改憲世論の変化(後退)に立ち往生する安倍政権、朝日新聞世論調査結果(「安倍内閣の通信簿」2013年8月25日)から見えるもの(その1)、改憲勢力に如何に立ち向かうか(28)

 自民党が政権を奪還して以来、安倍政権では「イケイケドンドン」の一本調子が続いてきた。2012年末の総選挙以降、アベノミクスという“人参“を国民の前にぶら下げて「風評人気」で突っ走ってきた安倍政権は、勢いを駆って2013年夏の参院選でも大勝利を収め、それ以降「怖いものなし」の一人天下を謳歌してきたのである。だが、ここに来て少し息切れが目立つようになってきた。

 アベノミクス実体経済を本当に好転させているのであれば、安倍政権は何の躊躇もなく消費税増税に踏み切るはずだ。だが最近では株価と円交換レートが一進一退を繰り返すようになり、それも外国投資ファンドの手玉に取られている様子がわかってくると(国内投資家は警戒を強めている)、景気回復の「決め球」を持たない安倍政権が消費税増税に踏み切ることは容易でなくなってきた。消費税増税が契機になって景気が一気に悪化し、アベノミクスと言う「風評バブル」が破裂すると、安倍政権に対する国民の「期待」が一挙に「失望」に変わる可能性があるからだ。これがどのような結果をもたらすかは、過去2回の衆参両院選挙における民主党政権に対する国民世論の変化をみても明らかだろう。

 これに加えて、安倍政権の経済成長戦略のひとつである原発輸出・原発再稼働政策についても赤信号が点灯した。福島第1原発事故による放射能汚染水の流出が止まらず、原子力規制委員会から“レベル3”の重大事故に相当するとの指摘を受けたのである。汚染水対策については、これまで政府として何ら責任ある対策を取らず、全てを東電任せにしていきた点では、民主党政権自民党政権もまったく同罪だ。とりわけ2011年12月に「原発事故収束宣言」を出した民主党野田政権の対応は、国民と国際社会を欺いた点で犯罪的であり厳しく糾弾されなければならない。

 こうした国民生活の安心・安全にかかわる経済政策と原発事故対策の両面で「打つべき手」が見つからなくなってきたなかで、改憲を“歴史的使命”だと考える安倍政権は改憲日程を今後どのように具体化していくつもりなのであろうか。8月25日の日経新聞は、参院選前と参院選後の安倍首相と石破幹事長の改憲をめぐる発言を比較して、「改憲急がば回れ」、「まず機運を高める」、「自民、対話集会や説明会」などとその変化を解説している。以下は、安倍首相と石破幹事長の発言の変化である。

参院選前】
 安倍首相:「選挙を通じて96条を変える意味について議論が起り、改正可能な多数を得られれば国民的な議論は高まっていく」(4月19日の記者会見)
 石破幹事長:「参院選で勝った後、何をするか。やはり96条をどう考えるかだ。集団的自衛権もものすごく急ぐ課題だ」(4月10日の講演)

参院選後】
 安倍首相:「まだこの(96条改正の)考え方も多くの方々と共有できていない。腰を落ち着けてすすめていきたい」(7月22日の記者会見)
 石破幹事長:「集団的自衛権イーコール『いつか来た道』でないと理解をいただくためにものすごく時間がかかる」(7月22日、記者団に)

 両者のこの発言をみると、参院選前は首相も幹事長も参院選改憲発議に必要な3分の2議席を獲得すれば、後は自動的に「改憲ロード」が開けるものと楽観していたらしい。ところが3分の2議席の獲得はともかく、参院選後の96条改定に対する世論の反応は思いのほか厳しかった。以前のブログでも書いたように、憲法記念日を境にして(大方の)マスメディアの論調が変わり、憲法学者などを中心とする「96条の会」が発足するなど、「憲法を簡単に変えさせない」との立憲主義の考えが急激に広がったためである。

 この事態は、安倍政権の(安易な)思惑をはるかに超えるものであったようだ。石破幹事長が「改憲対話集会・説明会」の方針を検討し始め、麻生副首相が「改憲は静かにやろう」(「ナチスの手口に学べ?」)と右翼集団の集会で呼びかけたのもこのことを指しているのであろう。安倍政権の当初の「イケイケドンドン」の改憲構想は、少なくとも参院選後の世論の変化によって足止めをかけられ、現在は「立ち往生」ともいうべき状態に直面しているのである。

 改憲に対する国民世論の変化は、安倍政権の改憲日程を狂わせているだけではなく、野党再編、政界再編の動きにも大きな影響を与えている。みんなの党の分裂状態は、改憲世論をどう見るかをめぐっての渡辺代表と江田元幹事長の対立に根差しているし、堺市長選における公明党と橋下維新の微妙な関係は、改憲推進派と改憲慎重派との間の“ズレ”や“齟齬”の反映とも受け取れる。いまや改憲世論の動向は、政局全体を動かすまでの巨大な政治潮流に成長しているのであり、この世論動向を正確に読み解かなければ今後の安倍政権の行方を予測することができない。

 マスメディアの世論調査に対しては、これまで各方面から多くの批判があることは私も承知している。しかし、憲法のような「国民の暮らし」、「国のかたち」を直接に規定する最高法規のあり方に関しては、国民世論がどう反応するかを絶えずチエックしながら議論しなければならない。その意味で改憲が現実のものとして私たちの目前に登場してきているいま、マスメディアの世論調査は貴重な判断材料と言うべきであり、その調査内容と調査手法の検証の上に国民的な議論を展開しなければならないと思う。次回以降は、その検討材料のひとつとして朝日新聞世論調査結果(「安倍内閣の通信簿」2013年8月25日)を取り上げ、そこに見える国民世論の変化を考えてみたい。(つづく)