民進党はなぜ連合に配慮するのか、連合はなぜ野党共闘を分断するのか、民進党野田幹事長と連合神津会長が「大連立」路線で通じていることがその背景にある、国民世論は「脱安倍」へと着実に向かい始めた(6)、改憲派「3分の2」時代を迎えて(その37)

このところ、連合神津会長による野党共闘(分断)について発言がいっこうに止む気配がない。連合は民進党の最大支持団体だから、連合の要求に民進党が従うのが当然と言わんばかりの高圧的な態度だ。まるで民進党が連合の附属政党であるかのような扱いであり、これほど露骨な政党介入は寡聞にして知らない。民進党内部から抗議の一つや二つは出るかと思っていたら、まるきり反応がないのだから不思議でならない。

神津会長の発言は、昨年7月の参院選後、連合中央執行委員会で岡田代表民共連携路線に反対する参院選総括文書を決定したことに基づいている。この間の事情は、産経ニュース(2016年8月22日)が「民共共闘、連合が参院選総括文書で岡田克也代表の民共連携路線に反対! 衆院選は政策の一致が必要」との見出しで詳しく伝えている。
民進党最大の支持母体である連合がまとめた7月の参院選に関する総括文書の原案が21日、判明した。岡田克也代表らが進めた共産党との「民共」共闘路線に関し、全面的な連携や共闘に反対姿勢を示す。党代表選(9月15投開票)が実施されることも踏まえ、次期衆院選民共連携が進まないよう強く牽制する。総括文書の原案では、野党4党が32の改選1人区に擁立した野党統一候補が11勝したことに関して「一定の成果・効果があった」として、岡田氏の努力に一定の配慮も示す。一方で、参院選での野党共闘が改選1人区にとどまったことを念頭に、「(共闘は)全面的に行ったわけではない」と指摘。今後の選挙でもあくまで部分的な連携にとどめるべきだとの考えを示し、共産党との共闘路線がこれ以上拡大しないよう求める。

8月25日、連合は予定通り共産党との野党共闘を強く牽制する参院選総括文書を正式決定した。総括文書では次期衆院選野党共闘に関し「政策の一致が不可欠」と明記し、共産党との関係については「一線を画すことが大原則」とした。神津会長は、25日の記者会見で「共産党とは目指す国家像が全く違う。一緒に手を組んでやることはあり得ない話だ」と民共共闘路線に厳しくクギを刺した(産経ニュース、8月25日)。そしてこの日を境に神津会長はあらゆるマスメディアに露出し、野党共闘(分断)発言を積極的に打ち出すようになっていくのである。

神津会長が野党共闘(分断)にかくも前のめりになるのは、連合が表向きは自民・民進両党による「2大政党制」を唱えているものの、事実上は自民・民進の「大連立」を目指す方向に舵を切っていることが背景にある。神津氏は、これまで自民党との「大連立」を公然と唱えることはなかった。ところが昨年8月の参院選総括文書の決定を契機に、大連立の可能性についても大っぴらに語るようになったのである。産経新聞が神津会長に対して行ったロング・インタビュー(産経ニュース、2016年8月23日)のなかで、同記事は憲法改正論議自民党との大連立についても触れ、神津会長の「憲法はしっかりと議論すべきだ。参院選改憲勢力が発議に必要な3分の2を占めた中で一切議論しないという方がおかしいだろう。大連立は条件が整うならばあっていい話だ」との発言を引き出している。

 この発言は、神津会長が衆参両院で改憲勢力が3分の2を占めた現状を前提に憲法改正論議を促していること、条件付きながら民進党自民党との大連立を肯定していることで、もはや連合と自民党との間には壁がないことを示している。当然のことながら、自民との大連立構想が視野に入ってくれば、その障害となる野党連携や共闘は早いうちに芽を摘んでおかなければならない。神津氏の頑ななまでの野党共闘(分断)に関する発言はそのような戦略に基づくものであって、決して個人的な意見でもなければヒステリックな発言でもないのである。

 事実、それを裏書きするような出来事が昨年末から進行している。2012年の第2次安倍政権発足以来、安倍首相は一貫して連合との会談を拒んできたが、12月22日に連合神津会長を首相官邸に招き入れて会談の機会を設けた。首相は「共に理解し合いながら進めなければ実を上げられない。これからも様々な提言や意見を賜りたい」と呼びかけ、神津会長も「非常に意義深い話し合いだ」と応じ、首相と労働政策などを協議する「政労会見」の再開を求めたという(日経新聞、2016年12月28日)。同紙はまた、政府・自民党と連合が急接近している背景についても次のような興味深い解説を加えている。 
自民党は昨年10月の神津氏の会長就任以来、二階俊博幹事長ら幹部が連合側と接触を重ねてきた。今では連合執行部が自民党の会合に出て、政府の施策を「連合の政策と共通点が多い」(逢見直人事務局長)と歓迎する。(略)連合の民進党離れはすでに進んでいる。連合執行部内では、全国約680万人いる組合員のうち若者を中心に自民党支持が3割近くまで増えているというのが共通認識だ。執行部には「賃上げできなかった旧民主党を応援する理由はない」との厳しい意見が寄せられる。(略)連合内では政権交代が当面期待できそうにない民進党ではなく、与党との関係強化に活路を見出すべきだとも声もある。

連合内部ではまだ「大連立」に関する組織的討議は始まっていない。だが連合執行部と政府・自民党との協力関係がこのまま進んでいけば、遠からず連合が触媒となって民進党自民党が大連立に向かう可能性(あるいは大連立志向の右派グループが旗揚げする可能性)が出てくる。神津会長の野党共闘(分断)に関する発言は大連立を視野に入れたものである以上、次期衆院選における野党共闘の行方はその帰趨を占うものになり、蓮舫・野田民進党執行部がどのような方向を打ち出すかが注目される。(つづく)