大阪維新のダブル選圧勝は野党再編にどう影響を与えるか、早くも「共産党と組めば保守票が逃げる」とのキャンペーンが始まっている、おおさか維新を野党分断カードに起用する安倍戦略が着々と進行している(3)、大阪ダブル選挙の行方を考える(その13)

来年夏の参院選に向けて「おおさか維新」を野党分断カードに起用する安倍戦略が着々と進行している。首相官邸中山泰秀・自民府連会長を「トロイの木馬」に仕立て、「オール大阪」を破壊したのは一にも二にもそのためだった。維新のダブル選圧勝が参院選に向けての各党の戦略に再考を迫っている所為か、11月25日の朝日新聞は、「大阪ダブル選で、参院選に向けた明暗が各党で分かれた」として、次のような各党の動向を紹介している。
○おおさか維新の会:勝利で勢力拡大に弾み
○次世代の党など:おおさか維新との統一会派で連携する構え
共産党:他党候補を支援する先例となり、民主との連携に自信
自民党:支持層をまとめられず、立て直しが急務。一方、首相官邸は歓迎
民主党:野党候補の一本化が成り立たない可能性も

これを各紙の分析からもう少し詳しく解説すると、以下のような明確な構図が浮かび上がってくる。
○おおさか維新の会:松井知事は「来年の参院選で勝てる選挙にしたい」と全国規模で候補者を擁立する方針を表明。「橋下氏と戦略を練る」と明言し、橋下氏が関与するとの見方を示した。次世代の党などの少数政党や無所属議員とも連携を強める構えだ(日経新聞11月23日)。橋下氏は12月の市長退任後の政界引退を表明しているが、選挙結果を受け、政界に復帰するとの見方が根強い。橋下氏の突破力をバネに参院選を乗り切ろうと野党内から新党入りする議員が今後も出てきそうだが、一方で橋下氏らの政策的な立ち位置が安倍政権に近すぎることへの警戒感も広がる(毎日新聞11月25日)。
民主党:維新の党との連携を模索する民主党幹部は、「おおさか維新の勢いに弾みがつき、野党結集の動きを引っかき回されないか心配だ」と述べた。別の幹部は「自民党が負けたのは共産党と連携したからだ。民主党内で『参院選で共産と共闘するのは問題だ』との意見が強まる」と執行部をけん制した(京都新聞11月23日)。
共産党共産党はダブル選で支援した自民推薦候補が敗北したものの、今回の選挙戦を前向きに評価している。山下芳生書記局長は「立場を超えた共闘が一層発展したことは今後に生きる財産だ」と強調する(朝日新聞11月25日)。
自民党自民党幹部は「橋下氏は官邸に近い関係だ。憲法改正や安全保障、歴史認識では協力できるのではないか」と述べ、「責任野党」としておおさか維新との連携に期待を寄せる。背景には国会審議でおおさか維新が「是々非々」路線を貫けば、野党分断につながるとの思惑がある。政府関係者も「国会運営で協力が得られたらいい」と漏らす。憲法改正で言えば、衆参両院で3分の2以上の勢力を確保することが必要で、現状は与党で参院過半数にとどまっているが、参院選でおおさか維新が躍進すれば改憲も視野に入る(産経新聞11月24日)。
首相官邸首相官邸の幹部は「大阪維新の勢いは国政にも反映される」と語る。橋下氏らと連携して、政権運営に利用したい考えだ。官邸幹部は橋下氏ら「新党組」の勝利で、松野頼久氏らが率いる「残留組」の求心力が落ち、野党再編や統一会派の動きにも陰りが出ると見る(朝日新聞11月23日)。

要するに、自民党は谷垣幹事長が「本来の保守系の気持ちをまとめ上げることができなかった」(日経11月25日)とか、茂木選挙対策委員長が「一歩及ばなかったことは誠に残念だ」(同11月23日)など表向きは反省の弁を述べているものの、それは「大阪向け」(だけ)の言葉であって、本音でなかったことは明白だ。自民党本部は国政支配のマクロ視点から官邸と呼応して橋下氏らと対立する「大阪自民=地元保守」を敗北に追い込み、地域政党大阪維新を国政政党の「おおさか維新」に飛躍させる機会をダブル選で提供したのである。

このことはまた、共産党が提唱する「国民連合政府」構想を如何にして潰すかという自民党の国家戦略とも密接に関係している。9月19日の安全保障関連法成立直後に共産党が提起した「戦争法(安保法制)廃止、立憲主義を取り戻す国民連合政府」構想は大きな反響を呼び、マスメディアでも大々的に取り上げられてその後急速に影響を広げている。国民各層が主体的に立ち上がった安保法案反対の巨大なエネルギーを次の政権構想につなげていくうえで、この「国民連合政府」構想は時宣に叶ったアイデアであり、今後の野党再編をめぐる「台風の目」になることはまず間違いない。

この「台風の目」を潰すには、「共産党と連携すれば保守票が逃げる」とのキャンペーンを逸早く展開する必要がある。大阪ダブル選がその格好の実験場となり宣伝機会となった。このため、自民党本部は共産党を含む「オール大阪」で都構想住民投票を戦った竹本氏に代わって、共産党とは手を組まないことを明言する中山氏を府連会長に就け、自民支持層を分断して(自民党推薦候補の)栗原・柳本両氏を葬ったのである。首相官邸自民党本部は、「共産党と手を組めば保守票が逃げる」との実例を目の前に示すことで、参院選での野党協力を牽制し、「国民連合政府」構想を潰すことに全力を挙げたのだ。

大阪ダブル選は、「大阪府連=大阪自民」が「首相官邸=安倍自民」に屈することで橋下氏らに敗れた。大阪維新が勝ったのではなく、大阪自民が自壊(自爆)したのである。国政選挙で言えば、前原氏と細野氏が民主党代表になって自民党参院選を戦うようなものだ。だが大阪では成功しても、参院選ではこのような構図は再現しない。大阪ダブル選では橋下氏らが「大阪純化」と「新党結成」路線で「対東京」「対既成政党」の選挙構図をつくることに成功したが、参院選で「おおさか維新」はいったいどんな旗を掲げるのか。

大阪維新圧勝のニュースが紙面を覆うなかで、11月23日の朝日新聞は注目すべき解説記事を2面に掲載している。見出しは「意義問われる『第三極』」というもの。主旨は以下のようなものだ(要約)。
――橋下氏が率いる維新は本拠地で圧勝したものの、かって第三極ブームを起こした輝きは失われている。2012年の衆院選。「自民は野党で民主はボロボロ。是々非々の第三極がキャスティングボードを握れる」。旧日本維新の会を率いた橋下氏はこんな構想を打ち出し、国政初挑戦で54議席を獲得。比例票では民主党の963万票を上回る1226万票を得た。
――同じく第三極を掲げた旧みんなの党とともに、翌13年の参院選でも勢力を伸ばしたが、そこが限界だった。自公両党は参院選にも勝ち、衆参両院で過半数を確保。キャスティングボードを握ろうとした第三極の思惑は実らず、むしろ政権の法案に「是々非々」で臨む路線は迷走を始めた。結局、みんなは14年に解党し、維新は今年になって分裂。橋下氏のおおさか維新の会は参加が固まっているメンバーはわずか衆参19人。政局の主導権を握ることは難しい。

松井知事は「来年の参院選で勝てる選挙にしたい」と全国規模で候補者を擁立する方針を表明したが、朝日新聞が指摘するように、すでに「第三極」の季節は遠くに去っている。おおさか維新が「大阪都構想」を掲げてももはや国民は誰も目を向けてくれないだろうし、それどころか「大阪の副首都化」は却って他府県の反発を呼び、「大阪だけでやってくれ!」との空気が一気に広がるだけだ。この時になって、おおさか維新は大阪(及びその周辺)とそれ以外の地域での「温度差」に直面して愕然とするのではないか。「おおさか維新」は所詮「大阪維新」から脱皮できない地域政党なのであり、橋下維新は大阪で咲いた「あだ花」(実を結ばないむだばな)にすぎない。

それでも来年夏の参院選に向けて、「おおさか維新」を野党分断カードに起用する安倍戦略は変わらない。安倍政権にとっての橋下維新はその時々に必要な「消耗部品」のひとつなので、参院選改憲に必要な議席数を確保すればそのための「コマ」として使い、確保できなければ「使用済み」として捨てられるだけだ。もちろん、安倍政権よりも早く国民が橋下維新をゴミ箱に捨てるだろうが。(つづく)