世論調査では回答が相対的に安定している質問と不安定な質問があるのだろう、夏の参院選で改憲議席が3分の2以上を占めることの是非は、まだ世論が定まっていない不安定な質問なのだ、2016年参院選(衆参ダブル選)を迎えて(その3)

 前回の拙ブログ以降、日本世論調査会の年末調査でなぜ「参院改憲議席3分の2以上」を是とする回答が多かったかをずっと考え続けてきた。納得できる結論を得ないまま呻吟していたところ、1月19日になって朝日新聞世論調査(1月16、17両日実施)が出た。この中に「この夏の参議院選挙の結果、安倍政権のもとで憲法を変えることをめざす政党の議席が、参院全体で3分の2以上を占めたほうがよいと思いますか。占めないほうがよいと思いますか」と言う質問があり、回答は「占めた方がよい」33%、「占めないほうがよい」46%で、改憲議席が3分の2以上を占めることに対して否定的な結果が出た。

 世論調査では、同じ趣旨の質問でも調査機関によって回答にバラツキが出ることはよく知られているし、調査時期が異なれば変化が起こることも知られている。特に回答に影響を与えるようなトッピクスや事件が起こると、同じ質問でもその前後で回答が大きく異なる結果が出ることもある。それでは、日本世論調査会と朝日新聞の調査結果がまるで正反対になったことをどう考えればよいのか。

 まず、2つの世論調査の調査時期が1カ月半も離れていることが挙げられる。しかし通常の感覚から言って、「参院改憲議席3分の2以上」の是非という立法府の根幹にかかわる国民の判断がこの程度の時間のズレで変わるはずもないし、またこの間は引き金になるような大事件もなかった。昨年12月と言えば、憲法の規定に基づき野党が一致して臨時国会の開催要求を突き付けたにもかかわらず、安倍内閣が不当にもこれを拒否して国会が空っぽになっていた時期である。改憲問題が国会で連日取り上げられている時期であればまだしも、安倍政権がひたすら世論の鎮静化を図っていた時期にこんなことが起こるはずがない。

 とすれば、同じ趣旨の質問でも聞き方によって回答が異なるかどうかを検証しなければならない。以下は、2つの質問と回答結果である。

【日本世論調査会】
(質問)「現在、衆院では憲法改正を掲げる議員が3分の2以上を占めています。実際に憲法改正を発議するには衆院参院それぞれで3分の2の賛成が必要です。あなたは参院参院選の結果を受けてどうなるのがよいと思いますか」
(回答)「憲法改正に賛成する議員が3分の2以上を占めた方がよい」57%、「3分の2以上に達しない方がよい」33%、「分からない・無回答」11%

朝日新聞
 (質問)「この夏の参議院選挙の結果、安倍政権のもとで憲法を変えることをめざす政党の議席が、参院全体で3分の2以上を占めたほうがよいと思いますか。占めないほうがよいと思いますか」
(回答)「占めた方がよい」33%、「占めないほうがよい」46%

両者を詳細に比べてみると、以下の点が注目される。
(1)調査会の質問は、「現在、衆院では憲法改正を掲げる議員が3分の2以上を占めています」という前置きがあるが、朝日にはそれがない。
(2)調査会の質問は、党派に関係なく「憲法改正に賛成する議員」という表現になっているが、朝日は「安倍政権のもとで憲法を変えることをめざす政党」という具体的な内容になっている。

 この質問の仕方の違いが回答に影響を与えたとすれば、以下のような解釈ができる。
(1)調査会の前置きは、「衆院ではすでに改憲派が3分の2以上を占めているのだから、参院でもそうなるのが当然」との印象を与えた。
(2)調査会の党派性を消した一般的な質問と比較して、朝日は「安倍政権のもとでの改憲派」という具体的イメージを表象することでリアル感を与えた。

 とはいえ、両者の結果はこのような調査手法の違いを遥かに超えるほどの差がある。端的に言えば「白と黒」と言えるほどの違いだ。これをどう考えるのか。私のたどり着いた結論は、世論調査では回答が相対的に安定している質問と不安定な質問があるということだ。たとえば、「集団的自衛権行使」「消費税増税」「原発再稼働」「憲法9条改正」といった質問に関しては、調査機関の性格を超えて安定した結果が出る。たとえ読売・産経といえども、これらの質問に対しては「ノー」「反対」の声が多数になるのである。

 ところが、今回初めて登場した「参院改憲議席3分の2以上」の是非を問う質問は、まだその域に達していないと考えられるのではないか。つまり、国民の世論が熟していない段階でのこの種の質問に対しては「世論が揺れる」のである。今後、多くのマスメディアから関連する世論調査が行われるであろうが、それらは参院選が近づくにつれて次第に収斂していくものと思われる。もしそれが「改憲議席3分の2以上」の方向へ傾くようなことであれば大変だが、私はその正反対の方向に世論が固まると確信している。(つづく)

【追記】
 昨夜から今朝にかけての各紙電子版は、日経平均株価が今年最大の下げ幅632円を記録し、1万6千円台半ばに落ち込んだことを伝えた。また、安倍内閣の主要閣僚でありアベノミクス推進の中心である甘利経済再生相が建設業者への口利きで現金供与を受けたとの記事が、本日発売の『週刊文春』で掲載されるという。拙ブログでも注目していきたい。