「野党非共闘」の衆院京都3区補選の結果をどうみる、思わぬ副産物は「おおさか維新」の惨敗だけだった、2016年参院選(衆参ダブル選)を迎えて(その25)

 衆院北海道5区補選については、その結果についてさまざまな角度から検討が加えられている。私は現地の様子を知らないので詳しい論評は差し控えたいと思うが、それでも野党共闘が一定の成果を上げ、勝利にあと一歩のところまで迫ったことは間違いない。共同通信出口調査によれば、無党派層の大部分が野党統一候補に投票したと伝えられており、今後に大きな希望を抱かせる。問題はなぜ投票率が伸びなかったかということだが、この点については現地のより詳しい報告を待ちたい。

 これに対して京都3区補選に関しては、論評はもとより選挙結果に関する分析らしい分析もない。そもそも論評や分析に値する選挙ではなかったと言えばそれまでだが、そんな中で唯一目に留まったのが「木村幹の関西政治ウォッチ」(毎日新聞2016年4月29日)の「共闘ブーム起こせず」だった。木村氏の北海道5区・京都3区両補選に関する論点は以下の4点である。

(1)野党共闘の中核を占める民進・共産両党の支持者たちは「拒否反応」を見せず、その大半は選挙協力の対象とされる候補者に投票した。
(2)しかし京都3区の民進党候補の得票数は前回選挙における民主・共産両党候補の得票数を大幅に下回り、北海道5区でも前回合計数をわずかに下回った。両補選における選挙協力はいかなる「ブーム」も引き起こさなかった。
(3)野党の最大の問題は、選挙協力以前に自らの支持率が極めて低いことだ。民新、共産、社民3党の支持率を合計しても自民党に遠く及ばない。とりわけ民進党の低迷は深刻であり、無党派層への大きな支持拡大なしには共闘の成功は見込めない。
(4)より深刻なのはおおさか維新の状況であり、京都3区補選が示したように大阪府外への支持は拡大せず、橋下氏という大黒柱を失い、党自体への注目も減少しつつある。このままでは国政政党としての存続すら危ぶまれる事態になりかねない。
 
 これらの論点は一見妥当なようにも見えるが、実は幾つかの点で重大な事実誤認や見落としがある。最大の問題は、北海道5区が「野党共闘」で戦われたのに対して、京都3区は民進党共産党との選挙協力を明確に拒否した「野党非共闘」だったということだ。性格の異なる選挙を一つの物差しで比較することは不可能であるにもかかわらず、木村氏は両補選を同質の「野党共闘」選挙として論評している。この点を踏まえて、以下の論点に移ろう。

第1は、民進・共産両党の支持者たちは「拒否反応」を見せなかったというが、これは事実に反する。京都3区では投票率が戦後最低になり、7割もの有権者が棄権した。このことは民進支持者も含めて明確な「拒否反応」が見られたというべきであり、とりわけ共産支持者に限れば、前回衆院選共産党候補に投票した人の3分の2が投票に行かなかったのである。

第2はこのこととも関連するが、北海道5区はともかく京都3区の選挙結果を「ブーム」といったキーワードで分析することはおよそ「的外れ」だということだ。通常「ブーム」という言葉は、「人気」とか「にわか景気」のことを意味する。しかし京都3区補選の実情を少しでも知っている者なら、それがどれだけ的外れな表現であるかが直ちにわかるというものだ。3割の有権者しか投票に行かなかった選挙に対して「ブームが起こらなかった」などというのは、「零点」に近い成績の学生に対して「百点ではなかった」というのと同じことだ。

第3は、おおさか維新の会を「野党」陣営の一員(「ゆ党」とは言っているが)として扱うことは、選挙情勢を根本から見誤ることになるということだ。おおさか維新が京都3区で惨敗したのは、「野党」でも「ゆ党」でもなく、れっきとした「与党補完政党」だと見透かされたからであって、野党共闘とは何の関係もないのである。

私はこれまで何度も繰り返してきたように、京都3区における民進党の「野党非共闘」路線が全国の野党共闘に暗い影を落としていると考えている。とりわけ茶番劇だったのは、北海道5区補選の終盤戦で「野党非共闘」路線を貫く京都の前原氏が、共産党の小池氏と並んで野党統一候補の応援演説に立ったことだ。これなどはもはや茶番劇を通り越して「マヌーバー」(謀略)に近い行動ともいえるが、それを平気でやるところに前原氏の真骨頂があるのだろう。京都では「野党非共闘」、北海道では「野党共闘」の二枚舌を使う前原氏の欺瞞的な行動は、北海道5区の有権者に対する冒涜であり、京都3区の有権者には背信行為と映るだろう。

とはいえ、京都3区補選に何のメリットもなかったかというとそうでもない。思わぬ副産物として、おおさか維新の「惨敗」が劇的な効果を上げたからだ。このことの政治的意味は深く、その広がりは大きい。朝日・毎日両紙は次のように論評している。
「おおさか維新は国政選挙での初陣となった衆院京都3区補選に惨敗した。党の顔だった橋下徹・前代表は昨年末に退任。参院選の全国展開に黄信号がともる。報道各社が厳しい選挙情勢を一斉に伝えた18日。松井一郎代表(大阪府知事)は京都市伏見区での街頭演説で『松井・橋下でやってきた改革を京都でもスタートさせる』などと、橋下氏の名前を15分間に10回、引用した。橋下氏は退任後、顔写真や音声を選挙活動で使うことを一切認めておらず、代わりの『タレント』は不在のまま。松井氏らの演説の聴衆が、ほぼ報道陣だけの場所すらあった。現有議席衆院14、参院7の計21。自民、公明両党と合わせ、憲法改正の発議に必要な参院での『3分の2の勢力』を目指すため、おおさか維新としては今回の補選で勢いをつけたいところだった。同じ近畿の京都で敗れ、全国ではさらに厳しい戦いが予想される」(朝日新聞2016年4月25日)
「(4月)24日の衆院京都3区補選で、おおさか維新の会の公認候補が民進党候補に大敗したことは、『大阪』以外の都道府県へのおおさか維新の党勢拡大に厳しい現状を突き付けた。安倍晋三首相は夏の参院選で自民、公明、おおさか維新の3党を核に憲法改正発議に必要な参院の3分の2確保を目指すが、おおさか維新が伸び悩めば、首相の改憲戦略に影響する可能性もある」(毎日新聞2016年4月30日)

 安倍首相は、依然として改憲姿勢を崩していない。4月29日放送の日本テレビの番組でも「私たち(与党)だけで3分の2を取るのは不可能に近い」と述べ、改めておおさか維新に対する期待感を示した。しかし、私はおおさか維新がその「期待」に応えることは難しいだろうと思う。京都3区補選は「橋下氏のいないおおさか維新なんて・・・」のコマーシャルよろしく、大阪地域政党の限界をまざまざと示したのである。(つづく)

●5月の連休中は拙ブログを休載します。この間は中国東北部(旧満州ハルビン市に出かけ、ハルビン市社会科学院や731部隊陳列館関係者と交流するためです。これは拙ブログ「中国東北部ハルビン731部隊訪問記」(2011年9月22日〜10月18日)でも書いたことですが、ハルビン市郊外の平房地区に日本軍細菌戦部隊が巨大な実験基地を建設し、膨大な数の中国人を人体実験にかけて細菌戦の準備をした戦争遺跡があります。私は医学関係者ではないのですが、ハルビン市生まれということもあり、5年前の調査団の一員として現地を訪問し、その後の研究成果を昨年出版された『NO MORE 731日本軍細菌戦部隊』(文理閣、2015年)の中に発表しました。タイトルは「731部隊を建設した日本の建設業者」というもので、これまで空白領域になっていた建設分野に焦点を当てたものです。
 この論文がハルビン市の「731問題国際研究センター」の目に留まり、他の5編の日本人研究者の論文とともに中国語に翻訳され、『731問題国際研究センター文集』(上・下巻、中国和平出版社、2016年)に収録されました。文集はA4版1200頁の分厚いもので、日本の国会図書館にもすでに収蔵されています。今回の交流はその出版記念を兼ねたものと言え、中国側からどのような意見が出るか楽しみにしています。いずれ「731部隊訪問記、PART Ⅱ」として拙ブログで紹介するつもりです。