安倍内閣の「1億総活躍大臣」はいったい何を担当するのか、日本の軍事大国化を支える国民意識の形成(洗脳)が主たる役割だろう、ナチス政権のゲッペルス国民啓蒙・宣伝大臣のように、憲法破壊の安保法案「成立」後の政治情勢について(5)

 過日、「リベラル21」(東京のジャーナリストの同人ブログ)に、「『1億総活躍社会』は意味不明のスローガンではない、ファッショ的国民総動員を目論む安倍改憲内閣の政治目標なのだ」という拙文を書いた。10月7日発足した安倍第3時改造内閣のなかでひときわ注目されているのが加藤1億総活躍相だが、その役割がはっきりしないとマスメディアでもとやかく言われており、その狙いを解明する必要があったからだ。

 たしかに「1億総活躍社会」などというのは、文字面だけを読めば分かりにくい。しかし私は、安倍首相の組閣後の記者会見のなかにその回答が隠されていると思う。産経新聞の首相会見要旨(10月8日)によれば、「1億総活躍担当相は内閣をリードする司令塔」だと位置づけられている。以下は、関係する部分の抜粋である。
 「この内閣は未来へ挑戦する内閣だ。少子高齢化に歯止めをかけ、50年後も人口1億人を維持する。1億総活躍という未来を切り開く新しい挑戦を始める。戦後最大のGDP(国内総生産)600兆円、希望出生率1・8、介護離職ゼロの3つの目標へ向かい、新しい三本の矢を力強く放つための強力な態勢を整えた。年内のできるだけ早い時期に緊急に実施すべき対策の第1弾を策定し、直ちに実行に移す。加藤勝信1億総活躍担当相に早急に国民会議を立ち上げ、対策を取りまとめてもらう。2020年とその先を見据え、いつまでに、どのような対策を実行するかのロードマップをまとめてもらう。(略)1億総活躍担当相は関係閣僚と連携しながら内閣をリードする司令塔だ」

 この会見要旨を読んでぱっと意味が分かる人は相当な政策通だといえる。私自身も何回か読んでみたが、最初はさっぱり意味が理解できなかった。いつもは首相の言葉には過剰反応する産経紙もどう書いていいのかわからないらしく、解説記事ひとつすらない。それほど意味不明のスローガンだから、他の各紙にも目下のところキレのいい記事が見当たらないのである。

 たとえば、「改造内閣では一億総活躍相という新ポストができた。どんな役割を担うのかイメージがわかない。政権奪還後の安倍政権は『地方創生』など次々のキャッチフレーズを打ち出してきた。言葉遊びとみられては元も子もない。『一億総活躍社会』の具体像を早めに示すべきだ」(日経社説、10月8日)、「改造人事の目玉として新設した『1億総活躍』担当相が機能するかどうかも疑問がある。首相は腹心の加藤勝信官房副長官を起用し、官庁の縦割り排除を掲げ、成長重視のシンボルにしたいようだ。だが、「1億総活躍社会』のスローガンの下、加藤氏が実際にどんな政策の領域を対象とし、何に取り組むかはっきりしていない」(毎日社説、同)など、まだ明確に論評していない。

 私はこの間、安倍政権でキャッチフレーズよろしく新設してきた特命大臣は、「女性活躍担当相」も「地方創生担当相」もすべて「政策宣伝担当相」だと理解している。特命大臣は首相の「特命」(特定課題や国民受けのするテーマ)を受けて活動する大臣だから、通常の基本業務をこなす所轄官庁を持たない。いわばプロジェクトチームのリーダーといった格付けであり、目標が達成されるか、不発に終われば解散する。すでに女性活躍相は表から消えたし(1億総活躍相の兼務)、地方創生担当相も石破大臣がグズグズ言っているうちに早晩消えるだろう。政策が「3本の矢」のように短命化しており、その都度新しいキャッチコピーと特命大臣を生み出す必要があるからだ。

 「1億総活躍相」も総活躍する前に消えることは間違いない。しかし、加藤大臣に課せられた特命事項はきわめて危険な内容を含んでいる。それを窺わせるのが「加藤勝信1億総活躍担当相に早急に国民会議を立ち上げ、対策を取りまとめてもらう。2020年とその先を見据え、いつまでに、どのような対策を実行するかのロードマップをまとめてもらう。(略)1億総活躍担当相は関係閣僚と連携しながら内閣をリードする司令塔だ」という首相記者会見の言葉だ。

 政策を実行するために「国民会議」を立ち上げるとはいったいどういうことか。「国民会議」を立ち上げなければ達成できない「特命」とはいかなるものか。「新3本の矢」という政策目標すなわち「戦後最大のGDP(国内総生産)600兆円」「希望出生率1・8」「介護離職ゼロ」を掲げるのであれば(全て達成不可能だと言われているが)、わざわざ特命大臣など置く必要はまったくない。それぞれの所轄官庁が頑張ればいいだけの話だ。

私は「1億総活躍という未来を切り開く新しい挑戦を始める」という言葉の中に、安倍政権が目指す改憲軍事国家のキナ臭い匂いを感じる。安保法成立を契機にして国防予算を飛躍的に増大し、「積極的平和主義」というスローガンの下に自衛隊の海外派兵を世界一円に展開する――、そんな「壮大」な構想が安倍首相の頭を占領しており、そこから「1億総活躍社会」などと言った時代錯誤の言葉が出てきたと考えるからだ。

毎日新聞のオピニオン欄、「保阪正康の昭和史のかたち」(2015年10月10日)には、「安倍首相の1億総活躍社会、過去の歪み 凝縮の表現」と題するノンフィクション作家・保阪氏の鋭い分析が私たちの目を開かせてくれる。
 「『一億』いう語は、『聖戦完遂』とか『ファシズム体制』そのものを指しているというのが歴史的な用いられ方だった。たとえば『一億一心』というのは、国民が心をひとつにして聖戦完遂となる。国民精神総動員令の決定にもとづいて、1939(昭和14)年9月1日から、阿部信行内閣の下で毎月1日は『興亜奉仕日』になった。(略)国民精神をひとつにして、戦争政策に全面協力せよというのが、興亜奉仕日(それを一億一心社会といっていい)の狙いである。阿部内閣のこの奉仕日の規定は、現在にも通じていて安保関連法が現実に施行になったら、そのまま通用するのではないかといいたくもなる」

すでに、その準備は始まっていると思う。1億総活躍相になった加藤官房副長官の後任には、党総裁特別補佐としてこれまで靖国神社に首相代理で玉串料を奉納してきた党内切ってのタカ派、萩生田氏が就任した。このままでは加藤1億総活躍担当相が内閣をリードする「司令塔」となり、官邸では萩生田氏が日本の軍事大国化を支える「国民意識形成(洗脳)」担当の官房副長官となって、「1億総活躍国民会議=事実上の大政翼賛会」の組織化に全力を挙げることになる。「政高党低」の官邸主導政治が国家主義的傾向をますます深め、「安保法制定+官邸主導=軍事国家」へ道が着々と敷かれていくような気がしてならないのである。

「1億総活躍社会」は意味不明のスローガンではない。ファッショ的国民総動員を目論む安倍改憲内閣の政治(イデオロギー)目標なのだ。加藤1億総活躍相がナチス・ドイツゲッペルス「国民啓蒙・宣伝大臣」のように大活躍しないよう、私たちは警戒を強めなければならない。(つづく)

●大阪ダブル選挙が近づいてきたので、次回からはテーマを移します。広原