析記事を書いたのであろう(と思いたい)。しかしそれでは、これまでの産経紙の主張はことごとく否定されることになり、社主、編集局長はもとより論説委員も総入れ替えしなければならない。「それは困る」ということでデスクが大鉈を振るって具体的分析は全てカットし、調査結果とは「独立」した解説記事を付け加えたのではないか。前触れはこれぐらいにして具体的な分析には入ろう。

 まず、安保法案に対する国民の理解ということだが、産経紙の6月調査と7月調査を比較すると、「よく理解している」「ある程度理解している」は56%と55%、「あまり理解していない」「ほとんど理解していない」は44%、45%でほとんど変わっていない。つまり回答者(国民)の過半数は安保法案を「よく」「ある程度」理解しており、しかもその状態は急変していないのだから、「国民の理解不足=説明不足」がこの間の支持率急落の原因になったとは(逆立ちしても)言えない。他に原因があるのである。

 その原因を探るには、安保法案そのものの必要・不必要性に関する回答を見た方がはるかにわかりやすい。産経紙がこれまで「日本の安全と平和を維持するため」との前書きをわざわざ付けて聞いてきた質問の回答で、「成立が必要」と考える回答者が49%(6月)から42%(7月)に減り、「必要ない」が44%から50%へ増えて初めて逆転した。内閣支持率の急落はそこに最大の原因があるのである。とりわけ今国会で安保法案を成立させることに「賛成」が32%から29%へ減り、「反対」が59%から63%へ増えて、賛否の差が(反対側へ)さらに広がったことも大きい。つまり内閣支持・不支持率の逆転の原因は、安保法案の必要性に関する回答者の態度が「必要」から「不必要」へ逆転したことにあるのであって、国民の「理解不足」でも政府・与党の「説明不足」でも何でもないのである。

 このことは、安倍政権に対する評価項目の全てが否定側にシフトしつつあることでも検証できる。現時点においても肯定が否定を上回っているのは「首相の人柄」だけで、「首相の指導力」「景気・経済対策」「社会保障政策」「外交・安全保障政策」のいずれの項目も否定が肯定を上回り、しかもその差がますます大きくなってきている。
 ○首相の人柄:「評価する」59%(6月)→53%(7月)、「評価しない」33%→41%
 ○首相の指導力:「評価する」55%→47%、「評価しない」38%→46%
 ○景気・経済対策:「評価する」44%→36%、「評価しない」48%→56%
 ○社会保障政策:「評価する」27→23%、「評価しない」62%→64%
 ○外交・安全保障政策:「評価する」38%→34%、「評価しない」53%→58%

 安倍政権の社会保障政策が国民から不評を買っていることは誰でも知っている。だが「アベノミクス」に代表される景気・経済政策がかくも評価されていないことは、安倍内閣にとっては危険信号だろう。わけても安倍内閣の大黒柱である外交・安産保障政策の評価が地を這っているようでは、様にならないと言うべきでないのか。やがて「首相の人柄」に対する評価が逆転するときがやってくるだろう。そのときは内閣支持率が20%台の危険水域に突入するときでもある。安倍首相は急降下する飛行機から早く「脱出」した方が良いと思うがどうか。(つづく)