「大阪都構想」住民投票を謀略的に復活させた瞬間から、橋下維新は首相官邸の走狗になった、維新の党の分裂も大阪ダブル選も首相官邸のシナリオによって進められた、橋下引退後の「おおさか維新」はどうなる(その3)

「政治は一寸先が闇」とよく言われるが、これは政治情勢の変化が激しいということばかりでなく、政治的謀略で「明日は何が起こるかわからない」ことを意味するようだ。この言葉を絵に描いたような事態が、首相官邸創価学会本部⇒公明党大阪府本部のルートで起った。大阪府本部の幹部が語るところによると、2014年12月24日、府本部幹部が突如創価学会本部に呼び出され、維新との妥協を指示されたのだという。その背景には橋下氏らの要請で菅官房長官創価学会幹部に橋下維新との協調を働きかけ、それを受けた学会幹部が動いたことがあるらしい(読売新聞2014年12月27日)。

創価学会本部の指示を受けた大阪府本部は、翌25日に橋下氏と会談して即その意向を伝え、26日には突如として「大阪府市ともに維新が第1党だという事実は重い」「行政の停滞を解消しないと有権者の背反を浴びかねない」といった訳のわからない理由を持ち出して都構想に対する態度を豹変させた。僅か2か月前に自らも加わって否決したばかりの都構想協定議案書を今度は手の平を返して「丸のみ」で賛成し、住民投票を実施するというのである。維新と公明を合わせれば府市両議会で多数派になる。2015年3月にはその通り都構想の制度案が可決された。

この事態は、首相官邸が橋下維新の救済のため宗教政党公明党)を利用し、しかも地方自治の原則を踏みにじって権力行使したことを意味する。二重三重の憲法違反だと言わなければならない。周知の如く日本国憲法第20条1項には、「信教の自由は、何人に対してもこれを保障する。いかなる宗教団体も、国から特権を受け、又は政治上の権力を行使してはならない」という政教分離の条項がある。今回、大阪の公明党がとった「党本部の意向を踏まえる」ということはすなわち「創価学会本部のお達しに従う」ことと同義であり、「党本部=創価学会本部」は明らかに憲法違反の「政治上の権力」を行使したことになる。

また、憲法第8章第92条において「地方公共団体の組織及び運営に関する事項は、地方自治の本旨に基いて、法律でこれを定める」と地方自治の基本原則を規定している。一般的な憲法学説では、「地方自治の本旨」は「地方自治の本来のあり方」を意味し、地方自治は「団体自治」と「住民自治」の2つの要素から構成されるとされ、「団体自治」とは国から独立した地方自治体を認め、その自治体の権限と責任において地域の行政を処理するという原則のことであり、「住民自治」とは地方における行政を行う場合にその自治体の住民の意思と責任に基づいて行政を行う原則のことである。

ところが、国から独立した地方自治体である大阪府大阪市の「団体自治」に「国=首相官邸」が介入し、しかも創価学会という宗教団体を通して大阪都構想住民投票に賛成することを強要したのだから、これは間違いなく憲法のいう「地方自治の本旨」を踏みにじったファッショ的行為に他ならない。また「住民自治」にもとづく地方行政を実施するため、大阪都構想の是非を問う住民投票を実施するのではなく、大阪維新の会が法定協議会において一方的に決定した協定書(制度案)を住民投票にかけるというのだから、これはかってナチス専制政治を正当化するために利用した国民投票となんら性格が変わることはない。

橋下氏らがいう「統治機構改革」とはまさにこのような事態を日常化することであり、そのために憲法改正が必要だというわけだ。明文改憲を標榜する自公維3党は、すでにその途上において憲法を踏みにじる過程を歩んでいる。「目的のためには手段を選ばない」という改憲勢力の体質と行動様式が、都構想住民投票の復活というクーデターまがいの謀略につながり、それを仕組んだ首相官邸と橋下維新は固い絆で結ばれることになった。正確に言えば、橋下維新は首相官邸の名実ともに「走狗」になったのである。

 こうして2015年5月17日に都構想住民投票が実施されることになったのであるが、首相官邸の矛先は今度は都構想に反対する自民党大阪府連に向けられた。

菅義偉官房長官は(5月)11日の記者会見で、橋下徹大阪市長が進める大阪都構想をめぐり、反対の立場から共産党との共闘を打ち出した自民党大阪府連に対し、「個人的には全く理解できない」と厳しく批判した。政権のスポークスマンである官房長官が、党の地方組織の方針を正面から批判するのは異例だ。菅氏は橋下市長や松井一郎大阪府知事と親交がある。大阪都構想にも理解があるとされ、維新に配慮を示した。菅氏は記者会見で「私は総務副大臣の時から大阪問題を党内で取り上げてきた」とも発言。自身の地元である横浜市について、大阪市よりも人口が多くて面積が広いにもかかわらず、市職員が少ないと指摘して、都構想実現による行政の効率化に期待感をにじませた(朝日新聞2015年5月11日)。

―中立を保ってきた菅氏が、民主、共産両党と都構想反対で合同街頭演説を行った自民党大阪府連を「全く理解できない」と批判したことも、維新は追い風と受け止める。松野頼久幹事長は(5月)12日の記者会見で「全く同感だ」と菅氏に賛同してみせた。大阪維新幹事長の松井一郎大阪府知事は11日、記者団に涙をにじませながら「ありがたい」と語った(産経新聞2015年5月13日)。(つづく)