野党共闘に関するニュースが錯綜している、「民進 共産推薦せず、連合に配慮」(毎日新聞1月12日)と「4野党の総選挙共通政策、始まった実務者協議」(赤旗1月12日)はいったいどちらが本当なのか、国民世論は「脱安倍」へと着実に向かい始めた(5)、改憲派「3分の2」時代を迎えて(その36)

年明け総選挙が遠のいたせいか、このところ野党共闘に関するニュースがほとんど見られなくなった。そのうえ、今日1月12日の毎日と赤旗の記事の内容が正反対なのだから、両紙を読んだ読者はいったいどう判断すればよいか大いに迷うことだろう。まずは記事の内容を紹介しよう。

毎日新聞
 民進党は次期衆院選小選挙区で、共産党との相互推薦を行わない方針を固めた。自由、社民両党との相互推薦は検討を続ける。また、共産党が求める共通公約も政党間の協定とはせず、昨年の参院選で市民団体の要望に各党が応じた形式を踏襲する。支持団体の連合に配慮し、共産党との共闘イメージを薄める狙いがある。複数の党関係者が11日明らかにした。10日の執行役員会で相互推薦は行わない方針を確認。野田佳彦幹事長は9日のBSフジの番組で「自由党社民党は(旧民主党)政権で一緒だった。推薦を出し合うかもしれない」とする一方、共産党との相互推薦は「困難だ」と述べていた。毎日新聞の集計では、民進、共産両党は11日現在で196選挙区で競合する。共産党は「本気の共闘」を掲げて民進党に候補者調整を呼び掛け、相互推薦を求めている。しかし、民進側は支持層離れを懸念。相互推薦には応じずに「すみ分け」にとどめ、競合を避けるための候補者一本化を目指す。昨夏の参院選では、全国32の1人区で民進、共産、自由、社民の4党が候補者を一本化し、11選挙区で野党系が勝利。また、市民団体「市民連合」がまとめた安全保障関連法廃止などを柱とした要望書に各党が調印した。

しんぶん赤旗
 総選挙で掲げる共通政策づくりに向け、日本共産党民進党自由党社民党の4野党は政策担当者による実務者協議を開始しました。(略)昨年7月の参院選前には、共産、民進、社民、生活の4野党書記局長・幹事長が協議。①戦争法(安保法制)廃止と集団的自衛権の行使容認の閣議決定撤回、②アベノミクスによる国民生活の破壊、格差と貧困の拡大の是正、③環太平洋連携協定(TPP)や沖縄問題など、国民の声に耳を傾けない強権政治に反対、④安倍政権のもとでの憲法改悪に反対―を確認しました。(略)また、4野党は市民連合と19項目におよぶ政策協定を結びます。(略)民進党参院選後に代表選(9月)が行われ、蓮舫氏に党首が交代しましたが、野党間の合意は引き継がれます。11月17日には野党と市民連合意見交換会を再開させて、共通政策を市民と野党が力を合わせてつくっていくことを確認しました。さっそく市民連合は12月に共通の政策の考え方を提案し、各野党は「基本的な考え方は共有できる」との認識を表明しています。

 毎日記事のなかにあるBSフジ番組(9日)は私も見たが、民進党野田幹事長の言葉回しや表情からは文字情報では窺い知ることができない真意が伝わってきてよくわかった。果たして翌日の執行役員会での方針決定は、野田幹事長の意向をそのまま反映したものになった。だが、民進党野党共闘に関する基本方針すなわち「共産党との相互推薦は行わない」(自由、社民両党との相互推薦は検討する)、「共通公約は政党間の協定とはせず、昨年の参院選で市民団体の要望に各党が応じた形式を踏襲する」という内容は、共産党の方針と真っ向から衝突することになる。

 こうなると、野党共闘が如何にも順調に進んでいるような赤旗の記事に疑問が湧いてくるが、おそらく事実はその中間あたりに位置しているのだろう。落としどころは、(1)共通政策づくりは進める、しかし政党間の協定にせず、市民連合を媒介にした「合意事項」程度にとどめる、(2)共産党との相互推薦はしない、しかし候補者一本化のための「すみわけ」は協議する――いったところではないか。

民進党の方針は連合への「配慮」に基づくものと毎日記事が報じているように、野党共闘を分断するために連合が果たしている役割は多大なものがある。昨年暮れの毎日新聞特集ワイド「松田喬和のずばり聞きます 連合・神津里季生会長」(12月15日東京夕刊)での神津会長の言い分をきいてみよう。
――戦術としては野党が候補者をたくさん出しても与党に漁夫の利を与えるだけなので、一本化することが望ましいに決まっている。ただ、戦略で言えばもう一度、国民に「民進党に政権を任せたい」と思ってもらわないといけない。それを考えると、共産党が野党各党に呼びかける「国民連合政府」に乗るのは愚の骨頂ですよ。共産党とは目指す国の姿が違うことがはっきりしているのに、政策も含めて一緒にやろうなんてことは絶対あってはならない。
――執行部の要たる蓮舫代表、野田佳彦幹事長の2人と話している限りは、認識にギャップはない。ただ、民進党内にはいろんな考え方があります。目の前の選挙が最大のテーマだという候補者からすれば、共産党が持つ目先の1万、2万の票が欲しいのは事実でしょう。しかし、2大政党制と言ってもあくまで資本主義社会の話です。選挙になって自公両党から「民共」とまとめて言われてしまうと、「資本主義の中で切磋琢磨(せっさたくま)する政党ではない」と有権者に思われてしまいます。55年体制における社会党(当時)のように見られたら、民進党は永遠に浮かび上がれません。

神津連合会長の発言を聞くと、労働組合はそもそも労働者の権利を守り生活を改善するための組織であるはずだが、氏の言動はその域を遥かに超えて、民進党を裏から指揮する「隠れ幹部」の1員であり、さらには自民党の「隠れ選挙対策委員長」の役割を果たしているのではないかとさえ思えてくる。民進党をあくまでも自民党の補完保守勢力(2大政党)にとどめ、資本主義体制を護持しようとする支配層意識が余りにも強烈なのである。

これほどの体制側意識がどこから生まれてくるのか、いま流行のプロファイリングの手法で分析すれば面白いと思うが、不思議なことは連合内部から会長発言を問題視する声が一向に聞こえてこないことだ。連合には日教組自治労などの官公労も参加している。連合の執行部にはこれらの組合幹部も参加しているはずだから、会長の言動に対する批判があってもいいはずだ。また日教組自治労の組合員からの声が上がってこないことも不思議だ。一度、組織内のアンケート調査でもやって連合会長の発言をどう思うか聞いてみるがいい。(つづく)