橋下政治の8年間は終始、安倍政治の忠実な伴走者だった、「大阪」を売りにしながら「東京」(首相官邸)のコマ(駒)になる橋下維新の自家撞着、橋下引退後の「おおさか維新」はどうなる(その1)

 橋下大阪市長が任期満了で引退する12月18日前後の3日間、私は東京への出張で関西を留守にしていた。大手紙を含めて東京各紙は橋下氏の引退を一応伝えたものの、その取扱いはさりげないもので特に目新しい点はなかった。折しも消費税10%値上げ時の軽減税率をめぐる自民・公明与党間の駆け引きが華々しく報道され、5兆数千億円に上る増税の一部が軽減(天引き)されるかどうかに関心が集まっていた。肝心の増税される方には一向に眼がいかず、そこからどれだけ天引きされるかに焦点が当てられているのだから、世にも不思議な物語だ。5万円を庶民の懐から巻き上げた連中が「1万円返してやるからありがたく思え!」と言うのと同じ論法だろう。

 加えて安倍首相が軽減税率の実施に譲歩したのは、公明党が安保法制に賛成したことへの見返りだとか、来夏の参院選の協力を取り付けるためだとか、政局絡みの解説が堂々と罷り通っているのだから恐れ入る。これでは、僅か1兆円ばかりの消費税増税の天引きと引き換えに公明党が安保法案に賛成した(憲法を売った)ことになり、安倍政権は1兆円の大安値で改憲勢力の買収に成功したことになる。もし事実なら、マスメディアがそんな政界の裏取引の真相を総力挙げて追求しなければならないはずだ。そんなことを百も分かっていながら見せかけの自公幹事長会談ばかりを追いかけているのだから、レベルが低いというべきか、性質(たち)が悪いというべきか。

 ところが帰宅して関西の新聞を見ると、こちらの方は「橋下一色」なのだからその東西落差の大きさに驚かされる。3日間の各紙に眼を通しスクラップするだけでも作業量は優に1日を超える。これほどの分量だからいろんなことが書いてあって面白いことには面白いのだが、正直なところ情報過多でどう判断してよいのか分からなくなる。なにしろ各紙とも全紙を使って8年間の橋下氏の足跡を振り返り、橋下氏の人物像を連載で各分野の人に語らせ、そして引退後の橋下氏の身の振り方についてまで憶測をめぐらせるのだから、これはもう週刊誌張りの「橋下大特集」だと言ってもいい。これほどの大紙面をこの人物に使う価値があるのかとも思うが、これが橋下氏を(天まで)持ち上げてきたマスメディアの締め括り方なのだろう。

 各紙各様の橋下報道はさておき、私自身は結構醒めた目で橋下氏を見てきた。というよりは、橋下氏の本質は稀代の「デマゴーグ」(謀略扇動家)であり、「右翼ポピュリスト」(社会進歩に反動的な立場を取り、人間の劣情を煽って支持を獲得する大衆操作主義者)だと見て、その観点から彼の行動の全てを分析してきたのである。いま8年間を振り返ってみてこの分析視角はそれほど間違っていたとは思わないし、これからの橋下氏の行動を追跡するうえでも依然として有効だと考えている。この観点からもう一度、橋下氏の足跡を追いながら、今後の「おおさか維新」の行方を占ってみたい。

 橋下氏の8年間の足跡を辿ると、2008年1月の知事当選から2012年11月のダブル選当選までは地域政党大阪維新の会」代表として行動していたが、2012年総選挙に備えて国政進出のための「橋下新党」結成準備をスタートさせた頃から安倍氏への急接近が始まる。当時の産経新聞朝日新聞は、橋下・松井両氏と安倍氏との関係を次のように伝えている。

 ―自民党安倍晋三元首相は(2月)26日夜、民間教育団体「日本教育再生機構」が大阪市で開いたシンポジウムに出席し、教育改革に取り組む松井一郎大阪府 知事(大阪維新の会幹事長)にエールを送った。支持率が低迷する自民党では中堅・若手を中心に安倍氏の再登板を求める声が強まっており、次期衆院選後の政 界再編を視野に、自民党と維新の会の連携に向け、秋波を送ったとの見方もある。「教育基本条例は閉塞(へいそく)状況にある教育現場に風穴を開ける意義がある。松井氏には岩盤のような体制を崩す役割を担ってほしい」。 シンポジウムで安倍氏は、維新の会が制定を目指す大阪府の教育基本条例をこう持ち上げ、最後は「教育再生は道半ばだ。私も同志の皆さんと頑張りたい」と力を込めた。

 ―安倍氏が教育改革を評価するのも分かるが、称賛はこれにとどまらない。(2月)25日の読売テレビの番組では「国民は橋下徹大阪市長なら閉塞感を突破してくれるんではないか」と橋下氏も評価。維新の会が策定中の「維新版・船中八策」も「教育では安倍政権の教育再生と同じことを進めようとしている」と語った。維新の会の国政進出や東京都の石原慎太郎都知事の新党構想が現実味を帯びる中、「新党の看板として安倍氏を迎えるべきだ」との声も出ているだけに安倍氏の言動は波紋を広げる公算が大きい。ただ、安倍氏に新党に参画する意思はなくむしろ自民党再生を志向する。称賛するのは将来の自民党保守系新党との「保保連立」を念頭に置いているからだとみられる。ただ、教育問題を通じて安倍氏と維新の会の連携が強まれば、9月の自民党総裁選そして次期衆院選の行方も大きく左右する可能性がある(以上、産経新聞2012年2月27日)。

 ―自民党安倍晋三元首相は(4月)24日、大阪維新の会代表の橋下徹大阪市長、幹事長の松井一郎大阪府知事と都内のホテルで会談した。安倍氏は維新の会が掲げる教育改革に賛同しており、今後の連携強化に向けて協議したとみられる(産経新聞関西・電子版、2012年4月24日)。

 ―大阪維新の会代表の橋下徹大阪市長は今国会中の衆院解散も念頭に、国政進出に向けて新党を立ち上げる意向を固めた。すでに与野党の約20人の国会議員から参加の打診があり、早ければ8月中に設立準備を本格化させる方針で全国に候補者を擁立する構え。維新が政党要件を満たして次期衆院選に臨めば民主、自民の2大政党に対抗する第3極勢力になるとみられ、政界の流動化が加速しそうだ。橋下氏は自らの立候補については否定しているが、保守を基軸とする政界再編を目指しており、自民党安倍晋三元首相らに中核議員として参加を要請している。ただ、安倍氏は9月の党総裁選への擁立論もあり、総選挙前の維新との連携について結論を出していない(朝日新聞電子版2012年8月15日)。

これらの記事を読めば即座にわかるように、橋下氏らは新党結成の準備段階から安倍氏と(菅氏も含めて)終始協議を繰り返し、「保守を基軸とする政界再編=保保連立」に向けた新党結成を目指していた。それがなぜかマスメディアからは「民主、自民の2大政党に対抗する第3極勢力」のようにイメージアップされ、橋下氏は「第3極の旗手」と持ち上げられて「橋下新党=日本維新の会」は2012年総選挙で54議席を得て第3党に躍り出た。自民党が政権を取り戻し、安倍氏が首相に就任するに及んで、橋下新党はいよいよ保守補完政党としてのスタートを切るかに見えた。この頃が橋下政治の絶頂期だった。(つづく)