1(民進)+3(共産、自由、社民)=1(民進)にしかならなかった衆院東京10区補選、これを「一定の効果があった」とする野田幹事長の詭弁は見過ごせない、改憲派「3分の2」時代を迎えて(その21)

衆院補選の翌日、10月24日の野田民進幹事長の記者会見には開いた口が塞がらなかった。各紙が伝えるところによると、記者会見の詳細は明らかにされていないが、野田流の「選挙総括」ともいえる内容の発言なので見過ごせない。短い記事の中から注目しなければならない論点を幾つか拾ってみよう。

1つは野党共闘に関するもので、「協定も結ばない、推薦もいただかないシンプルな一本化だったが、一定の効果はあった。できる限りの協力の中で、各党から支援をいただいた」(朝日、毎日10月25日)というもの。もう1つは選挙構図に関して、「小池都政の信任投票的な動きになって投票した有権者もいたのではないか。国政でストレートに自民対民進の戦いではなくなった」(日経10月25日)という発言だ

かねがね蓮舫代表は、野党候補の一本化は「シンプルな形がよい」と言っていたが、その意味がまさか「協定も結ばない」「推薦もいただかない」ことだとは思いもよらなかった。しかしこんな「シンプル選挙」が果たして「野党共闘」の名に値するのか、また本当に「一定の成果があった」のか、選挙結果に照らして厳密な検証が必要だ。

加えて、今回の選挙構図を「小池信任投票」にすり替える論法は、民進候補の敗因を意図的に誤魔化そうとする悪質な詭弁そのものだ。要するに野田氏は、今回の補選は「小池代理人」との戦いであって「自民対民進」の戦いではない、ただ「小池人気」に負けただけだと言いたいのだろう。

だが疑いもなく、今回の補選は蓮舫・野田執行部が発足してからの最初の国政選挙であり、「選挙の顔」としての蓮舫代表の存在意義が問われる選挙だった。また近く予想される第48回衆院選の前哨戦として、野党共闘が効果を発揮するかどうかの試金石になる選挙だった。

だが、私が東京で見た「野党(民進)候補」のテレビ政見放送は、豊島生まれの豊島育ちを強調する内容が中心で、安保法制やアベノミクスなど国政選挙における与野党対決の政治課題にはほとんど触れられなかった。また野党共闘の「や」の字もなく、最初から最後まで民進候補そのものの演説だった。こんな区議選レベルの戦いでは与野党対決の国政選挙に勝てるはずがなく、また都知事選レベルの「小池代理人」との戦いにも勝てるはずもなかった。

私が今回ブログのタイトルを「1(民進)+3(共産、自由、社民)=1(民進)」としたのは、民進の「シンプル選挙」は野党共闘に名を借りた民進の党派選挙にほかならず、その「イカサマぶり」を見抜いた有権者から呵責のない批判を浴びたと思うからだ。以下、具体例を挙げよう。

投開票日翌日の各紙には、出口調査の結果が掲載される。例えば読売調査によると、東京10区では自民支持層の8割、公明支持層の9割、無党派層の6割が自民候補に投票し、民進、共産の支持層の8割、無党派層の4割が民進候補に投票したという(読売10月24日)。これをみると、民進候補は野党統一候補として野党支持層から大きな支持を受けており、十分その役割を果たしているかのような印象を受ける。しかし「選挙は数」だから、得票数が前回の党派選挙に比べてどのように変化したかを把握しないと、選挙の実態はわからない。

2014年衆院選小選挙区)の東京10区の選挙結果をみると、自民9万3600票、民主4万4100票、共産2万8500票、生活9700票となって、与党9万3600票と野党8万2200票の差は1万票余りだった。これが今回の補選では、与党7万5800票、野党4万7100票と3万票近い大差をつけられたのだ。投票率の大幅低下で与党は1万8千票減らしたが、野党はそれ以上の倍近い3万5千票を失い、民進は前回選挙の民主票程度しか獲得できなかった。つまり、野党共闘で期待したはずの共産、生活相当分の票がすっかり消えてしまったのである。

この結果をみると、東京10区補選の野党(民進)候補の敗因が大幅な投票率の低下にあることは明白だろう。投票率は過去最低の35%となり、前回2014年衆院選の党派選挙61%に比べて19ポイントも落ち込んだ。投票に行ったのは、民進支持者と(党の指示に忠実な)共産支持者だけで、その他多くの野党支持層は無党派層も含めて棄権に回ったのだ。言い換えれば、中身のない「野党共闘」に対して大半の有権者はそっぽ向いたのである。

通常、野党共闘は「1+1」が「2にも3にもなる」と期待される。まして、今回の補選は「1(民進)+3(共産、自由、社民)」なのだから、共闘効果は4、5倍になってもおかしくない。それが「1+3=1」で終わってしまったのだから、今回の補選が野党共闘に名を借りた民進単独の党派選挙だったことを有権者が見抜いていたということだろう。蓮舫・野田執行部は、次期衆院選の前哨戦で「ニセモノ」の野党共闘を演出して国民を失望させ、結果として本番での野党共闘を潰す役割を果たしたと言われても仕方がない(安倍首相の喜ぶ顔が目に浮かぶ)。

補選敗北後も野田氏の態度はいっこうに変わっていない。10月25日の時事通信社のインタビューでは、衆院補欠選挙敗北が蓮舫代表の求心力に与える影響を聞かれて、「影響はない。もともと厳しい選挙だった」と平然と答えている。脱原発政策を掲げるかに関しても、「2030年代ゼロを目指すのは無責任なポピュリズムではない。現実を見据えた中で国民の思いを実現していく」と、依然として原発再稼働を容認する姿勢を崩していない。

また脱原発に踏み切らない理由として、支持団体の連合に配慮しているのかとの質問に対しては、「全く関係ない。連合におもんぱかり、党の基本政策を変えることはない」と否定し、共産党が次期衆院選での共通公約の策定などを求めていることについては、「報道でしか知らない。理念や政策と違うところと一緒に政権を組むことはできない。一方で自民党に対抗していくためには野党間でできるだけの協力をしていくことも合意事項だ。何ができるかを党として考えていきたい」と突き放した姿勢だ。

ただ、野田氏が連合に左右されないと言ったのは事実に反する。朝日記事によれば10月16日の新潟県知事選後の20日、選挙中にはだんまりを決め込んでいた野田幹事長が急きょ新潟市を訪れて「連合新潟」の斎藤会長と会談し、蓮舫代表が連合新潟の支持する与党候補と争った野党候補を応援した「ねじれ」の経緯を説明したという(朝日10月21日)。おそらくは次期衆院選で連合の支持を得るため、釈明に行ったというのがことの真相であり、蓮舫代表の野党候補応援は一時の「ねじれ」であって、党の基本政策は変わらないと約束したに違いない。(つづく)