野党共闘に対する共産党大会の熱気と民進党の落差、安住代表代行挨拶と蓮舫代表発言の行き違いは何を物語るか、国民世論は「脱安倍」へと着実に向かい始めた(7)、改憲派「3分の2」時代を迎えて(その38)

共産党は1月15日から4日間、静岡県熱海市で第27回党大会を開いた。今回の党大会の特徴は、共産党の招きに応じて、民進党自由党社民党の代表者が初めて出席し、それぞれメッセージを述べたことだ。民進党安住代表代行は「わが党と共産党には隔たりがある政策があるのは事実だが、真摯に話し合い、一定の幅の中に寄せ合うことは可能だ。できるかぎりの協力を行うための話し合いを積極的に進め、来るべき決戦に備えたい」と述べた。自由党の小沢共同代表は「野党が緊密に真剣に共闘していかないと、政権交代を実現することはできない」、社民党の吉田党首も「野党4党が固く連携して安倍政権に対峙し、衆議院の解散・総選挙に追い込んでいきたい」と応じた。共産党志位委員長は「野党連合政権は焦眉の課題として、『野党連合政権』を作る可能性が生まれている」と述べ、野党4党による政権の実現を目指す考えを強調した(各紙、2017年1月16日)。
 
大会の模様を伝える共産党の機関紙「赤旗」は連日、来賓の挨拶や代議員の発言を通して「野党共闘」への期待と熱気を盛り立てた。かって政党間の実力を無視した主観的なスローガン「自共対決」を掲げていた頃からみれば、段違いの成長だと言えるのではないか。「自共対決」は対自民の主役に自らを位置づけ、野党各党の存在を無視するもので「独りよがり」のスローガンとして極めて評判が悪かった。政治的リアリズムに立った今大会の「野党共闘」は、共産党の実力相応のスローガンだと言え、ロマン主義から政治的リアリズムへの回帰として大いに歓迎できる。

マスメディアも「現実」に戻った共産党を評価してか、今回はかってなく大きな紙面を割いて大会を取り上げた。朝日、毎日、読売各紙は、前向きであれ、後ろ向きであれ、社説で論評したことの意義は大きい。3紙が共産党大会を同時に取り上げることなどかってなかったことだから、それだけでも社会的影響力が増したと言うべきだろう。もっとも産経新聞は紙面こそ大きかったが、肝心の大会模様は取り上げず、会場までの道筋がどうかなど「周辺記事」で茶化した(誤魔化した)のが面白かった。大会の内容をどう報道するか、デスクが判断に迷ったからだろう。共産党を決めつけることで定評のある産経が迷うほど、今大会のイメージの変化が大きかったことは政党としての成長を示すものだ。

だが大会初日のこの日、自らは共産党大会に出席せず、安住氏を文字通り「代行」として出席させた民進党蓮舫代表は、北九州市で記者団に対し、共産党が実現を呼びかける「野党連合政権」について改めて否定的な考えを強調した。「安倍政権を倒すことに一番力を注ぐ。そこから先の話は、残念ながら共産党と考えが違う」と強調したのである(毎日新聞、1月16日)。安住氏の挨拶に(ことさら)冷水を書けるようなこの発言は、野党共闘に対する民進党の立ち位置を余すところなく示している。要するに「お付き合い」はするが、「それ以上の関係」にはならないとの明確なメッセージなのだ。

その背景には共産党大会直前の1月10日、民進党執行委員会が次期衆院選小選挙区で自由、社民両党との相互推薦は検討するが、共産党との相互推薦を行わない方針を固めたことがある。また、共産党が求める共通公約も政党間の協定とはせず、昨年の参院選で市民団体の要望に各党が応じた形式を踏襲する方針も確認した。この方針を伝えた毎日新聞は「民進 共産推薦せず 次期衆院選、連合に配慮」(1月12日)との見出しをつけて、蓮舫・野田執行部と神津連合会長が基本的に同一線上にあることを示唆した。
 野党共闘に対する民進党の基本方針は恐らく変わらないと思う。安住代表代行には「前向き」の発言をさせ、連合神津会長にはそれを「真っ向反対」の発言をさせる。そして野田幹事長はその中間に位置して「あいまい」な態度をとり続け、結局は「あいまい共闘」でいいところ取りをする作戦を考えているのだろう。民進党の政治方針に遠慮なく介入する神津連合会長の野党共闘(分断)発言が、実は野田幹事長の意向を代弁したものだと理解すれば、民進党が連合に「配慮」する理由もよくわかるというものだ。

 だが、政治の世界はそれだけで進まないところに面白さがある。今回の野党共闘の行方を象徴する選挙区には、共産党が「必勝区」と位置付ける京都1区がある。地元の京都新聞は、昨年末に京都1区で起こったある街頭演説会について、「野党国会議員、京都で演説会 『民共共闘』波紋」と報じた(2016年12月26日)。この顛末記事は面白いので全文掲載しよう。
 ―民進、共産、自由の野党3党の国会議員による合同演説会が25日、京都市下京区の京都駅前で催された。民進に合流前の「維新の党」代表を務めた松野頼久衆院議員、共産の国対委員長で引き続き京都1区から立候補予定の穀田恵二衆院議員(比例近畿)、自由の小沢一郎代表が並び、次期衆院選での共闘の重要性を強調した。一方、民進は、地元の京都府連の関係者が「民共共闘」に反発して全く姿を見せず、共闘に対する姿勢の違いがあらわになった。
 ―京都1区では「必勝区」と位置づける共産が先に穀田氏擁立を決め、民進との候補者調整を模索する。一方、民進府連は、前原誠司衆院議員(京都2区)ら保守系議員がおり、「『非自民・反共産』を掲げて保守層に支持を広げてきた。組織基盤が崩れる」(党地方議員)という意見が多く、12月上旬からは、前京都市議の公認申請に向けた手続きを進めている。
 ―演説会は共産の呼び掛けに応じる形で開かれ、小沢氏や松野氏がマイクを握った。松野氏は「京都1区の共闘がなければ、全国の共闘もない」と、京都1区の動向が全国の試金石になると言い切った。小沢氏も「野党が一体になって戦えば、自公に代わる政権をつくれる」と野党共闘の重要性をあらためて指摘した。
 ―だが、民進府連は松野氏に対し、演説会への参加辞退を要請してきた。演説会終了直後には、泉健太会長(衆院京都3区)の名で「党本部や府連に連絡もなく計画された」と不快感を示すコメントを発表。「これからも非自民・反共産の立場で活動する」と、京都での民共共闘を真っ向から否定した。府連は24日にも幹部会合を開き、公認申請手続きを加速する方針を確認している。
 ―一方の共産は、今回の演説会が京都での共闘実現の追い風になると期待する。穀田氏は記者団に「京都で野党と市民の本格的な共闘を見せた意義は大きい」と強調。民進府連の動きに対し「新しい試みをする時はいろんなことが起きる。気にしていたら何もできない」と語気を強めた。共産は同じ時間に城陽市で府党会議を開いていたが、党府委員会はホームページなどで呼び掛け、演説会場には支持者や議員が多く参加した。渡辺和俊・党府委員長は会議で「政党間協力に向けて独自に強めてきた努力が、(合同演説会という)画期的な成果に実った」と力を込めた。

 この京都1区の3野党合同演説会の関しては、後日談(というよりは直後談)が面白い。これも京都新聞の記事(12月27日)であるが、野田幹事長が「民進幹事長、松野議員に苦言 京都1区で『野党共闘』」と、早速この合同演説会に嚙みついている。
 ―民進党野田佳彦幹事長は26日の記者会見で、同党の松野頼久衆院議員が25日に京都市下京区の京都駅前であった共産、自由両党との合同演説会で次期衆院選の京都1区での野党共闘を訴えたことについて「京都は非自民、反共産で長く戦ってきた土地柄。党京都府連の理解を得ることなく、個人の判断で行動したことはきわめて遺憾だ」と苦言を呈した。野田氏は府連から事前に松野氏を止めるよう要請があったことを明かし、「電話で強く自制を促したが、残念ながら行ってしまった。自分の守備範囲でないところで同僚を困らせるのは、政治家のデリカシーの問題だ」と批判した。京都1区では「必勝区」と位置づける共産が党国対委員長穀田恵二衆院議員(比例近畿)の擁立を決定している。これに対し、共産との共闘に反発する民進府連は前京都市議の公認申請に向けた手続きを進めている。

 京都はもともと複雑な政治構造を持つ地域だが、民進党京都府連の態度は「共産党とは共闘しない」と大会決議をするほど明確そのものだ。その京都でこんなことが起るのだから、「野党共闘は一寸先が闇」ということにでもなるのだろうか。