トランプ政権を上回る安倍政権の暴走は目に余る、「森友・加計疑惑」はなんのその、共謀罪法案の強行採決に突っ走る安倍政権は破局しかない、国民世論は「脱安倍」へと着実に向かい始めた(26)、改憲派「3分の2」時代を迎えて(その57)

 トランプ大統領の側近、フリン元補佐官のロシアとの秘密交渉を調査していたコニーFBI長官が電撃的に「首」になった。馘首に踏み切ったトランプ大統領はいま、空前の国内世論の批判に曝されている。トランプ政権が事件をもみ消すために司法妨害をした事実が明らかになれば、ニクソン大統領を辞任に追い込んだウォーターゲート事件にも匹敵する大事件となる。すでにその波紋は、ウォーターゲート事件をもじった「ロシアゲート」などとネーミングされて、アメリカ国内はおろか世界中に広がっている。

ことは政治事件の域に止まらない。昨今のニューヨーク株価の暴落にもみられるように、ロシアゲートは今やアメリカ経済の根幹を揺るがすまでの事態にまで発展してきている。アメリか議会で予算執行の目途がつかなければ、雇用も福祉も大打撃を受けることになる。日本の株価もアメリカ政治の停滞に連動して輸出企業を中心に激しい乱高下の波に洗われ、安定的な経済運営が阻害される状況が続いている。

しかしその一方、トランプ大統領の「盟友」である安倍首相も負けていない。「森友疑惑」に加えて、かねてから話題に上っていた「加計疑惑」が5月17日の朝日新聞スクープによって暴露されるなど、安倍政権を取り巻く「黒い霧」はここにきて急速に厚みを増してきている。韓国の朴大統領と同じく「古い友人」や「腹心の友」が暗躍する世界が、いま漸く国民の前にその全容を現そうとしているのである。

不思議なことは、これほどの疑惑に包まれた安倍首相がそれに一切答えず、改憲策動や共謀罪法案の強行採決にひた走りしていることだ。どんな証拠物件が暴露されても「知らぬ存ぜぬ」で押し通すその政治姿勢は、トランプ大統領に勝るとも劣らない強気の政権運営であり、マスメディアの批判も国民世論の批判もまるで眼中にないとしか言いようがない。

韓国では激しい国民世論に押されて憲法裁判所が朴大統領を罷免し、「古い友人」たちは一網打尽に逮捕された。その結果、政権交代が実現し、文大統領が圧倒的な支持を得て前政権の腐敗体制の一掃に乗り出すことになった。司法や検察が果たすべき権能を発揮し、朴政権の利権構造や癒着関係を洗い出したことがその背景にある。「悪いことをすればお縄に掛かる」という、ごく常識的な世界がそこに生きているのである。

政権が交代すれば、政府の高級官僚が悉く変わるというアメリカの「スポイルシステム」の下でも、司法や検察は大統領府から独立した姿勢を維持している。司法省がトランプ大統領の意向を無視し、ロシアゲート解明のための特別検察官を任命したのがその一例だ。議会も与党(共和党)といえども大統領の言いなりにはならない。オバマケア廃止法案は共和党の賛成が得られず提出前に葬られたし、与党は特別検察官の捜査にも全面的に協力する姿勢だ。共和党内には早くもペンス副大統領への交代話が出ているという。

彼我の世界に比べて日本ではどうか。「安倍1強」体制の下で自民・公明の与党はもとより官僚機構からの見るべき反撃もなく、検察も警察もいっこうに動かない。国民全体の奉仕者であるはずの国家公務員が安倍政権の「究極の私兵」と化し、いまや野党や国民の目から安倍首相や昭恵夫人の「古い友人」や「腹心の友」を庇うことに必死だ。安倍首相の人を喰ったような発言や不遜極まる態度の背景には、このような「悪いことをしてもお縄に掛からない」という日本の政治・官僚機構の腐敗があり、そこに安住できる安心感があるからだ。こんな事態を『官僚たちの夏』を書いた城山三郎氏はどう見ているだろうか。また、官僚としての矜持を失った先輩たちの姿に若い官僚たちは何を感じているのだろうか。

それにしても、これだけの安倍政権の腐敗を前にして何も語らない読売・産経などの右翼ジャーナリズムや「アベサマのNHK」の体たらくは目に余る。NHKのニュースや報道番組などはもはや正視に耐えないレベルにまで堕ちているし、ニュース解説ときたらただ時間を潰しているだけの存在でしかない。国会討論会の司会は安倍首相の「鮨友」が仕切っていて、常に野党の発言を牽制し、与党の言い分を側面援助している。これでは国民世論が盛り上がらず、安倍内閣の支持率も自民党支持率も下がるはずがない。安倍政権の「1億総活躍社会」は「1億総馬鹿社会」と言い換えてもいいぐらいの惨状なのである。

だが「明けない夜はない」ように、暗闇はいつか晴れるし、黒い霧もいつまでも続かないだろう。それが何をきっかけにして始まるは今のところ残念ながらわからない。ひょっとすると、それは明日明後日にも起こるかもしれないし、このまま安倍政権が居座りを続けて日本全体が暗闇の世界に引きずり込まれていくかもしれない。そんなことを国民は許さない――と思いたいが、そう確信できないほど日本の暗闇は深い。誰か「正義の味方」が現れてバッタバッタと悪人どもを征伐してくれないだろうか。(つづく)