選挙で本気で勝(かち)にいかない政党は有権者に信用されない、京都市長選を参院選の前哨戦(党派選挙)にしたのが本田陣営の最大の失敗だった、2016年参院選(衆参ダブル選)を迎えて(その9)

今回の京都市長選を論じるにあたって、なぜ私が前回および前々回の市長選の話をするかというと、政策以前の問題として、市長選に臨む政党の姿勢(本気で勝つつもりがあるのか、それとも市長選を党派選挙に利用しているだけなのか)が有権者に鋭く問われていると思うからだ。

首長選挙は議員選挙と性格がまったく異なる。議員選挙は純然たる党派選挙であり、各党は党是を掲げて戦う。共産党が昨年4月の統一地方選で好成績を収めたのは、掲げた政策や候補者の姿勢が有権者の共感を呼び、好感がもたれたからだ。国政の変革と京都府政、京都市政の変革を結び付け、筋を通して有権者に訴える姿勢が評価されたのである。選挙結果も投票数が各会派の議席数に反映されるのでわかりやすく、有権者も自分の1票が誰の議席につながっているかがよく目に見えるので選挙運動にも熱が入る。

だが、京都市長選は違う。1人の首長を選ぶ選挙なのだ。各政党が単独で勝利できない以上、(政党の推薦候補が首長選挙にそのまま当選するほどの力を持っているときは話は別だが)、他党派と連携しない限り首長選挙には勝てない。京都では自民と共産の勢力が相対的に大きい。共産党のスローガンである「自共対決」が(量的に)リアリティを持つのは、全国広しといえども京都ぐらいのものだろう。それでも自民、共産は単独で知事選・市長選に勝てるほどの力を持っていないのである。

となると、市長選に勝つためにはどうしても他党派と組まなければならない。この点、自民は徹底している。「勝つためには手段を選ばない」というが、長年の政権政党の経験からあらゆる権謀術数(権力と利益の配分)を駆使して他会派を丸め込み、「統一候補」を立てて必ず首長選挙に勝利するのである。彼らは政権を握っているだけに「勝利の方程式」を熟知しており、作戦の立て方もうまいし、工作技術にも長けている。

共産党も革新自治体時代には、社会党や革新無所属との統一候補を立てて戦った経験がある。革新知事や革新市長が生まれたのもこの時期だ。京都では蜷川知事の下でその経験を一番積んだのが共産党だった。日本で首長選挙の最も豊富な経験を持つのが京都の共産党だと言ってもいいぐらいなのである。それが革新自治体時代が遠く去り、共産党が各党から包囲される「オール与党体制」が長らく続いた結果、知事や市長を「本気で取りに行く」気風が薄れた。首長選挙を政党選挙の場として利用する「党派選挙」に化したのもこの頃からのことである。

加えて今回の京都市長選は、共産党参院選での野党選挙協力を呼びかけるなかでの選挙だった。安保法案に国会で反対した政党は、京都では民主党以外に見るべき存在がない。となると、市長選と参院選をつなぐのは共産と民主の協力関係を如何に築くかということになるが、前原氏のいる京都ではそれは不可能なことだと初めからわかっていた。だから共産党市長選挙の勝敗を度外視し、「安保法制反対」を掲げて市長単独候補の擁立に踏み切り、民主支持層も含めての「反安保票」の獲得を目指したのだろう。

だがこの姿勢は、京都市民から「真面目に」市長選に取り組んでいない、参院選のための「党派選挙」であり「事前運動」だとみられた。事実、私の周辺でも選挙期間中にそんな声を数多く聞いた。京都市民の政治を見る目は鋭い。大阪では市役所への「反発と無関心」という裏返し感情が強いが(橋下ブームの政治社会的基盤)、京都では「付かず離れず」といった権力への冷めた態度が支配的だ。京都市民は京都市政に対しても「白か黒か」の二者択一的な態度をとらず、「いいものはいい」「悪いものは悪い」という事柄の是非を判断してから対応する。こんな京都人の価値観や気風に配慮しないで国政選挙ばりの「反安保」選挙を展開すれば、そこに「ズレ」が生じるのは当然だろう。山田京都府知事が「(共産推薦候補が)争点をかみ合わせよとしなかったことに有権者が失望したのではないか」と指摘していたが、この指摘は的を射ている。間違いなく京都市民(有権者)は共産党に「失望」したのである。

このことは、毎日新聞出口調査でも明らかだ。本来ならば、本田陣営が獲得しなければならない無党派層の6割が門川氏に投票しているし(前回市長選では中村氏が無党派層の6割を獲得した)、狙った民主党支持層も2割強しか獲得できなかった。「非共産 vs 共産」となった過去の市長選の中で共産支持票が最低になり、これまでの「上げ潮」に水を差されることになったのも「むべなるかな」というべきだ。

尤も今回の京都市長選は、自民や民主が国政選挙などで躍進する共産党を封じ込める戦略の下に行われたことも忘れるわけにはいかない。自民・民主と共産は参院選の2議席を巡って近く激突する以上、自民・民主は与野党相乗りで現職を支援する「非共産勢力」として結束することの方が参院選では得策との党利党略がある。加えて「共産包囲網」が勝利すれば、目下模索されている野党間選挙協力に楔(くさび)を打ち込み、とりわけ共産・民主との共闘を不発に終わらせることができるという副次効果もある。一地方の首長選挙でありながら、京都市長選に自民党の大物が非共産候補の応援に駆け付けるのはこのためだ。

とにかく京都市長選は難しい。京都を第一に思う京都市民の感情を大切にしながら、そのくせ一地方選挙にとどまらない全国的影響力のある首長選挙を戦うのである。これからも京都の革新勢力は、「全国の先行実験場」としてこの難しい市長選挙をクリアーする英知と実力を示してほしい。(つづく)