2016年京都市長選の結果を、産経新聞は「『憲法市長』響かず、共産系候補惨敗」と報じた、なぜ共産系候補はダブルスコアで破れたのか、2016年参院選(衆参ダブル選)を迎えて(その8)

 2016年2月7日投開票の京都市長選は、現職の非共産系統一候補、門川大作氏(65歳、自民・民主・公明・社民府連推薦)が25.5万票(得票率64%)、本田久美子氏(66歳、共産推薦)が12.9万票(同32%)で、門川氏が本田氏をダブルスコアで破り圧勝した。投票率は35.7%で前回36.8%とほとんど変わらなかった。

 前回2012年の京都市長選も同じような「非共産 vs 共産」の対立構図だった。現職2期目の門川氏は22.2万票、対立候補の中村氏は19万票でその差は3.2万票だった。前回と今回の得票数を比較すると、門川氏は3.3万票上積みをして票を伸ばしたが、本田氏は6.1万票減らしてその差は12.5万票と大きく開いた。

 今回の市長選の分析に入る前に、前回および前々回の市長選で中村氏が門川氏と大接戦を演じた背景を考えておく必要がある。門川氏が桝本元市長の後継新人候補として初めて臨んだ2008年市長選(投票率37.8%)は、門川氏は自民・公明・民主の推薦を受けたものの4人の候補者の争いとなり、村山氏(京都党)が「第3極候補」として8.5万票(得票率20%)を獲得した。その結果、門川氏と中村氏の得票は僅か951票まで接近し、門川氏15万8472票(同37.3%)、中村氏15万7521票(同37.0%)という得票率1%未満の誤差範囲の僅差となった。

 このことに危機感を抱いた門川陣営は、2012年市長選(投票率36.8%)では自民、民主、公明、みんな4党の推薦を取り付け、第3極候補を降ろして「非共産 vs 共産」の一騎打ち対決に持ち込んだ。共産勢力が強い京都では、自民は「非共産相乗り候補」を擁立しなければ市長選に勝てないことを十分学んでおり、その経験を生かして万全の態勢で臨んだのである。それでも3万票余りの差しかつけられなかったのは、2008年市長選の中村氏の惜敗に奮起した共産陣営が頑張り、若者や無党派層の支持が中村氏に集まったからだ。選挙中からも「自分たちは勝つつもりで本気で頑張っている」との声をよく聞いた。

これに比べて、今回の市長選はどうだったのか。選挙構図は前回と同じ「非共産 vs 共産」の対決構図だったが、本田陣営の獲得目標が市長選に勝って革新市長を実現することよりも、得票数を増やして夏の参院選に勝利することに置かれていたような気がする。いわば、夏の参院選の「前哨戦」としての市長選の位置づけである。その意図は「憲法市長」というキャッチコピー、「子どもを戦場に送らない」「戦争法を廃止しよう」などといった国政選挙を意識した基本政策にもよくあらわれている。

本田陣営の政策は間違っていないし、安保法制に反対した民主党支持層や無党派層をターゲットにした選挙方針も的を外れていない。にもかかわらず、なぜ6万票もの票が本田陣営から消えたのか、この事実を冷静に分析しないと今回の市長選の教訓は生かせないし、またもや同じような「健闘」を繰り返すことになる。選挙後の共産党幹部が言うように、「重大な国政問題に対し敢然と立ち向かったことは重要だった」「市民の共同の輪が広がった」といった精神主義的な発言だけでは、敗因の解明につながらない。

私は、本田陣営が夏の参院選の「前哨戦」としての市長選を位置づけたことが今回選挙の大きな敗因ではないかと思っている。共産党幹部は「準備が足りず、共産党としての力が足りなかった」と語っているが、そんなことはない。本田氏の擁立が発表されたのは昨年9月のことであり、安保関連法案の参院強行採決の可決成立のタイミングにあわせて「安保反対」を掲げる候補者として本田氏が擁立されたのである。

当時は安倍政権への批判が集中し、内閣支持率が30%台にまで低下するなど、国民の批判が大いに高まっていた時期だ。また、共産党が安保法制廃止の1点で共同する「国民連合政府」構想を提案したことも大きな話題を呼んでいた。この勢いを京都市長選につなげ、延いては夏の参院選の勝利に結びつけるとして本田氏の擁立が決まったとしても何の不思議もない。政党としては当然の判断だろう。

だが問題は、その後の国民世論の変化だった。安倍政権が憲法違反をしてまで臨時国会の開会を封印し、消費税軽減税率の導入などのパフォーマンスを繰り返す中で世論が次第に沈静化し、内閣支持率が上昇傾向に転じたのである。憲法学者法曹界を軸に若者たちや学生たちが立ち上がった安保法制反対運動の熱気は冷めていないが、国民全体からすれば国会中継もなくマスメディアの報道もなければ記憶が薄れていくのも止むを得ない。この状況変化を本田陣営は果たして把握していたのだろうか。

毎日新聞出口調査によれば、投票所に足を運んだ有権者が投票する際に重視した政策は、「暮らし・経済」42%、「まちづくり」22%、「憲法・安全保障」12%、「教育」8%などで、本田陣営が選挙争点に設定した「憲法・安保」のウエイトはそれほど高くない。本田氏に投票した人の中でも4人に1人しか「最も重視した政策」と答えず、一方、門川氏に投票した人の約半分は「暮らし・経済」を重視していた(毎日新聞、2月9日)。

本田氏自身も「国政問題と地方の問題の違いは分かっているが、国政の問題を横に置いて戦うことはできなかった」(朝日新聞、2月9日)と語っているように情勢の変化に気づいていたと思われるが、選挙戦術を状況の変化に応じて柔軟な転換できなかったことが命取りになった。(つづく)