舛添辞職問題が自民党のイメージを低下させている、安倍政権は舛添問題の影響で苦戦を強いられるだろう、2016年参院選を迎えて(その34)

 いよいよ2016年の参院選が始まった。同じ国政選挙でも「総選挙」という名の衆院選に比べてなんとなく影の薄い参院選だが、今度ばかりは違う。安倍首相がやりたがっていた衆参ダブル選ができなくなり、参院選がダブル選に代わる事実上の「総選挙」としての意味を持ったからだ。この選挙の結果次第では、安倍政権に大きな亀裂が走るかもしれない。自公政権の「終わりの始まり」が見られるかもしれないのである。

 第2次安倍内閣が発足してからの過去2回の総選挙にくらべて、今度の参院選の空気は明らかに変化している。内閣支持率は相対的に高止まりしているが、それでも一時のような勢いは見られなくなった。安倍首相は、伊勢志摩サミットやオバマ大統領の広島訪問の余韻が冷めない間に選挙戦を展開することを考えていたのだが、その余韻に浸る間もなく、突如浮上した「舛添旋風」によってその思惑を一挙に吹き飛ばされてしまったのだ。

 舛添旋風は、テレビ番組の視聴率稼ぎだとか、権力者を引きずり下ろすことに快感を覚える衆愚感情を煽っただけだとか、その後コメンテイターの間でまことしやかな解説が続いているが、それは「ゲスの勘繰り」というものだろう。都民や国民が心の底から怒ったのは、舛添氏の体質や言動に自民党政治の腐敗と堕落が凝縮されていたからだ。視聴者は日々のテレビ番組を通してその赤裸々な姿を目の当たりにし、こんな連中に一票を投じたことを心から反省していたからこそ物凄く怒ったのである。

 この都民感情、国民感情の変化を敏感にとらえたのが公明党だった(都議会の自民党ボスどもは全く理解できなかった)。裏では自民党と一蓮托生の利害関係でつながりながら、国民の批判が舛添氏を通して自公政治に向かうようになると、トカゲの尻尾切よろしく舛添氏に辞職を迫った。公明党自民党と「同じ穴の狢」でないことをテレビの前で演出し、舛添氏が辞職を表明して目先の危機が去るや否や、残された集中審議も百条委員会もすべてご破算にして幕引きを図った。実に陰険であくどいやり方ではないか。

 安倍首相も公明党と同じく舛添氏の言動に危機感を抱いていた。山口公明党代表とともに舛添氏の選挙応援に駆けつけて熱弁をふるう安倍首相の姿がテレビで再現されるたびに、その鉾先がやがて自分に向かってくることが分からないはずがなかったからだ。当時、舛添氏と都議会自民党ボスたちの間では、リオ五輪を花道に舛添氏が9月議会で辞職する案が固まっていた。それまで辞職を引き延ばして批判のほとぼりを冷ましたい舛添氏と、4年後の都知事選を東京五輪閉会後にするため9月まで舛添氏の続投を認めようとした都議会自民党の思惑が一致していたからだ。

 だが、目の前に参院選が控える安倍首相にはそんな余裕がなかった。6月16日の日経新聞(電子版)が「舛添氏説得 首相が引導 直接電話、語気強め」と報じたように、自民党都連が会合を開いた6月15日朝、首相は舛添氏に直接電話をして自ら辞職するよう伝えた。なおしぶる舛添氏に「いま退けばまだ再起の芽はあるかもしれないから」と語気を強めたという。

 6月18、19日に実施された毎日新聞世論調査では、「東京都の舛添要一知事が、政治資金の使い方が問題になり辞職することになりました。あなたは選挙で舛添知事を支援した自民党公明党にも責任があると思いますか、それともあくまでも舛添知事本人の問題だと思いますか」という質問がある。回答は「自民党公明党にも責任がある」29%、「あくまでも舛添知事本人の問題だ」61%で、舛添氏の個人的問題だとする回答が多かった。毎日新聞(2016年6月20日)は、この結果について次のように解説している。

 ―今回の世論調査では、政治資金の使い方を公私混同だと批判され、21日付で辞職する東京都の舛添要一知事についても聞いた。2014年の都知事選で舛添氏を支援した自民、公明両党にも「責任がある」との答えは29%で、「あくまでも舛添知事本人の問題だ」が61%に上った。結果は、各党の後任候補選びにも影響しそうだ。自民、公明支持層では「本人の問題だ」がいずれも8割に達した。これに対し、民新支持層の6割、共産支持層の7割は自公両党にも責任があるとみている。東京都内では「本人の問題」が54%、「自公両党にも責任」が34%で、与党への批判がやや高い結果となった―

 この結果を見てどう思うかは人それぞれの自由だが、私は参院選全体への有形無形の影響は避けられないと思う。選挙戦で重要なのは、争点となる政策であることは言うまでもないが、それ以上に重要なのは選挙戦を戦う政党イメージだといわれる。世論調査では、しばしば政党の好き嫌いを問う「政党好感度」に関する質問が行われるが、今回の舛添問題をめぐる自民党の対処はまことに見苦しかった。「自民党イヤーね」といった空気が都内一円はもとより日本全国に広がっていて、この雰囲気が参院選の一票を投じる際の気分を左右する可能性は十分ある。今後の世論調査の推移が楽しみだ。(つづく)