無作為不特定調査(RDD方式)と特定反復追跡調査(パネル方式)の得失、朝日新聞世論調査結果(「安倍内閣の通信簿」2013年8月25日)から見えるもの(その2)、改憲勢力に如何に立ち向かうか(29)

 いま、マスメディアの世論調査で最も数多く用いられている調査方法は、「RDD方式」(ランダム・ディジット・ダイアリング)といわれる電話調査だ。コンピューターで無作為に作成した番号の中から実際に使用されている固定電話番号を抽出し(経験的には約4割)、次に調査員が電話をかけて有権者世帯であることを確認し(事業所などを除くとこれも約4割)、その中から世帯内の有権者1人抽出し、本人に直接質問して(留守であれば2〜3日をかけて何回でもかけ直す)回答を得るというものだ。

 各社によってサンプル数は異なるが、たとえば最初の作成電話番号を1万件だとすると、実際に使用されている電話番号は約4割の4千件、うち有権者世帯の番号はさらにその4割の1600件となり、その中から何人回答してくれるかで有効回答率が決まることになる。900人の回答だと56.3%、1000人だと62.5%というわけだ。回答率はその時々によってまちまちだが、概ね50%台から60%半ばの間に分布するのが通例となっている。

 RDD方式の世論調査の特徴を一口でいえば、“瞬間風向風速調査”とでもいえるものだ。その時どきの社会的、政治的関心のあるテーマについて短時間の電話調査で回答を求められるので、回答者が十分に考える余裕はない。調査する側のオペレーターの力量にもよるが、多くの場合はとっさの回答を迫られるので、思いつきで答えることもあれば、面倒くさいので適当に答えておくケースも見られる。これが“瞬間”の意味である。

 次に“風向“は、質問に対する賛否の態度をあらわす。たとえば「あなたは憲法96条の改定に賛成ですか、それとも反対ですか」と言う質問に対しては、「賛成」と「反対」は風向きが逆であり、「わからない・答えない」は風向きが不明だということになる。また“風速”は、賛否の態度の強さをあらわす。「大いに賛成・反対」は明確な態度を示す強い風速、「どちらかといえば賛成・反対」は曖昧な態度を示す弱い風速といったところであろうか。

 だが不特定多数を対象とする“瞬間風向風速調査”とはいえ、これが定期的に行われ、しかも質問項目が同一である場合には時系列的な比較が可能となり、世論の動向が把握できるようになる。内閣支持率政党支持率などをはじめ、憲法改定、消費税増税原発政策などの国政の重要課題に関しては、その数字を時系列的に追うことによって大体の世論の流れがわかるのである。

 もっとも同一質問でありながら、各社によって調査結果が大きく食い違うことがある。同じ不特定多数の国民を対象にしているのであるから、10%も20%も結果が異なるのはおかしいのであるが、そこはちょっとした質問の仕方の違いであるとか、用意された回答選択肢によって回答が大きく左右されることはままあることだ。

 だがそれ以上に大きな影響力を与えるのは、回答率の差だと私は考えている。端的に言えば、回答率が低くなるとそのなかで明確な態度を持った有権者の占める比率が高くなり、母集団全体の傾向から離れてある特定の方向に意見が傾斜することになるのである。

 加えて、調査主体のマスメディアに対する「好き嫌い」の問題もある。私の友人のなかには、ある新聞社の名前を聞いただけで回答を拒否するといった極端な態度の持ち主もいる。となると各社の調査結果は、調査主体に対して好意を持っている回答者、あるいは少なくとも敵意を持っていない回答者の態度をより大きく反映することになり、そこで同一質問に対する世論調査でも朝日・毎日と読売・産経では結果が大きく異なるようなことが起こるのである。

 これに対して特定反復追跡調査(パネル方式)は、同一回答者に対して繰り返し(同じあるいは違う)質問をする反復型の世論調査である。「安倍内閣の通信簿」と題する今回の朝日新聞世論調査(2013年8月25日)は、昨年の衆院選時に無作為で選んだ3千人の対象者に調査票を郵送し、回答のあった1890人(63%)に今年7月の参院選後に再び調査票を郵送して、1540人(81%)の回答を得たパネル方式の世論調査である。

 RDD方式とパネル方式の違うところは、前者が“瞬間風向風速調査”であるのに対して、後者は“定点風向風速調査”ともいうべき世論調査であることである。パネル方式の世論調査は、同一対象者(特定集団)の回答の変化や推移を見るものであるから、回答は調査票への記入が基本になる(電話での即答はなじまない)。一定の時間をかけて考えたうえで、回答者に「熟考」を求めていると言える。これは(確かな)世論の変化を追跡するための有効な調査方法である。

 今回の朝日調査の大きな特徴は、調査票による世論調査であること、第1回(63%)、第2回(81%)ともに回答率が非常に高いこと、衆院選時と参院選後という政治的画期を捉えたものであることなどの点で、数多くの世論調査のなかでもひときわ資料価値が高い。いわば、安倍内閣の風評人気と主要政策との“ギャップ”を把握しようとした世論調査だとも言える。とりわけ、憲法改正集団的自衛権原発再稼働に関する国民世論が、衆院選時から参院選後にかけて大きく変化している様子が捉えられていて興味深い。(つづく)