序盤戦の「改憲勢力3分の2うかがう」が終盤戦になって「改憲勢力3分の2強まる」へ移行している、安倍政権の虚構がまかり通るこの国はいったい何処へ向かうのか、2016年参院選を迎えて(その37)

 今年初めから参院選について延々と書き続けてきた拙ブログが、まさかこんな形で終わろうとは夢にも思わなかった(まだ、結論は出ていないが)。安保法制反対の国民世論が空前のレベルで盛り上がり、憲法改正反対の世論が広く国民に浸透していると信じてきた私は、それが今や「昨日の蜃気楼」のように思えて仕方ないのである。安倍首相が選挙争点隠しで「改憲」を語らなくなると、国民は「もう改憲はなくなった」とでも思うのだろうか。安倍首相がアベノミクスの「エンジン全開」を叫べば、国民は「これから景気が良くなる」と信じるのだろうか。これでは余りにも悲しすぎる。私はこの国の人たちが「もう少し賢明だ」と思ってきたからだ。

 でも各紙の世論調査を見る限り、終盤戦になってもいっこうに参院選の情勢が動く気配がない。むしろ序盤戦の「改憲勢力3分の2うかがう」が「改憲勢力3分の2強まる」に変化してきている。私の周りでも人々が安倍政権に対して本気で怒っている気配が感じられない。通常、選挙戦も終盤に入ると世論が過熱し、人々の表情にも変化があらわれるのだが、今回はそんな空気がまったく感じられないのである。

 この状況をどうみるかは人それぞれだが、私は一言でいって「国民意識が劣化してきている」ように思えてならない。要するに物事を深く考えることなく、ただその日その日を(楽しく)生きているような人たちが多くなってきているように感じられるのだ。これは「二ワトリと卵」の関係で、どちらが原因でどちらが結果だとは単純に云えないが、その象徴的存在がテレビ番組の(究極の)劣化だろう。先日もある医院の待合室に長時間いる破目になり、仕方なく昼間のトーク番組を見ていたら、都知事選候補者の品定めと覚せい剤使用で逮捕された芸人の家庭事情をめぐって2時間余りもダラダラと番組をやっていた。

 私が関心を抱いたのは、番組の内容よりもテレビをみている待合室の雰囲気の方だった。なぜかと言うと、ほとんどの人がテレビの画面にクギづけになっていて、その関心は並大抵のものではなかったのである。おそらく高視聴率を稼ぐ番組は、この種の話題を取り上げなければ維持できないのだろう。そこに出てくるコメンテーターもその場で番組を面白くするメンバーが選ばれているのか、ドギツイ言葉を得意技にする人たちばかりだった。新聞では片隅の「ゴシップ記事」が、テレビ画面では1面トップで報道されているのである。

 おそらくこんな雰囲気が日本中に蔓延しているのだろう。安倍首相がいうことを疑うことなく受け入れ、それ以上難しいことは「政治家に任しておけばいい」と考えるような安易な空気がこの国には充満しているのである。これでは投票率が下がり、政治に対する無関心が広がっていくはずだ。アメリカのトランプ現象とは逆の無関心状況がなぜこの国で起こるのか。なぜ、日本国民は政治に対して怒らないのか。私は、その背景に日本における中間層(ミドルクラス)の「知的荒廃」があると考えている。

 通常、社会格差と云われる現象は経済格差を意味する場合が多く、中高所得層と低所得層の格差が拡大していく現象を指している。社会格差にともなうマイナス現象は、低所得による生活荒廃や健康破壊、社会不安の増大や犯罪の増加など枚挙のいとまもない。これまで日本は、欧米諸国にくらべて相対的に社会格差が少ないと言われてきたが、その反面、中間層における「知的荒廃」についてはほとんど注目されてこなかった。相対的に裕福だとされるミドルクラスにおいては、本来ならば高学歴化に基づく「知的社会」が形成されていいのに、私的生活の楽しさを追い求めるだけの人たちが増え続けてきたからである。

 こんなことは、教育者の端くれである私自身にも撥ね返ってくる「ブーメラン」であることを充分に承知して言うのだが、この国にはやはり言論空間を尊重する社会価値や知的社会の形成に必要な政治社会的教養が著しく不足していることに気づく。本来ならばそのための人的資源を供給しなければならない中間層が知的荒廃にまみれ、ミドルクラスのなかで分裂が起こっているのである。中間層が、安保法制や改憲に敏感でディべートや街頭行動にも積極的な関心を示す人たちと、そんなことには関わり合いたくない、知りたくないと考える人たちに分裂しているのである。

 社会格差に伴う階級・階層分裂は見えやすいが、中間層の知的荒廃にともなう階層分裂は見えにくい。しかもこの国の不幸は、政治社会の関心層は圧倒的に少数派であり、無関心層が多数派を占めていることだ。それが今回の参院選で「改憲勢力3分の2強まる」の世論にあらわれているのだと思う。すでに各紙では「参院選はどうなる」よりも、「参院選後はどうなる」へ関心が移っている。今回の選挙結果に一喜一憂することなく、長期戦で改憲勢力と対峙する覚悟が求められている。(つづく)