柳の下に「二匹目のドジョウ=内閣支持率回復」はいない、「信なくば立たず」(孔子論語)の言葉を引いた安倍首相の嘘つき会見、国民世論は「脱安倍」へと着実に向かい始めた(33)、改憲派「3分の2」時代を迎えて(その64)

 各メディアが6月16日から18日にかけて行った世論調査で、安倍内閣の支持率が急落した。安倍首相御用達の読売新聞49%(−12ポイント、以下同じ)を筆頭に、共同通信44.9%(−10.5)、毎日新聞36%(−10)、産経新聞47.6%(−8.5)、日経新聞49%(−7)、朝日新聞41%(−6)と軒並み10ポイント前後の落ち込みだ。

 この結果を見た安倍首相は、自民党幹部に「まあ、こんなものでしょう」と言い、首相官邸幹部も「平和安全法制(安全保障関連法)の時も10%ぐらい下がった。今回も想定内の結果だ」と平気を装っているらしい(朝日、6月20日)。しかし、別のところではこうも語っている。「ああいうふうに報道されたらしようがない。スキャンダルでも何でもないことをそう仕立て上げられた」「あの時と同様、また盛り返すしかない。ぼちぼちいくしかないね」(産経、6月20日)。どちらが本音なのか知らないが、とにかく支持率はいずれ「回復する」と思っているところがミソだ。

 とはいえ、表面上は一応反省する振りでもしなければと考えたのか、通常国会を終えた6月19日の記者会見では、どこかの猿回しの「反省ポーズ」よろしく、冒頭からそれらしき言葉をふんだんに使って「反省」のパフォーマンスをやって見せた。
「政策とは関係ない議論ばかりに多くの時間が割かれた。国民の皆さまに大変申し訳なく感じる」
「政権奪還後、私は建設的な議論を各党各派に呼びかけた。しかし、この国会では建設的議論という言葉からは大きくかけ離れた批判の応酬に終始した」
「印象操作のような議論に対して、つい強い口調で反論してしまう。そうした私の姿勢が、政策論争以外の話を盛り上げてしまった」
「何か指摘があれば、その都度、国会の開会、閉会にかかわらず、政府として今後も分かりやすく説明していく」などなど...(各紙、6月20日)。

 そして極め付きは「信なくば立たず」との論語の言葉を引いて、首相が国民の政治不信を晴らす「決意」を表明したことだ。各紙は、この発言を余りにも荒唐無稽なものとでも受け取ったのか、なぜか取り上げていない。だが、私はこの言葉を安倍首相が記者会見で堂々と発言する有様をテレビニュースで見て仰け反った。政治不信をもたらした張本人が、あろうことか「信なくば立たず」という言葉を恥じらい気もなく言ってのけるド神経に度肝を抜かれたのである。

 だいたい、国権の最高機関である国会の審議を徹底的に無視して政治不信を拡大してきたのは誰か。「森友疑惑」や「加計疑惑」関連の野党質問に対しては、事実調査もしないで「印象操作だ」「質問に責任が取れるのか」と逆に攻撃する始末、いったいどちらが質問者でどちらが答弁者だかがわからない。「丁寧に説明責任を果たす」と口先では言いながら、野党の質問にはヤジを飛ばし、自分にとって不都合な質問には何度問われてもまともに答えない。質問とは無関係の話を延々として追及をかわし、時間を空費させるだけだ。

 「あるもの」を「ない」と言うのも首相の常套手段だ。文科省文書の中で明らかになった加計疑惑絡みの「総理のご意向」文書についても、最初から理由も示さないまま一方的に「怪文書」と決めつけ、調査の対象にしようともしなかった。また「ある」ことがわかってからも、それが本物かどうかを調べようとしないで、真偽不明の状態に持ち込もうとした。その一方、関係文書を「徹底的に調査する」と言いながら、肝心足元の内閣府だけは「対象外」にして聖域扱いし、真相を隠蔽し続けている。おまけに真実を暴露した関係者には個人攻撃を仕掛け、「守秘義務違反」などと脅かすのだからたまったものではない。要するに、自分にとって不都合な事実は一切隠蔽し、このまま「逃げ切る」算段なのだ。

 ところが、首相の記者会見が終わった6月19日午後10時、NHKの「クローズアップ現代+」で「10/21萩生田副長官ご発言概要」なる文書の内容が詳しく報道された。NHKが今回の「加計疑惑」に関して初めて報道機関としての存在意義を示した歴史的な番組だと言っていい。コメンテイターには社会部記者と政治部官邸キャップが出ていたが、社会部記者の確信に満ちたコメントに対して官邸キャップの方は官邸側の主張をぼそぼそと繰り返すばかりで、いったい何のためにこの番組に出ているのかわからない。おそらくNHK上部や首相官邸への「アリバイ証明」として駆り出されたのであろうが、見るも哀れな政治部の実態を示しただけだった。

 萩生田「ご発言」文書は、「総理のご意向」文書に勝るとも劣らない重要文書であることは間違いない。文書の確認に時間が必要だったのか、各紙は6月20日夕刊で萩生田「ご発言」文書の存在を1面トップで取り上げ、その内容が詳しく紹介された。その要旨は以下のようなものだ(朝日、6月20日夕刊)。
 「内閣府や和泉総理補佐官と話した。和泉補佐官からは、農水省は了解しているのに、文科省だけが怖気づいている。何が問題なのか整理してよく話を聞いてほしい、と言われた。官邸は絶対にやると言っている」
 「総理は『平成30年4月開学』とおしりを切っていた。工事は24カ月でやる。今年11月には方針を決めたいとのことだた」
 「何が問題なのか、書き出してほしい。その上で渡邊加計学園事務局長を(文科省担当の)浅野課長のところへいかせる。農水省が獣医師会を押さえないとね」

 この萩生田「ご発言」文書に関して、菅官房長官は6月20日午前の記者会見で、「総理は全く関与していないと明快に申し上げていると述べ、首相自身による会見などでの説明については「考えていない」と明確に否定した。安倍首相が19日夕、国会閉会を受けて行った記者会見で「今後、何か指摘があれば政府としてはその都度、真摯に説明責任を果たして参ります」と明言した翌日のことである。

 過日行われたイギリスの総選挙では、メイ首相が公約を違えたことで「嘘つき首相=メイ・ライアー」と批判された。それが保守党敗北の根本的原因になったことは記憶に新しい。わが国でもいよいよ「嘘つき総理=アベ・ライアー」との評判が広がる日がやってきたようだ。(つづく)